第109話 六尺Tかの二択

 結局、ハーモニーのお怒りが収まるまでお説教は続いた。今はなんとか落ち着きを取り戻し、彼女はトゥナとおしゃべりをしている。──それにしても、痛い思いをして喜べるタイプではないんだけどな? ティアの言うご褒美とは、一体何のことやら。


「──し、知らなかったとはいえ、ひどい目に合いました。あのような恥辱ちじょくを受けるとは……新しい扉が開いたらどうしてくれるんですか?」


「今のは、完全にティアさんの落ち度でしょうに……」


 パーカーを着こんだティアが、俺に非難の言葉と視線を向ける。むしろこの場合、俺の方が被害者だと思うのだが……。


 それにしても、彼女達はなぜこの様な格好をしているのだろうか?


「そんなことより、さっきも言ったけど、その衣類は泳ぐときに着るものなんだけど? 皆、まさかここで泳ぐのか?」


 女性人に向かって質問すると「そうなの?」と、反応を見せた。


 流石に泳ぐのは罰当たりだろ……? ビリビリするし、溺れて水を大量に飲んでしまったら健康被害も考えられる。


「い、いえ。私はカナデ様に喜んで貰うために、面積の少ない衣装を選んだだけですので、正直なところ、そこまでは考えておりませんでした……」


──おい、俺はそういうのが好きだと思われてたのかよ!

……ま、まぁ好きなんだけどね? 男の子の大半は好きなはずだ。やっぱりティアのやつ、なにも考えずに着せたのか。


「でも、せっかくの機会だし気分だけでも味わいましょうよ? ティアさん、カナデ君が着るようなものはないのかしら?」


──ん? トゥナ、ちょっと待て! 俺も着る流れかよ!

 正直な所、見せられる程の体では無いんだけど……。周りにはムキムキの男共がわんさかいるし、比較ひかくされたら心が折れそう。


「ちなみに、カナデ様の大きさですと、二種類ありますね」


 何処から持ち出したのかは分からないが、ティアはバックの中をゴソゴソいじる。──まぁでも、皆も恥ずかしいなか、俺のために? 頑張ってくれた訳だし、俺も一肌ぐらい脱がないといけないよな?


「カナデ様、どちらがよろしいですか?」


 そう言いながら、目の前に出されたのは、白い六尺褌ろくしゃくふんどしと角度のエグいTバックの、セクシー水着であった。


「──流石に着れるか!!」


 もうちょっと、何かあっただろ? もしかしてさっきのはずかしめの仕返しか?


「な、なんなんですか? それは~!」


 ハーモニーは声をあげて、手で顔を覆う。しかし、指の隙間から興味津々に、水着と俺をチラチラ交互に見比べてるのを、見逃しはしなかった。──気付いてるからな? 隙間出来てるの気付いてるからな?


 その中、もう一人の彼女はと言うと「男性用の水着? って言うのは凄いのね。動くのに邪魔になる部分が全く無いわ!」と、よく分からない納得の声を上げた。──違うからな? 男性用の水着の基準はそれじゃない!


「ティアさん。いくら俺でも、それは着る事ができません……他にはないんですか?」


「これしかありません! 良いじゃないですか。カナデ様は、私のあられもない格好を見た訳ですし」


 そう言いながら褌を広げ、彼女は見せつけてきた。どうやらこっちが押しらしい。


「そ、そうですよカナデさん! ここは皆さんで、水着と言うものを着て、気分をもりあげようじゃないですか~!」


 ハーモニーも、男性用のセクシー水着を持って、俺へと迫ってきた


「「──さぁ!」」


 さぁ! じゃねぇよ! だめだ、このままだと無理矢理剥かれてしまう……。


 俺は目一杯瞳に涙を浮かべ「助けてください!」っと、トゥナにアイコンタクトを送った。


 その姿を見てか、微笑ましいようなものを見るように微笑しながら「ほら、二人とも。無理させてまで着せること無いでしょ?」っと、助け船を出してくれたのだ。


 トゥナ、ありがとう! 君はマジで天使だ!

 流石のティアも、トゥナの言葉には耳を傾けるしかあるまい……。


 そして、一人では言い出しにくいのか? ハーモニーも残念そうに俯いている。しかし、ホッとするのもつかの間だった。


「──カナデ様、それでは一勝負して、私が勝ったら着ては頂けませんでしょうか?」


「──はっ?」


 ティアから突然、謎の提案がなされた。──どれだけ俺に褌をさせたいんだよ。


「俺が勝ったらどうするんですか?」


「私が出来ることでしたら、何でも一つだけカナデ様のお願いを聞いて差し上げますよ?」


 その発言を聞き、他の女性人からの厳しめな視線を浴びる事となる。──これは、変なお願いとかは無理な流れだな。ティアの事だ、この状況を読んでの発言だろう。


「別にティアさんにしてもらいたいことは無いので……」


「──逃げるのですか、カナデ様?」


 あおって来るか? 別に逃げると思って貰っても全然構わないし、わざわざ挑発に乗る必要も無いんだよな。


──そうだ!


「挑戦を受けるとしても、勝負の内容次第ですかね?」


 俺の発言に、ティアは苦虫を噛み潰顔をした。

 安い挑発に乗るとでも思ったのだろうか? プライドの高い男であれば、上等だ、受けてやるよ! ってのが定番だからな。


 しかし、残念でした! 俺には、その様な挑発──。


「──勝てる勝負しかしないって事ですか? 姑息なカナデ様らしいですね……」


 言い方! 言い方が悪いから、これ自己防衛だからな?


「分かりました、先に勝負内容を言いましょう! 聞いてから、やるかやらないか決めて貰って構いませんよ?」


 た、たいした自信だな、勝負内容は何なんだろうか?

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