第146話 ユニコーン2

 星々と月明かりの下に現れたユニコーン。

 目の前のその状況は、完全に想定外であった。


「ユニコーンさんが……二頭も居ます~」


 ハーモニーの呟く通り、驚くことに目の前のユニコーンは二頭いたのだ。


 様子を見るにつがいなのだろうか?

 一頭のユニコーンが、もう一頭を追いかけ回しているようにも見えるが……。


「あの後ろのユニコーン、アプローチが凄いですね。カナデ様より男らしいです……」


 余計なお世話だ。なんだったらここで女々しく泣いてやろうか?


「それじゃ~カナデ君、私達行くわね?」


 そう言いながらミコを俺から受け取り、胸元に存在している隙間に納めた。

 そしてその姿を見て、ハーモニーが自分の胸をペタペタと触っている。──前にも似たようなことが。胸……育ったかな?


 その後三人は、浅瀬にいるはずのユニコーンの所に向かって行く。

 その時のハーモニーの瞳が、彼女の胸の成長を物語っていた。──頑張れ……ハーモニー。


 彼女達が離れると、流石に月明かりや星明かりでは少々見えづらいな? そうだ、こんな時こそ。


「──力動眼!」


 魔力が持っていかれる感覚と共に、視界の色が代わり風景が鮮明に見える。──よし、彼女達の様子が分かるぞ? 力動眼、中々便利だな……。もしかしたら、初めてのチートスキルってやつじゃないだろうか?


 湖まで行くと、水面を揺らしながらも三人は怒らせないように静かにユニコーンに近づいている……。


「カナデ様見えてるのですか? 私はユニコーン達は輝いてるので見えるのですが……フォルトゥナ様とハーモニー様が見えません、どうなってるんでしょうか?」


 ティアからは彼女達が見えなくなったようだ、ユニコーン達は自身が発光でもしているのかもしれないな……。


 近付く彼女達に、ユニコーンもどうやら気付いたようだ。

 おいかけっこをやめて、トゥナ達をじっと見ている……。──警戒しているようだな。トゥナ達が距離を詰めるのを、いやがっているようにも見える。


「警戒はされてるみたいだけど……今は逃げだすほどでも無いようです」


 トゥナの口元が少し赤っぽく見える。ユニコーン達に話し掛けているのだろうか? その時だ──。


「──動いた!」


 両者は徐々に、距離を詰めて行ってる……。

 トゥナとハーモニーのチョイスはやはり良かったのかもしれない、心を許しているようにも見える。


「カナデ様……私にも、もっと情報を下さいよ……」


「あ、あぁ。今、二頭と接触したよ。ミコも出てきたみたいだ……交渉してるはずだけど」


 ここから彼女達まではかなりの距離がある。

 夜の為か明確な距離はわからないが……五十メートル程か?

 流石に声は聞こえないな……無事に交渉が出来ているのだろうか?


 そんな事を考えていると、俺の視界に映る熱分布画像の様な片隅に、何やら動いている物体が見えた。


「なんだあれ? 結構大きな物が森から顔を出して……あれは生き物か?」


 それは非常にゆっくりと、地面を這う様に交渉中のトゥナ達がいる湖に向かっているようにも見える……。

 地面を這っているそれは、まるで蛇みたいに体を左右に揺らしながら動いているが……。──生き物……だよな? 水でも飲みに来たのだろうか?


 俺は、動いている対象に指を指し「あれを対象に」と口にした。すると、風景が通常の視界に戻り、その生き物の輪郭が鮮明に見えたのだ。


「──まずい! ワニ型の魔物だ、森の方から湖に向かっている様に見える……トゥナ達に知らせないと!」


 俺の発言を聞き、ティアが俺の手を掴む。


「待ってください! このチャンスを逃すと二度と交渉どころか、接触も出来なくなるかもしれません」


「──こんな時に何を言ってるんだ! 彼女たちに危険が及ぶかもしれないんだぞ!!」


 ティアを睨み付ける様に見た……。

 しかしそれは、いつものふざけている彼女の顔ではなかった、仕事中の出来る方のティアの顔だ……。


「──だからこそ、私たちであれを引き付けましょう……。大丈夫です森から出てきたばかりならまだ時間があります! ワニ型の魔物は、ゆっくりと相手に気づかれないように接近してから襲うはずなので。彼らはスタミナが無いですからね」


 なるほど、そう言う事か……。


「こっちで囮になってる隙に向こうに交渉してもらうって事ですね?」


「えぇ、そう言う事です」


 そう言うティアが、いつもの優しげな顔で俺に微笑んだ。まったく、頼りになる仲間だよ。


「カナデ様、音を立てないように走ってください! 噛まれたら命の保証はありませんので、注意してくださいね!」


 それだけ言うと俺の背中を押し、やぶの中から追い出したのだ……。


「──って、俺が行くのかよ!」



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