第121話 足りないもの

「ハーモニーの言う、守られるだけは嫌だって気持ちは痛いほど良く分かるけどさ?  俺も普段は後方待機な訳だし、気にするほどでも……」


「──カナデさんのそれと、同じにしないで下さいよ~!」


 い、言われてしまった。確かに状況は全然違う。

 力があっても振るわない俺に対して、力が無いから振るえないハーモニー……。

 前者は自己防衛は出来ても、後者はただ守られるだけ……。

 きっと自分の事を、足手まといだとでも思っているのだろう。


「でも、向き不向きがあるんじゃないか? その木刀だって、身の丈に合っていないと言うか……」


 元々は、この船の人たちが使っている特訓用の木剣だろう。

 彼女がそれを持つと、剣を使っていると言うよりは、剣に振り回されてしまう気もするのだが……。


「ヤッパリ、この木剣が大きいですよね? おかしいと思ってたんです~!」


 意地でも自分が小さいって事を認めないつもりか? 別に可愛いし、個人的にはそんな彼女だから愛らしいと思うんだけど……。

 むしろ、今さらハーモニーが大きくなったら、どう接していいか分からなくなりそうだ。


「これは俺の勝手なイメージなんだけど……エルフなんだし、魔法とか弓じゃ駄目なのか? 剣を持つだけがすべてじゃないだろう?」


 俺はそう言って、同意を求めるように他の二人を見るのだが。──あれ、なんで二人とも顔を背けるんだよ?


「言う事を……聞かなかったんですよ~」


 言ってる意味が分からなかった。── 言うことを聞かないって……一体何がだろうか? 


「精霊さんが、言う事を聞いてくれないんですよ! ちびっこの言う事なんて、聞いてられるかって馬鹿にしてきたんですよ~!」


「……へ、へぇ~」


 説明を求めるように、ティアの顔を見た。魔法に関しては、この中では彼女が一番のスペシャリストだろう。

 俺の言いたいことに気付いたのか、髪を耳にかける仕草をしながら口を開いた。


「ハーモニー様は魔力量も、質もコントロールも完璧で、それ事態に何ら問題は無かったのですが……いかんせん」


 そこまで話し、ティアは口籠くちごもった。──言い出しにくい事なのだろうか?


「なんだよ、途中で言うのをやめて……気になるだろ? 」


 ティアは手で口元を押さえ、目を潤ませた──そして次の瞬間「威厳と身長が足りなかったのです……」と、俺達から顔を背けるのであった……。


 そうか、魔法って身長制限があるんだな? しらなかった……って、そんなはず無いだろ!

 冗談は置いておいて、実際のところ足りないのは威厳の方な訳だな?


 今の会話がハーモニーにも聞こえたらしく、彼女はその場で泣き崩れてしまう。──さ、流石にこれは可哀想だ。


「け、剣なら、戦えそうなのか?」


 俺の見立てじゃ厳しいのだが、一緒に朝練をしてたトゥナなら活路を見いだしているかもしれない。

 しかし、彼女の顔を見ると小さく顔を左右に振って、こちらに近寄ってきた。


「ちょっといいかな?」


 そういいながら、俺に近寄り耳元で内緒話を始めるトゥナ。──これは……耳が幸せだな。


「種族の特性なのかしら? 運動がちょっとね……戦闘に必要な筋肉がほとんどないのよ」


 しかし、聞かされた内容は絶望しかない。

 困ったものだ……完全に戦闘に向いていないぞ? 例え剣や魔法がダメでも、戦える術はあるはず……。


「──そうだ! 弓なんてどうだ? ワイバーンの時も、いい腕をしてたじゃないか。鍛えれば、中々のものになるんじゃないのか?」


「一人だと……弦が引けなかったんですよ~。グスン」


 案を出せば出すほど、ハーモニーを落ち込ませる結果になってしまう。完全に泥沼だった。


「う、う~ん。ひとまず、普通に体力作りがいいんじゃないか? 次の町についたら、俺が何か探してみるよ。これでもエルピスのリーダー兼、エルピスの専属鍛冶職人だからな」


「カナデさん……期待してもいいんですか?」


 瞳を輝かせ期待の眼差しで俺を見るハーモニー。──き、期待が重い……。


「いや! 期待はやめてくれ、保証ができる気がしない……」


 ショックを受けながらも、「それでも、頼りにしていますよ?」と言って、ハーモニーは船上を走り去っていく。


 ──こ、これは。今までで一番辛い戦いになりそうだ!


「うんうん、青春だねぇ! そう言う甘酸っぱいのは大好きさ!」


 急に船長の声がして、慌ててその場を跳び跳ねた。


 い、いつから背後にいたんだよ。

 この筋肉ダルマ、その巨体で気配を消して背後に立つのはやめてくれ……。恐怖でしかないんだよ!


 船長の登場にもう訓練どころではない、完璧に集中力が切れてしまった……。ひとまず休憩にしようか?


 各自、朝練を始めるメンバーを眺め、先程の事をどうしたらいいものかと考え事をする。


──ん? もしかしたら、この人なら?


「船長。例えばですが、さっきの女の子にトレーニング等で、効率良く筋力を付けることって出来ますか?」


「はっはっは、そんな事、もちろん可能に決まってるじゃないか!」


 マジか、それならもう問題が解決した様なものじゃないか!

 そのトレーニングメニューを聞いてやらせるだけだもんな?


「先程の、ちびっこい彼女のことだよな? マッチョになるコースと、ムキムキになるコースの二種類あるが……彼女にはどちらが良いだろうか?」


「──って、それならお断りです!」


 あ、危なかった! 危うくハーモニーが筋肉に改造されるところだったぞ? 

 やはり彼女のことは、次の町につくまで持ち越しだな……。


「所で、船長はこんな朝早くからどんな用件なんですか?」


 見回りだろうか? また変な頼み事や、祭り事じゃないだろうな?


「オールアウト号の修理が無事終わったからな、また船が動くから報告しに来たのさ」


「なるほど、わざわざありがとうございます」


 船長の気遣いにお礼をのべると、片手を腰にもう片手で俺を指差し微笑んだ。


「そして、今から最後の変形をする。その報告と、忠告をかねて来たと言うわけさ。戦友はそう言うの好きだろ?」

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