第143話 ジャングル中腹

「あぁ~くそ……無茶苦茶蒸すな!」


木々に覆われ、太陽の光りもほとんど届かないジャングルの道なき道を、俺達は既に半日近く歩いている……。

 熱気と湿度に体力と精神力を奪われ、集中力さえ切れてくる。

 しかし、頑張って歩かねば……目的地が直ぐそこだと信じて。


 ──しかしその時、八つの目と八本足が生えている、ボーリングの玉ほどの規格外の大きさのヤツが、突然目の前に巣を構え現れたのだ。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 その姿を見て、叫び声がジャングルに響き渡った……。

 おぞましいヤツは、もしかしたら毒を持っているかも知れない……毛むくじゃらな尻から出す糸で、全身を絡めとられてしまうかも知れないのだ……。


「カナデ君……。変な叫び声上げるのやめてもらえないかしら?」


 その言葉と共に彼女は自身が有する剣、レーヴァテインで目の前にいた巨大な蜘蛛くもを両断してみせた……。──おい! それ俺がメンテするんだぞ!


「おほん、仕方ないだろ!? 蜘蛛苦手なんだよ。それに何でこんなデカイんだよ! あぁ~鳥肌が……」


 青みがかった半透明の血液だと思われる何かを、切断部から垂れ流している。

 死んだ蜘蛛を部位に切り分け、トゥナが素材へと変えていく。──うぇ……みてるのも嫌だな。


「あのね、カナデ君。冒険者が蜘蛛を怖がってたら、冒険なんてできないわよ?」


「言いたいことは分かるけど……苦手なものは苦手なんだよ。ハーモニーとティアは平気なのか?」


 言葉と共に、マジックバックをトゥナに差し出す。

 触りたくないから、入れるなら勝手にいれてくれ! っと言うことだ……。


 それを見て理解したのか、トゥナは呆れながらも素材をバックにしまっていった。──こ、この後、あのバックを持つ事になるのか……。


「カナデさん、私がエルフだってこと忘れてませんか~? 仮にも森の民なのですから、蜘蛛が嫌いなんて言ってられませんよ~……」


 言われてもみれば……。でも俺も山育ちなんだけどな、思い切り嫌いだって言っちゃったよ。


「ティアさんはどうなんですか? 蜘蛛平気なんですか?」


「ん~そうですね。好きか嫌いなら、嫌いですかね? でも、カナデ様ほどじゃないと思いますよ? 普通に触れますし」


 何だよ、本当異世界レディーたくましいな……。俺が女々しく見えちゃうだろ?


「それに──人間や上司の方が怖いじゃないですか」と、満面な笑みで答えるティア。──上司は人間のくくりには入らないのだろうか……。


 雑談中に素材回収が終わったようだ。トゥナが俺にマジックバックを手渡してきた。


「カナデ君、リーダーなんだからしっかりしてよね。皆、頼りにしてるのよ?」


 差し出されるマジックバックを嫌々に……本当に嫌々に! 諦めるように受けとりながら「分かったよ……先に進もうか?」と青々と生い茂る木々を枝払いしながら進み始める。


 地球の物より、一回りも二回りも大きな蜘蛛に怯えつつも先を進んでいく。──ジャングルのような、人が生活を行うために作られた道が存在しない場所をあるくのは、本当に危険なんだよな……。


 「カナデ君危ない! 前!」


 トゥナが言うように危ない事だらけなんだよ……こんな風に木の上から蛇が突然襲ってきたりするしな?


 鞘ごと無銘を抜き、噛みつこうとする蛇をなに食わぬ感じで払いのけた……。

 じいちゃんが蛇酒は薬だ! と、良いながら一時期飲んでいたので、蛇を捕まえることにも慣れている。払い除けることなんて造作もない……。


 俺の何気ない行動に、彼女達は驚きにも、呆れにも取れる表情で俺を見つめて来るのだが……。──何かやっただろうか?


「カナデさん、蜘蛛は駄目なのに蛇は平気なんですね~?」


「ん? あぁ~気持ち悪くないしな?」


 ハーモニーの質問に答えながら慌てて逃げていく蛇を見つめ、ひとつの疑問が湧いた……。


「なぁ、魔物って他の生き物と何が違うんだ?」


 考えてもみれば、この世界でも普通に馬や犬猫などは見かけた事がある。

 さっきの蜘蛛は……魔物な気がするな? 蛇は普通の蛇だったし……。


「カナデ様は面白いことに疑問を持たれるのですね?」


「えっ? 何かおかしいですか?」


 また何か変なこと言ったか? いや……言ってないだろ。


「いえ、私達はそれが当たり前だったので、あれが動物、あれは魔物みたいな考え方はあまりしないのですよ」


 なるほど……カナデ君は人間なの? それとも別の生き物なの? って疑問に思うようなものか。


「そうですね……あえて魔物と分類分けするのなら、狂暴性が高く、同じ種の生き物より大きいケースが多いですね。後は魔石を、大なり小なり体の中に持っているって所でしょうか?」


 う~ん。言われて見ると、今まで出会った魔物にはそんな特徴があったかもな。

 その事が不思議と感じるのも、この世界の人じゃない俺特有の感覚なのかもな。


「──あ~、湖、見えてきましたよ~!」


 ハーモニーの声を聞き、目を凝らし正面を見つめた……。

 視界には、鏡のように太陽の光を反射するだだっ広い湖が目に飛び込んできた。


「この湖に、あの伝説のユニコーンが……」

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