第148話 マンイーター・アリゲーター

「カナデ様、あのマンイーター・アリゲーターは噛む力は強いですが、開く力はさほどないはずです!」


 あのワニの名前だろうか? なんて物騒な……。


「そうなんですか? 知っているってことは、もしかして何か打開策が!」


 流石ギルド職員のエリート! こんな時はしっかりと頼りに……。


「いえ……。ひとまず私が知っている情報を報告しただけです。カナデ様! 男の子なんですから何とかしてくださいよ!」


 ──おい、それは無茶振りだろ! 


 知ってることって言っても、名前と技名と、身体の特徴を一つずつ説明しただけだろが! 

 そんなんで倒せたら冒険者はいらない……って、言ってる場合じゃないな。このままだとティアも襲われる!


 俺は、正面に入り込まない様、回り込みながら全力で走り出した。


 巨体の為、鈍足なのか? 相手の旋回より、俺の足の方が早い……。

 ──よし、側面を取ったぞ! ここなら攻撃は届かないんじゃないか?


 しかし、その読みは少々甘かったようだ……。


「──うをぉ!」


 攻撃が届かないと思ったのだが、マンイーター・アリゲーターが大きく身体を横へとしならせると、先程の鈍足が嘘のように素早く俺に向きなおったのだ……。


 何とか手を出そうとしたのを踏み止まり、距離を取ることには成功したのだが。──これは参ったな……。全然隙が見当たらないぞ?


 足を止めるのは危険だと思い、俺は相手の攻撃を避ける事が出来そうな位置で、周囲をグルグル回ることにした。


 目の前ではまたも歯をカチカチと鳴らしながら、ゆっくりと俺に向うように動いている……。──もしかして、俺がバテるのを待ってるのか? コイツ……さっきのフェイントと言い、頭まで切れるのかよ!


 もしこんな時にミコがいたら……残心で陽動を仕掛けながら相手のスタミナを奪うことが出来たかもしれないのに。

 

「弱音を吐いている場合じゃないな!」


 今は、手持ちの手段で何とか打開策を考えないと……。


 そんな時だった。激しい爆発音と共に、魔物の方角から強い風が吹き荒れる。一瞬だけだがヤツの足が浮いたのだ。──ティアの魔法か!


 俺はその隙を見逃さず──すかさず前に飛び出た!

 浮いている片側の足が地面に降りる前に、無銘を抜き刹那の斬撃を二度お見舞いさせたのだ……。


「──くそ、浅い!」


 斬りつけはしたが、体に潰されることを恐れ最後まで踏み込むことが出来ない。

 斬撃は、マンイーター・アリゲーターの内蔵まで届かず、肉の表面を斬り取る事しか出来なかった。──くそ! ビビっちまった!


 無銘による斬撃が、かなり痛かったのだろう「ゴオォォォ!」と、雷が落ちたかのような悲鳴を上げ、マンイーター・アリゲーターが横向きに転がってきた。


「あぁもう! 勘弁しろよ!」


 巨体に引かれないよう、ヤツを背に全力で逃げ回る……。

 最後まで踏み込んでいて、絶命させれなかったら今頃これで潰されていただろう。


「ティアさん……ティアさん! ティア~! 煙幕! 煙幕みたい魔法を!」


 マンイーター・アリゲーターは、横向きに転がりながらも明らかに俺を追尾してきている。──こんな攻撃ありかよ! 流石異世界産ワニ。動きまで想定外だ!


「アモシーエラ!」


 ティアが唱えた魔法名が聞こえた……すると目の前に土煙が上がり、俺はそのまま中に突っ込んだ。


 マンイーター・アリゲーターは砂塵を見て転がるのを止めたようだ……。俺を見失ったのであろう。


 これは俺一人じゃ手に負えない……ここはティアとタイミングを合わせ、殺るしかないな……。


 砂塵を抜け、ティアの元まで向かった。思い付いた唯一の策……っと呼べたほどのものでもないが、俺は彼女にそれを伝えた──。


「──正面からって……カナデ様本気ですか? どこから攻めても危険だとは思いますが、あのやたら大きな口が何より一番危険な場所なのですよ?」


「だからこそです……どんな生き物でも、大技の後には隙が出来るものですよ?」


 まぁ……大技の後でもないんだけどな?


「それだって……タイミングが一歩でもずれれば、カナデ様が……」


「その時は刺し違えてでも倒しますよ……念のために、ポーションの準備をお願いしますね?」


 例え治るのが分かっていても、噛られるのは嫌だからな……ここは決めなければ……!


「頼みますよ? ティアさん。あの砂塵が消えたら……突撃します! 合図で魔法を……」


 台詞を言い終わる前に砂塵が晴れていく……。こんな時も決まらないのな!


「──行きます!」


 俺はそれだけ言葉にし、無銘を左手に持ちマンイーター・アリゲーターへと真っ直ぐ突っ込んでいった。


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