第147話 ワニの魔物
飛び出したものの、まずは何とか注意をこちらに引き付けないと!
足元にある石を拾い、それを投げつけた。
投げた石はレーザービームのように、ワニに向かい真っ直ぐと飛んで行った……と思ったのだが……。
ワニの魔物はしばらくして歩みを止めたものの、俺はその挙動の遅さに違和感を感じた。
当たった音も聞こえない……本当に当たったんだよな?
どうやらこちらに気づいた様だ、のっそりとこちらを向き、歯ぎしりをするように音をカチカチと鳴らし始めた。──静かにしろよ! ユニコーン達に気づかれるだろ?
すると、しばらく動かずにいたワニの魔物が、こちらではなくまたトゥナ達の方に歩き出したのだ。
そう言えば何処かで、人がワニから逃げる動画を見たな。
怒りでもしないかぎり、スタミナが少ないためか追いかけるのをすぐ諦めるやつ……。
「くそ──なら怒らせたらいいんだろ!? これならこれでどうだ!」
マジックバックから日中使った虫除けを出し、ワニに向かって投げつけた。──こいつなら匂いであの魔物も怒るはず…………あれ?
微かにガラスが割れる音がして、目の前のワニが振り向いたけど……。割れた音に、若干のタイムラグがあったような。
当初の狙い通り、ワニが足をバタつかせこちらに向かってきている……ゆっくりと、ゆっくりと?
しかし俺は、一つ重要なことを忘れていた。
「おい……おいおいおい!!」
徐々に近づいてくるワニの魔物……どうやら足が遅いのではなく、俺とヤツの間に、そこそこの距離があった様だ。
暗くてよく見えなかったんだな?
ワニの魔物が近付くにつれて徐々に大きく見えて、本来の大きさを理解することになった。──わ~ゾウさんより大きい。そうだった……今まで何度も経験しただろ? ここは異世界なんだ、地球での常識は通用しない。
──って現実逃避してる場合じゃない、逃げないと!
慌てて後ろを振り反ったのだが、俺は咄嗟に、ティアが藪の向こう側に居ることを思い出した。
このまま俺が逃げれば、標的が彼女になるかもしれない……それは避けなければ!
無銘を握り抜刀の構えを取る。もう俺が斬るしかないと思ったのだ。
「カナデ様、正面からは駄目です!」
ティアの声に合わせたかの様に、その巨体に似合わない速度で加速し、口を開き飛びかかる!──そんな動きが出来るのかよ!
相討ち覚悟なら、カウンターで十分斬れないことは無いだろう……しかし、斬ったとしてもソノ巨体に潰されてしまう。ワイバーンの時の二の舞だ!
恐怖に駆られるも、逃げ出す選択肢は無かった。
そして既に、回避行動は間に合わない段階まで来ている……相討ち覚悟で皆を守って!
覚悟を決めたその時、すぐ近くで謎の爆発音が響いた。その直後──。
「──っぐ!」
俺の体は、訳も分からず空を舞ったのだ!
謎の衝撃により、偶然にも避ける形となった。
目の前では、巨大なワニが横切った。
先程まで俺が居たところを通過し、ワニの魔物はティアがいた場所に土煙をあげながら突っ込んでいた……。
「──いって……! って、ティアさん! 大丈夫ですか!」
落下の際、ぶつかったところが痛むもののそれどころでは無かった。
俺が藪から飛び出す前にティアと居た場所……。そこが、巨大ワニの攻撃によりひどい有り様となっていたのだ。
「ティアさん……ティアさん! 返事をしてくれ──ティア!!」
あんなものの直撃を受けたら、ただで済むはずがない……。声を荒げ、叫ばずにはいられなかった。
俺が守ることが出来ていれば、彼女に被害が及ぶことは……。
「──呼びましたか、カナデ様? そうそう、派手に飛ばしてしまいましたが、大丈夫ですか?」
「ティ……ティアさん!」
先程までジャングルの中にいたティアが、すぐ後ろに立っていた。それも傷ひとつ無く……それを見て、口から安堵の息が漏れた。──良かった……本当に良かった!
「それにしても、いつの間に俺の後ろに……」
俺の問いかけに、彼女は自身の上着をめくった。
なんとティアはその下に、Tシャ……シルフの衣を身に付けていたのだ。
「流石に飛ぶには至りませんが、私は風魔法の使い手です。これとは相性が良いので、跳躍ぐらいなら可能なのですよ。それも何度も、とはいきませんが……」
そうか、もしかしてさっき助けてくれたのはティアの魔法だったのか。──って、異世界に来て一番初めに受けた攻撃魔法が、味方のものとか……ネタでしかないだろ?
ワニの魔物に視線を戻すと、地面を削りながらも大樹に噛りついてるようだ。下敷きになってたらミンチになってたかもな……?
噛みつかれている大樹からは、ミシミシと悲鳴をあげるように音がなっている。──どれだけ噛む力が強いんだよ、あんなもん食らった日には!
そんなことを考えている──その時。
なんとワニの魔物は、その巨体を捻り身体を木の幹もろとも回転させさせたのだ!!
無惨にも大樹の根本より上は引きちぎられ、木っ端微塵に砕け散った……。
「──デス……ロール」
ティアがワニの魔物の行動を見て、不吉な技名を口ずさんだ。
おいおい、噛みつかれた日には軽々身体を持ってかれるぞ! それにあの全身筋肉のような身体……巨大な体も相まって、体当たりのような攻撃でも必殺技技みたいになってる。どうしたものか?
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