第108話 伝承の衣

 ティアがパーカーをはだけると、はち切れないばかりの豊満なボディーが現れた。

 その体は、紺色の一枚布で、キツく締め付けられる様に押さえ込まれている……。


「──って、何でスク水なんだよ!」


 つい全力で突っ込みを入れてしまった。流石にそれは無理があるだろ? 年齢的にも肉体的にも。


 何より、サイズが彼女に全然合っていなかった。中学低学年が着るほどのサイズだろ、それ? 色々と、こぼれ落ちそうじゃないか! こ、これは、目のやり場に困る。


 しかもよく見ると、かなり古いタイプのものだろ? 腰回りで布生地が重なっているデザインだ。──旧スクと言うやつだったか? も、もちろん、テレビで見た知識だからな?


「あれ? カナデ様、私似合っていませんかね?」


 似合ってる似合ってないとか、そう言う話じゃないんだよ。その格好、痴女一歩手前だぞ?


「似合うかは置いといて。そういえば、先ほど勇者考案とか言ってましたよね?」


「置いといてって……。まぁ、いいですよ……。これは、勇者様が残したギルドの文献から、私が再現したものです!」


──ちょっと待て! 勇者さん、異世界にどんな爪痕を残してるんだよ! 俺達が住んでた世界が勘違いされるだろ?


「そ、それにしても、何でティアさんがそれを着てるんですか?」


 それを着るとしたら、サイズ的にもハーモニーか、もしくはトゥナだろう?

 女性の担任が、出来心で学生の水着を無理して着ました! みたいになってる。それはそれで、需要はあるだろうけどな。──むしろ嫌いじゃない!


 しかし、彼女のこの奇行には意味があったようだ。


「それを聞くのですか? カナデ様ならご存知ですよね? この衣装は、特別尊い女性が身に付けていたと!」


 言いやがった、自分で尊いと言いやがった! それはともかく、その尊いって別の意味じゃないのか?


「あのですね? それは俺の世界だと女子生徒が泳ぐときに身に付けるものなのです」


「女子生徒? なんですか、それは……? それが尊い女性に与えられる称号なのですか?」


 この世界だと教育機関が義務付けられて無いせいか? 生徒と言う単語自体が無いみたいだな。


「違いますよ。学校……学問を学ぶ場所がありまして、そこで指定されている装備みたいなものなのですよ」


 多少ニュアンスは違えど、こんなものか?

 早く彼女に伝えなければ、いつかこぼれ落ちてしまう!


「それが何故、尊いのでしょうか?」


「それは俺に聞かないで下さい……。ただ一言。一般的に着用する女性はハーモニーぐらいの子が……」


「それは、おいくつぐらいの子が?」


 女性に年齢の話はタブーだって、じいちゃんが言ってたな? しかし、ここで俺が犠牲にならなければ、ティアはいつかポロリする。

 個人的には美味しいが、それだけは避けないといけない!


── 俺の身の安全の為に!!


「六歳から……十五歳、最近では減っているそうですが、上でも十八歳ぐらいまでですかね? それ以上の人も例外はあるものの、着用すると……」


「ちゃ、着用すると? な、なんですか……?」


 これはティアには辛い事実だろう、しかし彼女の為にも、心を鬼にしよう! それが本当の優しさと言うものだ!


コスプレコスチュームプレイっと呼ばれるのです……」


 それだけ聞くとティアは胸を押さえ、その場に座り込む、そして「娼館じゃないですか!」と、涙目で俺を睨んだ。


「いやいや! コスプレってそれだけじゃなくてですね? 変身願望って言うのか……むしろ俺の国じゃ文化の一つですから! ただ、場所とルールと……サイズはわきまえないといけませんよね?」


 そもそも、この世界の娼館にコスプレがあるのだろうか? ま、まぁ、俺は未成年だし、そんなオプションとか興味もないし、存在もしらないから!


 俺の言葉に、ティアは明らかに落ち込んで見せた。──知らなかったとは言え、お気の毒に。後、御馳走でした。


「フォルトゥナ様の目の前で、カナデ様に汚されました。お嫁に行けません……」


 おい……人聞きが悪いだろ? 俺はなにもしてないしイメージ悪くなるから!


「──カナデさん、少しお話しよろしいですか~?」


……ほら、案の定だ。


 ハーモニーは声をかけてきながらも、俺の肩を握りしめる。まるで逃がさないぞ? っと言わんばかりに。── 大丈夫だ、今回は何も悪いことはしていないし、怒られる理由はないはず!


「見てただろ? 俺は手を出していないし、ティアには真実を伝えただけで……」


 今回限りは無罪を主張するぞ! 本当に、何もやっていないのだから。


「それはどうでもいいのです。完全にティアさんが、自分で見せつけただけですから。大きいのを良いことに、まるで自慢するように……」


──や、闇が深い。ただ、まさかの回答に少しだけ胸を撫で下ろした。今日は土下座はしなくて済みそうだ……っと。


「カナデさん、私の年齢忘れてしまいましたか? 先程衣類の適正年齢をお話しする際に、私の名前が聞こえましたよ? それに、何度も視線がお合いになられたようですが~?」


 やらかしてた! 無意識のうちにタブーに触れてたか? 傷が浅いうちに正座して謝りたいのだが、男の子には直ぐには出来ない時があるんだよ!


「カナデさんはいつも私を子供扱いしますね~! 大きいのがお好きなんですよね? 知ってますよ、だらしなく鼻の下伸ばして~!」


 この後しばらくの間、俺はハーモニーによる耳引っ張りの刑が執行された。

 ティアはと言うと、トゥナにそっとパーカーを被せてもらっていた。


 残念ながら、俺は今日ものんびりは過ごせないらしい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る