第131話 ルーム登場

 鉄の二枚扉が自動で開き、中の様子が確認できた。


 金属製の謎の物体が所々散乱はしているものの、部屋の中には見慣れた鍛冶に使われる道具も多い。

 それを見て、この建物が金属を加工する為に作られたのだとハッキリと確信を持てた。──しかし、誰もいないうえに炉に火が灯っていない? 不在なのだろうか。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」


「何言うとんねん、さっきからずっといんで?」


 ──んっ? 

 近くから人の声がしたような気がしたんだが、気のせいか。誰もいないぞ……ミコ何か話したか?


『ボクじゃないカナ。でも、ボク聞こえたシ』


 トゥナの顔を見るが……彼女も顔を左右に振る。──トゥナも聞こえてはいたようだな。


「あんたら、ほんまお約束が好きみたいやな? 下やで、下」


 謎の声の指示通り下を見ると、そこには愛らしい顔立ちの少女がいた。

 

「ドワー……フ?」


 背の高さはハーモニーよりも頭ひとつほど低そうだ。

 しかし、その他はそれなりに出るところは出て、引き締まるところは引き締まっている……。

 その為だろうか、いくらかハーモニーよりは大人びて見える。──女性のドワーフには、流石に髭はないようだな。


「そや、ドワーフや。せやけど少しばかり見すぎやないか?」


「あ、あぁ~すまない。ついな……」


 初めて見たドワーフの少女に興味をもち、つい見つめたしまった。危ない危ない、変なやつ認定されるところだったぜ……。


「つい? まぁしゃあないな。どや、うち可愛いやろ?」


 悪戯っぽく俺に問いかける彼女に、上手いこと返事が思い付かない。

 精一杯絞り出した言葉が「あ、あぁ~そうだな……」の一言だけであった。


「兄さんうぶで可愛い~な? ウチはルーム言うんやけど、兄さんらは何しに来たんやろうか?」


 ドワーフの少女を見た衝撃で完全に忘れてた。

 ハーモニーの武器を作るため、何か良い案がないか、相談を踏まえ鍛冶屋を見に来たんだった……。


「えっと、相談に……」

「──あぁぁぁ!」


 俺の言葉を遮るように、ルームと呼ばれた少女が叫んだ。──な、何だよ一体……。


 どうやら彼女は、トゥナが腰に下げているレーヴァテインを見つめ驚いているようだ。


 彼女はトゥナの顔を見て「あんた、もしかして鍛治場荒らしのカナデ言うとちゃうん?」と口にしたのだ。──おい、誰が鍛冶場荒しだよ……。


 そう言われたトゥナは、何やら考えるそぶりを見せた。


「えっと、私はフォルトゥナよ? 鍛冶場荒らしは、あっちの彼」


 どうやら俺のことを、丁寧に分かりやすく紹介してくれたみたいだ。まさか、肯定されるとは……。


「さよか! 兄さんがあの鍛冶場荒しなんか? 聞いてた話とずいぶんちゃうな」


 一体誰に何を聞いたんだよ。

 思い当たる節が、一ヶ所だけじゃないから分からないだろ?


「もしかしてだけど……その剣を見てたってことは、情報源はガイアのおっちゃんか?」


 レーヴァテインは俺とガイアのおっちゃんの合作だ、彼なら剣の特徴を誰かに教えることも出来るだろう。


「せや、もう一人いるけどな」


「フィーデスの所の亭主もか……」


 そう言えば、あの亭主はおっちゃんの弟子だったか……まったく、異世界も狭いものだな。


「正解やで、よぉ分かったな」


 白い歯を見せ無邪気に微笑む顔と、小麦色に焼けた褐色の肌が彼女の明るい雰囲気をより引き立てる。──そりゃ分かるだろ、なんたって二件しか荒らして……難しい要求をしてないんだから。


「おとんも、兄弟子も言いたいことが山ほどあるみたいやけど、兄さんには感謝してたで?」


「おとんって、お父さん? またまた……本当に?」


 あれだよな、ただの言い間違いだろ? 

 どっちのオッサンの娘か分からないけど、こんなに可愛いわけがない……。


「驚いたか? ええリアクションやな。からかいがいがあるわ~」


 俺の驚きかたが余程お気に召したのか、ルームは腹を抱え笑いこける……。──これだけ笑われると、かえってスッキリするな。


「まったく……冗談が過ぎるだろ? いくらガイアのおっさんの弟子だからって……」


「アハハハハ、伝説の鍛冶屋ガイヤはマジでウチのおとんやで?」


 マジかよ……伝説云々より、どうやったらあのガイアのおっさんから、こんな可愛い娘が出来るのか。

 そっちの方がよっぽど気になるだろ……。

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