第141話 清き乙女とは
「なぁ、どう言うことなんだよ? ユニコーンってあれだよな? 清い乙女を好むって……」
地球にいたころの伝承だからこっちの世界でも同じとは限らないけど、確か向こうではそんな感じだったはずだ。
「まさしくその通りです! 彼らは知能が高く、清い乙女とコミュニケーションが取れると言われております。そして……」
ティアは、トゥナ、ハーモニー、自分と順番に指をさす。ドヤ顔でだ……。
「ほら、三人もいるじゃないですか!」
──こいつ、言いやがった! 自分で清き乙女って言いやがった!
「あ、あの~私が聞いた話ですけど……。近づいた者が清き乙女ではなく、騙されたことに気づいたユニコーンが怒り狂ってその女を殺した……何て物語も聞いたことがあるんですけど~?」
ハーモニーの発言を聞き、俺とハーモニーはティアの顔を疑いの眼差しで見た。
「ちょっとなんでそんな目で見るんですか!」
「あのですね? 悪いことは言いません、やめられた方が……」
「カナデ様なんて事を! 私、とっても清いんですよ、ちゃんと処女ですよ!」
ティアは恥ずかしげもなく大きな声で自身の秘密を暴露した。
それを聞いた宿中の男達からの注目を浴びる事になった。
俺は立ち上がり「ティア! 分かったから落ち着け! 俺が心配してるのは体より心の心配だ!」と、静止した。これ以上大声出されたらかなわないからな……。
「それはそれで納得できませんよ……カナデ様、酷いです!」
口を尖らせながら上目使いで俺を睨み、ティアは頬を膨らませた。──何故か悔しいが、ちょっとかわいいじゃないか……。
「──カナデ君、カナデ君。清いってのは何となく分かるんだけど、処女って何かしら?」
この時、突然のトゥナの質問に俺は耳を疑った……。──おい、こんなところにも地雷が転がっていたぞ! っと。
対処に困りハーモニーとティアの顔を見た。しかしあろうことか、「私達は関係ありませんよ?」っと言うかのように、露骨に視線を反らしたのだ。──コイツら……。
本当に知らないのだろう、トゥナは純粋な瞳で何度も俺に問いかける。
「カナデ君知ってるんでしょ? 教えてよ」と……。
流石にお手上げだ……。
こうなったら、ここはトラブルの張本人に責任を取ってもらうことにしようか?
「ごめんトゥナ……。どうやらそれ、俺の知らない言葉みたいなんだ。この世界独特の単語なんじゃないかな?」
俺の発言を聞き目を見開きこちらを見る二人が、口パクで「卑怯ですよ!」と、いっている気がする。──先に裏切ったのはそっちだろ?
「だからさ、また後でティアに聞いてくれよ。口にした彼女なら知らないわけないしな? それより飯を食べながら打ち合わせしようぜ、腹減っちゃったよ」
「そうね……分かったわ、後で聞いてみる! ありがとう」
よし、話が丸く収まった。それではパエリアを堪能しようか──
「──カナデさん、カナデさん! ティアさんに任せて大丈夫なんですか~?」
スプーン握りしめる俺に、ハーモニーが耳打ちをした。彼女の心配はもっともだ、こうだな……一つ対策をしておこうか。
「確かに、トゥナが汚されちゃうかもなな?」
「そ、そうですよ。なんたって、あのティアさんですから~」
「だから、そうならないようにティアをしっかり監視しててくれよ? 流石にガールズトークには割ってはいれないからな。いや~残念だ! 後これ、リーダー命令だから」
初めて権力を振りかざした。まさかこんな形で、初めてのリーダー命令を使うことになるとは。
横から「横暴です~!」と、反論の声がするが俺は気にしない。
「話を戻すけど、仮にも魔物だろ? 馬車の馬変わりにする事なんて可能なのか?」
「正直なところ分かりません。コミュニケーションが図れるといっても、こちらの言葉を理解できても、私達はあちらの言葉を理解できません。そもそも、友好関係が築けるかどうか……」
なるほど──出たとこ勝負か。
「う~ん、捕まえるだけなら出来そうな気もするんだけどな。これだけ美女、美少女がいるんだから……」
……ハッ──俺は何言ってるんだよ!
パエリアに気をとられ、無意識に変なことを口走って……。
自分の口を塞ぐものの、どうやらしっかりと聞かれていたらしい。彼女達は三人とも、顔を背け思い思いに照れているようだ。
「──カナデいつからそんな女っタラシになったカナ? ボクは悲しいカナ……」
聞こえてはいけない声に振り返ると、ソコには腹ペコ精霊が俺のパエリアをバクバクと食べる姿があった。
「ちょっと──お前!」
俺は慌てながら両腕をテーブルの上にのせ、パエリアの皿を抱き抱えるようにミコ事覆い隠した。
周囲を見渡すが、先程問題発言をしたティアを横目でチラチラ見るものはいるが、ミコを気に止めたものはいないらしい……。──ティアが注目を集めているお陰で助かったよ。
「何で出て来てるんだよ……。おかわりあげるから、バックの中に戻れよ?」
ミコは頬に米粒をつけながら、こちらに振り向く。
「ユニコーンの話してたから出てきたシ。ボクなら念話で会話できるカナ!」と、彼女の口から予想外の回答が帰ってきたのだった……。
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