第127話 ミーティング

 勇者の偉大さを感じ、多くの衝撃や、不安……それとは対照的に、仲間の温かさを感じた、その夜の事だ。


 船長の話では、魔王城を越えれば次の町には翌日の昼には到着するらしい。

 そういう事なので、今後の具体的な打ち合わせをするために、俺達は船長の許可をとり食堂でミーティングをすることにしたのだ。


「あ~、夕食の時間までは食堂を使用していいと許可が出た。時間も限られているので、脱線をしないように気を付けて頂きたい!」


 リーダーである俺は、円滑に話を進めるため、致し方なく慣れない仕切りを担当しているわけだ。


「はい! カナデ君」


 大きな返事と共に、ビシッっと真っ直ぐ手をあげるトゥナ。

 話し合いがスムーズに進むように今回は挙手制にしたのだが、まるで──教師にでもなった気分だ。


「はい、フォルトゥナ君。どうしたのかね?」


 俺は、短い髪をかきあげるような仕草と共にトゥナを指名する。


 少々乗り気になってきた俺を、腫れ物を扱うような視線で見る二人と一匹がいるが、気にはしない。


「脱線とは、どういう意味なんでしょうか?」


 な、なるほど。そうきたか?


 この世界は、汽車も電車も無いから線路が無いのだろう。故に脱線と言う単語が存在しない、もしくは浸透してないわけだな?


「脱線とは、まさしく今のことです。話行動が目的から反れることですね」


 俺の一言で「ごめんなさい……」と肩を落とすトゥナ。少し、言い方が悪かった様だ。


 その様子を見ていたティアが、般若はんにゃの面顔負けの形相で、俺を睨んだ。


「お、俺も言い方が悪かったよ。ごめんなさい!」


 だから、睨まないで欲しい! 


 きっと、話が進まないと思ったのだろう。今度はハーモニーが溜め息付きながらも手をあげた。


 そんな彼女の姿を見ると、つい暖かい眼差しを向けてしまう。


 俺は「はい、ハーモニーさん」優しく指名する。まるで、小学校の先生になった気分だった。


「なんか、凄い嫌な目付きですね~……」


 ──す、鋭い……。


「まぁいいです。マール港に着いたら、どのようなルートでリベラティオ王国に向かう予定なのでしょうか~?」


 ……え? てっきり、港に着いたらソコが目的地だと思ってたんだけど、違うの? 

 このミーティングも、てっきりトゥナの父親…… リベラティオ王に会うときの礼儀作法や段取りの話だと思ってたのだが……。


 三人と一匹の視線が俺に集まる。な、何か言わないと……。


「え~っと。目的地までの地図とか持ってる人がいると助かるんだけど……」


 挙動不審になりながらも、何とかそれらしいことが言えた。

 それにしてもそう言う話ならば、俺より他の地理に詳しい人が仕切ってくれればいいと思うんだけど……。


「カナデ様、地図なら私が持っておりますよ?」


 食卓テーブルの下を何やらゴソゴソする。


 発言は手をあげてからするように! ってまぁ、ティアは副担任ポジションみたいなものだしいいか? それにしても……。


 気になる! ティアがいつも何をゴソゴソして、物を何処から出しているのかが気になる! しかし今日は食卓テーブル……下を覗けば向こう側が見えるのだ。

 

 視線が自然と、彼女たちの足元に吸い寄せら……。


「カナデ君? 聞いてるかしら?」


「──あ、あぁ~リベラティオ王国までルートだろ! 分かってるって!」


 あれ、間違っていただろうか? 三人と一匹の視線が痛いぞ……。


「ミコちゃんお願い、無銘の中からカナデ君を監視して。今晩の晩御飯は期待していいわよ?」


 トゥナの無慈悲な言葉に、綺麗な敬礼を見せるミコ……いつもなら駄々をこねるのに、すぐさま無銘に入っていったのだ。──ミコのやつめ、アッサリと買収されやがって!


「あはは、信用無いな……。それで、ルートは決まったのか?」


 明鏡止水だ……心を落ち着かせ平常心に。あれ? 昔にも同じことやった気がするぞ?


「それでは、私から最適だと思われるプランを説明致しますね?」


 ギルドに勤めているティアなら、地理も詳しいだろう。いつの間にか、広げてある地図を指をさし、説明をしてくれる。


「先ずは港町到着後、ギルドの方で馬車を準備してあるはずなので、そちらを使って移動したいと思います」


「ギルドで馬車を? ティアさんが準備してくれたんですか?」


「いえ……半分は、そうなんですが……」


 半分って……残り半分は何処に行ったんだよ、ハッキリさせておいてくれないと困るだろ?


「王命なのです……」


 その一言を聞き、ついトゥナの顔を見る。

 それを聞きいた彼女が「本当、お父様は……」といつものように頭を抱えた。


「ま、まぁ結果的に助かる訳だし、今はトゥナの親父さんに感謝だな、な?」


 周りも気を使ったのか俺の言葉に頷いた。──トゥナの親父さん……過保護にも程があるだろう。彼女が可愛いから、気持ちは分からなくもないが。


「基本的には、なるべく大きな町を経由する予定です。よって、マール港、ラクリマ村、アラウダ村を経由して、キルクルス町までが第一目標ですね。その後は、天候や向こうの季節によって考えようと……」


「それに異論はあるものは……」


 それだけいい、トゥナとハーミニーを見る。どうやら反論みないみたいだ。


「じゃぁ、それで行こうか?」


 無事話がまとまったな。珍しくティアがまともだったから、話が早くまとまったよ。


「決まった事だし。解散しようか?」


 俺がそう言ったその時だ、いつものように俺の服を引っ張るハーモニーが「私の武器の事も忘れないで下さいね~?」と催促をしてきた……。──子供におねだりされている、お父さんの気分だな……。


「分かってるって、それを踏まえてしっかり準備してから出発するから、安心しろ」


 パパ気分の俺は、つい彼女の頭を撫でてしまった。


「そ、そうやってすぐ子供扱いするんですから~……」


 そう言いながらも、目を細め気持ち良さそうな顔を見せる。てっきりもっと怒られると思ったんだけど。


「さて、今度こそ解散だ」


 俺の言葉と共に、一同が食堂を後にしていった。

 それにしても、やっと船を降りれるのか……本当にこの日をどれだけ待ちわびた事か。


 明日への期待を胸に、今日のところは自室に戻った。そしてその晩は、期待の余り寝付けなかったのは、言うまでもないだろう……。


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