第142話 ジャングル入り口

 翌日の早朝、エルピスのメンバーでティアが持ってきた捕獲依頼に向かった。今回は久しぶりの徒歩移動。


 マールの港町をの正門をくぐり抜け先に進むと、左右の山を削り作ったと思われる山道が続いていた。


「うわ、すごい道だな……」


 俺達は昨日の打ち合わせで、意志疎通ができる手段を見つけることができた。よって、早速ユニコーンの捕獲に動き出したのだ。


「ボクが無銘に入ってれば、カナデもユニユニの言葉わかるシ。お話出来るかな!」


 出発早々に、とんでもない事実をミコが口にしたが俺はその提案は丁重にお断りした。

 清き乙女しか懐かないんだろ? 交渉なんてそんな危険なことは、ごめんこうむる! 


 それにしても、些か雑な作りの山道だな。所々修繕されてはいるが、まるで突貫工事で作ったかのような。


「カナデ様。この道は、過去の争いで物資を運ぶために急遽作られたものらしいですよ? マール港町もその時に」


「そうなんですか?」


 元々は軍事利用の為の……あの色鮮やかな町の活気を見ていると、そんな風には考えれないな。


 山肌を削られ、作られたであろう壁は草木などはほとんど生えてはいない。

 所々に小さいものだが、崖崩れした後も見受けられる。


「……みんな、こんな道よく怖くないな?」


 まったく、こんなところ早く抜けたいものだ。落石なんてあったら、命がいくつあっても足りないな……。


 内心ドキドキしながらも、徒歩で山を抜け開けた場所に出ることができた。……できたのだが。


「これは、いくらなんでも──開けすぎだろ?」


 目の前に現れた大地は、とてつもなく巨大で、広大で、絶大なクレーターであった……。

 現在はその上部位置する部分だろうか? 十歩先は断崖絶壁になっている。


 遠巻きに下を覗いた。クレーターの中心部を見ると、そこにはジャングルのような深い森と川が流れている。

 そして、ジャングルの遥か先……更に中央部辺りには、太陽の光に照らされ、美しく輝く湖が見えた。


「なぁ? まさかユニコーンの生息地って……」


 恐る恐る中央の湖を指をさし、誰にと言うわけじゃないが、質問をした。──ちょっと待ってくれ、この中を歩くのか? 現代っ子にこれは酷だろ……。


「はい、カナデさんの予想通りだと思いますよ? 地図でもあの場所を示しているので~」


 ハーモニーの言葉を聞き、ギルドで受けた依頼書の地図と照らし合わせる。──本当だ……地図の見た目と完全に一致している。


 地図上の大きな円は、クレーターによる山の起伏なのか……。何かの模様かと思ってたぞ。

 ずっと昔に隕石でも衝突したのか? そうでも無ければ、このような風景には……。


 ──んっ?


「なぁ、ハーモニー。その地図に書かれてる長い矢印はなんだ?」


 俺の言葉を聞き「これですか?」と、ハーモニーは地図を指差した。

 そこには無数の緩やかな曲線と、その線上に太陽の模様がある。


「そう、それそれ」


「あ~……カナデさん知らなかったんですね? これは太陽がどちらからどちらに向かって動いているのか、その方向を書いてあるんです」


「何の為に書く必要があるんだよ? それ……」


 この世界で生きている以上知っておいて損は無いだろう、俺は自らが疑問に思っていることをハーモニー聞いた。


「え~っとですね? 地域によって太陽が上る方角が違うのって、ご存じですよね? それをざっと覚えて矢印と照らし合わせます」


 手で空に線を書くジェスチャーする、そして地図を回した。どうやら、実演してくれているらしい。


「これで、おおよその方位が分かります。目的地が目視出来ない場合の、保険ですね。時間がかかるので、最後の手段ですが」


 そ、そうか。この世界の太陽は、東から西に動いている保証が無かったんだな……。

 思い出しても見れば、冒険中も朝起きたら急に昇る方角が変わったこともあった。


 別に持っていた縮尺の小さい地図をよく見ると、区画分けがされており、その区域に一本ずつ長い矢印が引かれていた……。


 それにしても不便じゃないか……これ?


「方位を知る方法ってそれしかないのか? よく切り株の年輪を見ると……日当たりの良い方がよく育つから太陽が昇る方とかいうけど」


「カナデ君……誰がそんな嘘を言ったの? よく育つと言っても、そちら側だけが育つ保証はないと思うのだけど」


 言われて見れば……地球でもいくつも切り株を見たが、トゥナの言う通り規則性が無かった気がする。──って、あれって嘘なの?


「他にも方角が分かる方法はいくつかありますよ? 道具を使ったり、魔法でも知ることができます~」


 なるほど……興味深い。いつか機会があったらその辺も勉強したいな?


「ところで……いい加減先に進んだ方がいいんじゃないかしら?」


 トゥナがジャングルに続くであろう下り坂を指差し、俺を現実が逃避から連れ戻す。──やっぱり行かないと駄目だよな……?


「分かったよ……。皆、行こうか?」


 仕方ない……覚悟を決め歩き出すことにした。──虫とか出るよな? 帰りたい……。

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