第137話 同時刻 鋳造

「──初めてですが本日は、よろしくお願いします」


 朝早くからハーモニー用の武器を作るべく、ルームとそのお母さんと共に鋳造技術を活用し、今から【ジャマダハル】の刀身部分を作らせて頂く。


「あらあら? 初めてなのかしら……? 大丈夫ですよ? 心配しなくても……私達に任せて欲しいかしら?」


「そうやで? 兄さん。あんま力入れはると、直ぐにバテてんで? 力抜き~や」


 そんなこと言われても、今日はこの作業をとても楽しみにしていたんだよ。力むなって言う方が無理な話だろ?


「あらかた準備わ終わってるかしら……。カナデさん? それでは早速ここに触れてもらっていいかしら?」


 ルームの母は、粘土を固めたような物で作られた鋳型を取り出した。──残念だ、本当はこれから作ってみたかったんだが……。


「こ……こうですか?」


 事前に受けていた説明に従い、寝かせてある鋳型を起こし、溶けた鉄が入れやすいように専用の台に縦向きに乗せた。


「あかんあかん! もっと優しくしな。なんでも初めが大事なんやで? そうそう……兄さん上手やで……その調子や……」


 ルームの指摘に内心あせるものの、少しずつ鋳型が倒れないよう、台と鋳型の間に詰め物をしていく……。──溶けた鉄をいれてる最中に、倒れないようにしなければ……。


「ど……どうですか? これぐらいで……」


 炉に火が入っている室内での作業のためか、もしくは緊張のせいかもしれない。

 目に入る汗を拭いながらも確認をとった。


「もう……慌てないのかしら。ほら……ここがまだかしら?」


「す、すみません!」


 確かに少し緩いな……グラついている。早く次の行程に行きたいための焦りが出てしまったようだ。


「兄さんこっちもやで……忘れたらあかんよ? しっかり奥まで……そうや! 上手やないか~」


 ルームの指示でさらに反対側もしっかりと。よし、これで完璧だろう。


 二人の顔を見ると、彼女達は満足げな笑顔で頷いた。──よかった、どうやらおが眼鏡にかなったようだ。


「それじゃ~次は温めるかしら……? カナデさんの手で、一番奥までいれて欲しいかしら?」


 事前に俺が使う分の金属を、耐火素材で作られている入れ物に入れてくれてある。何から何まで、至れり尽くせりだな……。


 炉は熱く、当然素手では触れない。その為俺は、火箸巧みに使い扉をつかんだ。


「ん……開くのはこんな感じで……? うわ……こんなに熱くなるんですね……? なんかドキドキしてきました……」


 炉の扉を横にずらし、金属の投入口から中を覗き混む。

 ほとばしる炎は、赤と言うよりは、白く輝きを見、せ同時に激しい熱気が炉の投入口から俺の肌を焼く……。──これは、テンションが上がってきたぞ!


「さぁ、奥に入れるかしら……?」


「は、はい……」


 俺は、火箸を巧みに使い金属の入った入れ物を、炉の奥へと入れた……。


 確か、鉄の融点は純鉄で1538度。


 炭を使うと600程から1000度、コークスは2200度まで温度を上げることが出来ると、何処かで聞いたことがある。

 そして空気を送り込むことで、それ以上にも……。

 

 耐火煉瓦を用いた専用の炉に、ふいごを使いどんどん空気を送り温度を上げていく。

 立ち上る炎が、まるで銀色に輝いて見えるようだ……。炉内の温度が上がっている証拠なんだよな。


 この反射炉は熱を発する燃焼室と、金属が置かれている炉床が別となっている。

 ただ今回、俺が使うぶんは極少量のみ。その為炉床ではなく、直接燃焼室に入れているわけだ。


 手をちょいちょいと動かし、ルームが俺を呼んでいる。

 鞴を扱う手を休めて、彼女の隣までいくとルームが炉の小窓を指差した。


「凄い……こんなにもトロトロになるんですね……」


 その中では、自分の作業とは別に彼女達が仕事で使うぶんの金属が、炉床に置かれていたはずだ。

 でもそこに見えるのは、まるで溶岩の様に煮えたぎっている、液状化した赤く輝く金属の姿であった。


 刀鍛冶では形状が無くなるまで熱することはない。だからこの光景は俺も始めてみる……感無量だ!


「そうやで~?……まぁ、もうそろそろいいんちゃうか?」


 俺は火箸で燃えさかる炎の中、入れ物をつかんだ。


「じゃぁ、ゆっくり引き抜いて……ここからが本番かしら?」


 彼女の指示にしたがい炉の手前へと引きずって来る。


「そうやで! ウチが手伝ってやるさかい。そろそろ入れようか?」


 ルームは、俺が炉から引き抜いた金属の入った入れ物を、対面に立ち別の火箸で掴んだ。

 そしてルームの母は、入れ物をいつでも取れるよう火箸を構える。


「それじゃぁ~せーのでいれるさかい。準備はええか?」


 さぁ、今から溶けた鉄を鋳型に流し込む作業だ……緊張するな!


──その時だ 、突然鍛冶屋の自動ドアが開き「──だめぇぇぇ!」と、声をあげながら誰かが部屋に飛び込んできたのだ。

 あまりにも突然の出来事で、自然と視線がその人物に吸い寄せられたのだが……。


「──って! ハーモニーか?」

 

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