第145話 ユニコーン

「カ、カナデ君。一体何があったの……?」


「い、いやな……色々あって……」


 トゥナとティアがテントの設営から帰ってくると、その場のひどい有り様を見て驚きが隠せないようだ。


 料理を作っていた鍋の中身は今やもうスッカラかん……。

 中にはミコが入っており満足そうに「ふぅ~食べたかな食べたカナ! でもまだ入るシ!」と、寝そべっている。──いっそこのまま蓋をして火にかけてやろうか……。


 ──そうあの時……ミコが飛び出してきて「邪がひどいカナ! 特にハモハモ! バラされたくなかったらソレを要求するし!」と、鍋の中のチーズリゾットを要求してきたのだ。


 も、もちろん簡単には要求は飲まなかった……俺だって、ミコの飼い主としての責任もある。あまりワガママばかり聞いてられない!

 俺はその事をかいつまんで、要所要所隠しながら帰ってきた二人に説明した。


「──と言うわけで……これが交渉の末の結果です……」


 何とか二人分のチーズリゾットはお皿に確保することが出来た……ミコの食欲を考えれば、この結果は完全勝利であろう!


「カナデ様 、ミコちゃんに完敗してるじゃありませんか……」


 あれ、おかしいだろ!? 誰がどう見ても俺の勝ち……あれ?


 取りあえず、手に持っているリゾットをトゥナとティアに渡した。

 ハーモニーと話し合った結果、これは邪な俺達の罰って事で納得したのだ……。


「これ、さっぱりしてて美味しいですね?」


 そう言いながら躊躇ちゅうちょ無く食べるティア……。俺は完成品を食べてないんだよな……旨そうだ。


「カナデ君、なんて顔してるのよ……食べにくいわよ」


 どうも俺は、リゾットを口に運んでいたトゥナの顔を見いっていたらしい……。──そ、そんな物欲しそうにしていただろうか?


 トゥナはしばらく食べた後「はぁ……はい、カナデ君半分食べたから、残り食べていいわよ?」と、彼女からお皿とスプーンが渡された……。


「──えっ? いいの?」


 それを見ていたのか「「ちょっと!」」と、ハーモニーとティアから抗議の声が上がった。


 「わ、私何かしちゃったかしら……」


 驚いた顔をするトゥナに二人は口ごもる……。

 彼女の汚れのない、純粋な心と瞳をみたら間接キスだからとか言えないだろう。その気持ち良く分かるぞ……。


 ってことで、それに便乗するように「それとも俺が何かした?」と、目を潤ませるように答えた……。


 その俺の姿を見て「「何でもないですよ!」」と、怒鳴る二人。──今、舌打ちが聞こえたけど気のせいだろう……。


 俺は周囲を警戒しつつも、リゾットを堪能した……多分今までで食べてきたもので一番美味しかったのではないだろうか?


 ハーモニーもティアから半分受け取り食べているようだ。若干息の荒いティアに引きながらも……。──あれはあれで、食べにくそうだな。


 そんな感じで食事を取り終わり、焚き火の火を消す。そんなことをしているうちに、日が沈みかけてきた。

 空には一番星が見え、それは徐々に二つ三つと増えていく。

 その中、俺達は捕獲の段取りをすることにした。


「ユニコーンの交渉には、トゥナ、ハーモニー、ミコで行って貰いたいと思うのだが……どうだろうか?」


「カナデ様、それは私が清くないと言うことでしょうか?」


 まぁ~そう言う流れになるのは予想ができていた。

 本音を言うと、それは理由の半分だ。もう半分はと言うと……。


「いや? 俺は三人とも清らかだと思ってるよ? 俺が向こうに行くわけにはいかないしな……トゥナが向こうにいくのは、二人も納得してくれるだろ?」


 俺の言葉にティアとハーモニーが頷く、「そうなの?」と、トゥナは言うが、ソコは満場一致で納得みたいだ。


「そこでだ! 大きい蜘蛛が出た場合、俺を守ってくれるのは誰だって話だよ!」


 残り半分の理由に一同がシラケる。──あれ、おかしな事を言っただろうか?


「はぁ~、本当の所はどうか……っと問い詰めたいですが、確かに大型の蜘蛛が出た場合私かフォルトゥナ様が退治には適任ですね。今回は素直に引き下がりましょうか」


 俺の見事な配置分けに皆開いた口が塞がらないようだな。──若干視線が厳しいような……あれ、皆呆れてないよね?


 ひとまずはこのメンバー分けで決定だな。

 後はユニコーンが現れ次第、彼女達に説得してもらえば……。


 ユニコーンを待ちながら空を見上げた、いつしか日が完全に落ちているな……。

 空にはいつ、落ちてきてもおかしくないと思えるほどの大きな星々が、真ん丸な月と共に世界を照らし出している。

 

 湖の水面は、朝のように鏡と見間違うかのように、空のソレを写し出す……。

 湖一面は、まるで一つのプラネタリウムのようであった。


 その景色に見とれていると突然水面が揺れ、星が波紋に流されているようだった。


「カナデ君……あれ……」


 トゥナが指差す方を見ると、輝く白い毛並みが星々を光を浴び、神々しい何かの姿が見えた……。


「あれは……ユニコーン?」


 しかし目の前のそれらは、当初の予定とは大きく違った状態なのであったのだ。

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