第144話 ムードブレイカー

 木々をかき分け、広大な湖を隅から隅まで見渡した。ユニコーンがこの湖のどこかに。


 ──いないやんけ……。


 何匹かの生き物が水辺で水分を取ったりしているが、何れだけ探しても馬のようなような影は見えない。

 ──まさか! この世界のユニコーンは馬の姿をしていないとか……?

 今までの事を考えれば、十分あり得るぞ……。


「お馬さんの影は見えないですね~……」


 ……良かった。この世界でもユニコーンは馬の姿をしているらしい。

 今までの経験上、ユニコーンと名乗る変態が現れてもおかしくなかったからな。馬の姿で──本当に良かった!


「カナデ君、いくらユニコーンが居ないからって、泣くことないじゃない……待ってれば来るかもしれないわよ?」


「違うんだよ……いやな? 色々、色々思い出しちゃって」と言葉にしながら、ここ数ヵ月の思い出を思い返し、自然と流れ落ちる涙を手で拭った。


『カナデ、元気出すカナ! ボクがついてるし!』


 いや? お前も涙の原因のひとつだからな?


『──それってどういう意味カナ!』


 うちのわんぱく精霊が脳内で大騒ぎしてる中、ティアがひとつの提案をした。


 「ユニコーンの目撃例は主に夜が多いよいです。どのみち今日は野宿の予定なので、見張りながらここでキャンプなんてどうでしょうか?」


「見張るのは……賛成だけど」


 出来れば宿に帰って寝たい。しかし、それは叶わない願いなんだろうな……。

 トゥナもハーモニーも頷いてたし、その気のようだ。──仕方ないよな……。


「流石に夜の待ち伏せ中に火はマズい、優先は火付けを、夜になる前に食事を作ろうか?」


 湖から丸見えにならない場所にキャンプ道具を出した。

 今日はテントの他にも購入したてのハンモックを出す。それと別にマジックバックの中から、ハッカ油とアルコールを水で薄めた瓶を取り出し、それを布に染み込ませて彼女達に手渡した。


「作業で足を止めたら虫刺されも多くなるからな……これで体を拭いておくように!」と、指示をする。


 俺の指示で、それを塗り始めるメンバーが「何これ…スースーするわね?」などのコメントを残しながらも肌に塗り込む。──ふっふっふ……これは、じいちゃん直伝のお手製の虫除け塗り薬だ。


 薬を塗り終えると、トゥナとティアは別作業に。

 俺は火起こしをする予定場所の地面を整地しする。その上に折り畳み式の焚き火台を設置した。

 マール港に着いてから数日、俺も鍛冶屋で武器作りだけしてた訳じゃない。こんな便利グッツも準備していたのだ!


 焚き火台とは、焚き火を行うときに焚き火の下に引く台の事だ。ってそのままだな。


 これを使えば地面で直接火を扱わないので、引火して火事になったりするなどの危険が少なく、自然を痛めにくい上に、ごみも出にくいのだ! モチロン料理にも使える優れもの!


「よし──火がついたぞ!」


「カナデさんの作った、ヘンテコアイテムのおかげでここでも火が使えますね~。今回は私の国の料理を作りますから~!」っとハーモニーが張り切ってるようだ。──って、ヘンテコアイテムは余計だろ……。


 俺はハーモニーの指示にしたがい、玉ねぎをみじん切りできざんでいく……こんなものだろうか?

 ハーモニーを横目で見ると、俺が玉ねぎを切っているその間に、オイル? で生米を炒めているようだ……。それを少ししたら皿に移したぞ?


 宿屋にいるときに作っていた、香味野菜を煮出したダシのようなものも同時に温めてるのか……?


「カナデさん玉ねぎ切り終わりましたか~?」


「あ、あぁ~……」


 きざんだ玉ねぎの入れ物をハーモニーに渡すと「ありがとうございます~」と、可愛らしい笑顔を見せる……。──なんかご機嫌だな?

 

 鼻歌混じりに油を引き、鍋を温めるハーモニー。

 俺も次の準備をするかな?


 俺はしめじ……だと思われるキノコの石づきを切り、手で一本一本ほぐしていく。

 隣ではハーモニーが、先程の玉ねぎを炒めている。──ほのかに香るニンニクの臭いが、空腹を誘うな……。


 ハーモニーに下ごしらえしたキノコを渡すと、それも加え一緒に加熱していく。

 そしてソコに、先程の米と温めていたダシのような物を入れた……。──もしかして、リゾットか?


「カナデさん、マールのお店で買ったバターとチーズもらえますか~?」


 マジックバックから二種類を取り出すと、ハーモニーは早速バターを入れる。──おぉ~チーズリゾットか。絶対旨いやつじゃないか……。


 そのまましばらくそれを煮込み、水分が減ったら沸かしてあるダシのような物を入れ更に煮込むを繰り返す……。


「カナデさんどうでしょうか? お米の固さがこれぐらいで?」


 ハーモニーは言葉と共に、スプーンに鍋の中身をすくい、フゥーフゥーと息を吹き掛け冷ましてから、俺に差し出してきた。──これってもしかして……あ~んってやつか?


 俺は照れながらも、差し出されたスプーンに口をつけた……。


「んっ……いい感じだと思う。米も立ってるし……かなり美味しい」


 照れ隠しで顔を背けたため、ハーモニーがどんな顔をしているのかは見れなかった……。

 ただ「そうですか? じゃぁ仕上げちゃいますね~」と口にした台詞は、今までの中でも一、二を争うほどご機嫌だったように聞こえた気がする。


 火から鍋を避け、チーズを加えて塩で味を整えている。


「これぐらいですかね~?」と、再びスプーンですくいフゥーフゥーと息を吹き掛け、ハーモニーが一瞬止まる。そして……。


 ──パクっ! と、彼女はそれを自分の口に運んだのだった。──そ、それってさっきの俺に使ったスプーン……。


「け、結構いい感じですね。う、うん。美味しいです~……」


 彼女の顔が若干赤く見えたのは、沈みかけてきている夕日のせいなんだろうか?

 何となくポカポカと温まるような雰囲気が漂う……。──これがいいムードってやつなのだろうか?


「邪で甘酸っぱいし! ボクにもあ~んするカナ!」


 しかしそんな平和は長くは続かない。無銘から突然飛び出してきたミコが、そのムードを完全にぶち壊すのであった……。


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