第111話 料理対決 準備

 ティアとの料理対決に向け、打ち合わせのため部屋に戻った俺とハーモニー……しかし──。


──ハーモニーの震えは、武者震いじゃなくてこう言う事だったのか!


 オールアウト号の一室、俺の目の前には水着姿の、ロリッ子美少女が自室にいる。

 考えても見れば、彼女が動揺するのも当然の事だろう。知り合いとは言え、男の部屋に来て二人っきりな訳なんだし……しかも水着姿で。


 今さらながら、自分が使用している部屋に、女の子を招き入れるって初めてではないか?

 し、しかも、水着姿のチビッ子。──合法とは言え、誰かに捕まったりしないよな?


 自己保身をかねて、自分が着ている甚平の上着を脱ぎ、ハーモニーにかけた。

 万一、体が冷えたら良くないし……何より肌を晒していると彼女も、俺も落ち着けないだろ?


 俺の行動に、ハーモニーは驚いた顔をした。その後すぐ「クスッ」と可愛らしく笑い声を上げる。


「ありがとうございます、カナデさん。紳士的な所もあるんですね、驚かされました~」


 皮肉なのか? それとも純粋な誉め言葉なのだろうか? どちらにしても、ここは……。


「惚れてもらっても良いけど、ハーモニーがもう少し大人にならないと、お付き合いは出来ないぞ?」


 久しぶりのやり取りだ。やっぱり俺達はこうでないと!

 いつもなら、ここで彼女が頬を膨らまして、怒りながらも軽口を言い返して来るはずだ……。


「それは……何年後なら、いいんですか~?」


「──えっ?」


 ハーモニーは憂いを帯びた瞳で、俺をまっすぐ見つめる。予想していた回答とは全く違い、俺はつい言葉を失ってしまった。──そ、そこは怒る場面だろ? こんな風に……質問されるとは思わなかった。


 回答待ちのせいか、俺達は沈黙に包まれ、室内には静寂が訪れる。それは、お互いの息遣いすら聞こえてしまうほどの静寂だ……。


 そ、そんな反応されると、俺も勘違いしそうになるだろ? 何て返答したら良いものか……。


「……冗談ですよ、そんな困った顔をしないで下さい~」


「あ、あぁ……そうだよな?」


 これは自惚れかもしれないのだが、俺が困っているのを察して今の言葉を……。そう言ってのけた彼女の笑顔が、少しかなしそうにも見えた。


「ハーモニー! も、もしかしてなんだけど……」


 違っていたら恥ずかしいやつだが……彼女は何か言いたい事、もしくは言って欲しい事があるのではないだろうか?

 女の子に恥をかかせるぐらいなら、いっその事、俺が口にした方が……。


「──カナデさん! そんなことより料理勝負は何を作りましょうか? 考えはあるんですか~?」


 ハーモニーは急に、俺の声を遮るように話を振ってきた。正直な所、心のどこかで会話を変えられた事を──助かった……と、俺は思っていたのかもしれない。


「あ、あぁ。俺が居た元の世界の……俺の国の、名物料理を作ってみたいと思ってるんだ」


「カナデさんの国の料理ですか? それは興味がありますね~!」


 急に、いつものように振る舞うハーモニー。──女心って複雑だな? まぁいいか。


「それって、具体的にはどのようなものを作るんですか? 勿体ぶらずに教えてくださいよ~」


 過去の勇者も、色んな物をこの世界に残したようだが、これは思いつかなかっただろう。


 ハーモニーに急かされ、俺はマジックバックから一つのアイテムを取り出す。

 そのアイテムとは、つい最近思い付きで作った銅板を加工したものだ。


「何なんですか、そのボコボコした金属板は~?」


 ボコボコした金属板って……確かに見た目そのまんまだけど、このボコボコを作るのに何れだけの苦労があったか。って、それは別にいいか?


「これを使ってタネ……え~っと、具材を混ぜ合わせたものを焼くんだよ」


「う~ん、そう言われてもイメージが沸かないですね」


 この世界は、生活水準も高くないしな? B級グルメの様なものは、あまり普及されてないんだろう。


「まぁ、慌てるな。今から教えるから──」


 俺は彼女にも分かるように、順を追って、作業を説明していった。

 それを聞き、熱心に聞き耳を立てるハーモニー。──こう見ると、時折動くエルフ耳が可愛いな……。


「──なるほど。小麦粉の生地に、材料や薬味を加えたものをタネと呼ぶんですね? 最後にタコってのを入れて、それをその鉄板で焼いて形を整えると……」


 流石に、普段から料理をしているだけの事はあって理解が早い。


「そのタコ焼き? って食べ物は、カナデさんが言うように、まる~くなるんですか~?」


「ん~、そこは腕次第かな? まぁ、昔自分の家でも作ったことあるし、多分大丈夫だろ」


 俺の言葉を聞き、ぶつぶつと声を出しながら調理行程を復習するハーモニー。この様子なら、背中を預けても大丈夫そうだ。人選選びは俺の勝ちだな!


 その後、最終確認を終えた俺達は、本番に向けてイメージトレーニングを行っていたのだが──。


──トントントン! っと、部屋をノックする音と共に「会場の準備が出来ましたので、お集まりください」と、男の声が聞こえた。


「準備が整ったようだな? それじゃぁ、ティアをギャフンと言わせるか!」


「カナデさん、ギャフンって……」


 俺達は締まらない空気の中、部屋を出て決戦会場へと向かうのだった──。

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