第130話 マール港町
太陽が真上を通過してずいぶん立つ……この世界の時間の感覚が、いまいち分からないが、おそらく正午は過ぎているだろう。
そんな中、俺とトゥナは次の旅に向け買い出しを行う班。
ハーモニーとティアは、馬車の件もあるのでギルドに向かう班として別行動を取っている。
俺達は、まず町中を横断して町外れの二本の煙突を目指すことにした。
煙突の建物へと続くと思われる、広い道の先にはこの町の正門と思われる大きな扉がそびえ立っている。
その通りの両脇は様々な種類の屋台でひしめき合っているのだが……。
『カナデ! あれ、あれが旨そうだカナ! ボク、あれが食べたいカナ!』
俺の頭の中には、念話スキルをフル活用して、自己の欲求を満たすために叫ぶミコの声が響く。──分かった! 分かったから叫ぶのを止めてくれ、頭が割れる!
耳から聞こえる音と違い、頭に直接響く念話は、耳を塞でどうこうなるものではない。──まったく、小賢しい知恵をつけよって……。
「トゥナすまない。ミコがな……?」
それだけ口にして、目の前の食べ物を取り扱っている屋台を指さした。
その姿を見てトゥナがあきれた顔でため息をつく。
「もう~。これで五件目よ? 全然先に進まないじゃないの……」
「そんなこと俺に言われても……むしろ俺がどうにかしてほしいよ」
俺の言葉を聞き、トゥナが急接近する……そして、両手で俺の両頬を力強く固定した。
──っえ?
「ミコちゃん? あまりワガママ言ったらダメよ? あまり帰りが遅いと、宿の晩御飯食べれなくなるわよ?」
キ……キスされるかと思った!
しかし、ミコ相手ならその手があったか、確かにあまり遅いと宿の食事が出ないかもしれないな。
『ごめんカナ、ごめんカナ! ご飯なしは嫌だシ!』
話し終わっても俺の顔に手を当て、じっと見つめるトゥナ。
俺を写し出す、彼女の綺麗な瞳から目が離せない。ミコも反省しているが、もう少しこのままでも……。
『カナデ早くするカナ! じゃないと邪なのチクルシ!』
「──ど、どうやらミコも納得してくれたみたいだし、そろそろ行こうぜ!」
人々の往来の中でおこなっていたためか「カップルだぁ~」と子供に指を指されるしまつ。──え、そんな風に見えるかな? 参っちゃうな。
立場上、何かと人の注目を浴びることに慣れているのか? まるで周囲の目を気にすることなく、トゥナは俺に笑顔で微笑みかる。
そして、目的地に向かい振り返り「そう、それなら良かったわ。じゃぁ先に進みましょう?」と、それだけ口にし何事もなかったかのように歩き出したのだ。
『カナデあれかな、眼中に無い感じダシ……。後でちょっとおやつ分けてあげるカナ』
やめてくれ、今優しくしないでくれ……ちょっと泣いてしまいそうだ。
目を擦りながらも、再び歩き始める。
それにしても、この町は中々の賑わいを見せているな?
港付近には市場も出ていたし、多くの船も止まっていた。漁業も盛んなのかも知れないな。
そして、グローリア大陸の町並みと比べると、家の作りは
中には平らに近い屋根もあるし、色合いが華やかな建物もある。──グローリアの人々より、笑顔が多い気がするな、こちらの人たちの方が生活も豊かなのかもしれない。
風景を楽しみながらも門まで歩き近づいた。すると、トゥナが立ち止まり何かを覗いているようだ……。
「どうしたトゥナ? 何かあったのか?」
「え~とね? 案内の看板があったから読んでたのよ」
彼女の発言に、俺もその看板を覗き混む。──な、なんだこれ……。
そこには、【ここを左に行ったら、あの伝説の鍛冶屋が作りし工房があるんや! 見な損やで! 是非来てな~!】と書かれていた。
「また、凄く変わった文章で書かれた看板ね? どこかの地域で使われている言葉かしら?」
そうか、トゥナから見ても変わってたか……。てっきり俺の謎言語理解能力が壊れたのかと思って焦ったよ。
違和感があるものの大阪弁? 見たいな雰囲気だな。もしかしたら何処かの地方の方言だから、こんな風に見えるとか? 本当にこの能力は謎が多い。
「左に行けば目的の鍛冶屋見たいだし、ひとまず向かうか?」
「そうね、元々向かうつもりだったしね」
案内図通りに先に進むと、少し高台になっているところに大きな煙突が生えている建物が見える。──思ったより風もないし、良いところだな……。
高台の上の方まで来ると、町が一望できる。カラフルな屋根のある町並みと、隣接している海が特徴の風景だ。
何となく心がホッとするような……何時間でも見ていられ気がするな。うん、絶景だ。
鍛冶屋と思われる建物の目の前までくると、そこには金属でできた二枚の扉のような物がある。
「カナデ君この扉、ドアノブが無くて開けれないのだけど……」
「本当だ、これがドアじゃないとか……ん? ここに何か文字が書いてあるぞ?」
その金属の扉のようなものを見ると【ドアに触れると開くで~】の文字が掘られていた……。──こんなの知らない人だったら普通、見落とすぞ?
書いてある文字通りになにも考えなくドアに触れると、魔力を持っていかれる感覚と共に音を立て、二枚の扉が開いたのだった。──って、自動ドアかよ!
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