第138話 乱入 鋳造

 突然現れ転倒したハーモニーは、転んだ体制から四つん這いになっている。

 そのまま顔を上ずにうつ向いているのだが。──それにしても驚いた。大丈夫かよ顔でも打ったのか?


「に、兄さん、一度炉の中に戻しまっせ!」


「あ、あぁ!」


 俺は慌てて金属の入った入れ物を炉の中に戻す。──突然の事で気を取られてたよ……折角溶かした金属が、また完全に固まるところだった。


 防火手袋をはずしながら、倒れているハーモニーの元に駆けつけた。

 倒れたときに結構いい音ががしたからな、誰でも心配もするだろ?


「ハーモニー大丈夫か、怪我でもしたんじゃ……」


 彼女の顔を覗き混むように声をかけると、まるで視線を合わせるのを嫌がるかの様にそっぽを向かれた。


「だ、大丈夫ですから、顔を見ないで下さい! 今は、今だけは優しくしないでください~!」と、冷たい言葉をかけられる始末。──俺が何かしただろうか?


「──あんさんがハーモニー言うんか? ウチはルーム言うんや、よろしゅうな」


 ルームは俺達の近くまで来ると、ハーモニーに自身の右手を差し出した。


「貴方がルームさんですね~……昨日カナデさんかんから話を聞きました。女の子だったんですね~知りませんでしたよ~」


 あれ、言ってなかったか? うーん、言われてみればそんな詳しくは説明してないな……。どうやら言葉足らずだったようだ。


『ハモハモなんか怒ってないかな? なんかカナデを一瞬睨んでたシ』


 やっぱり俺を睨んでたよな? 説明不足で怒っているのだろうか。

 いくらなんでも、怒ることまでないだろうに……。


 そんなことを考えていると、ハーモニーは握られた手に力を込め「おのれぇぇ」っと声を出し、力んでいるようにも見える。

 それをものともしていないルームは、彼女の手を凝視してる様子だ。──な、なんだ、この状況……。


「ふむ、なるほど。グリップ部分がやけに細目にデザインされてると思ったんやけど……こう言うことやったか。流石やな、おとんが誉めるのもわかるきがするわ……」


 どうやら、ハーモニーに合わせ武器の握り手部分を小さく設計したことに彼女は気づいたようだ。──驚いた、このやり取りで……着眼点がイイな。お調子者に見えるが、やはり根は職人気質何だろう。


「それにしても、兄さんキモいな。ハーモニーはんの──手のサイズまで把握してんのかいな?」


 おい、言い方に気を付けろ! 俺が変態みたいだろ!


「え、普通知りませんか? 私もカナデさんの手の大きさ知ってますよ?」


 ハーモニーは顔を横に向けながら「これぐらいですよね?」と、両手で俺の手の大きさをつくって見せる。──いや……なんでハーモニーがわかるんだよ。


「それにしてもハーモニーはん、あんさん顔赤いで? 熱でもあるんやないか」


「べ、べべべ別に、赤くなんてないですよ~? ぬ、盗み聞きなんてしてませんからね!」


 ──してたんだな? 嘘下手くそかよ。


 ハーモニーの発言を聞き、顎に手を当て考え込むルームが口にした「はは~ん……あんさんあれやろ? ムッツリやな?」の言葉に明らかな動揺を見せるハーモニー。


「な、なな、ななな何を言ってるんですか!」


 そうか~ハーモニーはムッツリさんなのか。ところで、何がムッツリなんだ?


「まぁ、ええわ。折角来たんやし、そこで見学でもしとき、ウチはカナデはんと二人の共同作業があるさかい」


 それだけ言って、彼女は手を振りながら鞴で空気を送り続けている母親の元へと向かった。


「カナデさん。私、あのチビッ子嫌いかもしれません……後、ムッツリじゃないですからね~?」


「いや、仲良くしてくれよ? 彼女もエルピスの一員になるんだから。後、ムッツリはどっちでもいいよ」

 

 それだけ伝えると、俺はハーモニーを置いて作業に戻る事にした。


『カナデがどっちでもいいとか言うから、ハモハモ怒ってたカナ……多分、後で刺されるシ』


 おい、冗談でもそんなこと言うのは止めてくれ! ……えっと、冗談だよね?


 額に嫌な汗をかきながらも作業に戻ることにした。

 ……あれだ、後で懐に木の板を忍ばせておこう。


「待たせてしまいすみません」


「構わないかしら。カナデさん、また溶けてると思かな? 型に移し変えるかしら」


 俺は再び火箸を持ち「はい、お願いします!」と返事をした後、炉に向き直った。


 さぁ、今度こそ鋳造のクライマックスと行こうか!

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