第107話 船修理中─今日俺は死ぬかもしれない2─

「カナデ君あのね……私も結構恥ずかしい思いをしてるんだけどな?」


 トゥナは無防備に詰め寄り「コメントは無いのかしら?」と声を掛けてきた。

 わざとでは無いと思うのだが、腕で胸を挟み込み、強調するようなポーズを取るのだ。──無自覚、恐るべし……。


「と、とても似合ってると思うよ……」


 彼女の姿にドキドキで、上手く思考が出来ない。そもそも女性を褒める経験なんて、今まで全くと言っていいほど、無かったんだよ!


「カナデ君、それだけなの? ハーモニーの時とすごく違うけど……」


 肌が触れるのでは? っと思う程グイグイと来るトゥナに、俺はドキドキのたじたじだ。

 なんでハーレム物の主人公は、こう言った状況でも直視できるんだよ……その秘訣を教えてもらいたい!


 そしてトゥナから反らした目線の先では、ハーモニーが俺を見つめていた。


「カナデさん、私の時とえらく反応が違いますね? 大きいからですか? 大きいのが好きなんですか~?」と、彼女は俺の無銘に手を伸ばす。


 本能で何かを感じ、ハーモニーに触れられる前に慌てて無銘を抱き抱える。──何故かハーモニーにだけは触らせてはならない気がする!


 それにしても、なんで美少女二人に詰め寄られてるんだよ! 俺は、今日はまだなにもしてないだろ? 


 根本的に悪い気分ではない、悪い気分では無いのだが、こうもガツガツ来られるとどうしていいものか……。 草食系の童貞男子には、荷が重くないでしょうか?


「お二人共落ち着いてください、カナデ様が困ってますよ? 本日は喜ばせたかったのですよね?」


 言い寄られる姿を見かねてか、俺を気遣うティアの発言が聞こえた。

 それを聞いてだろうか? 二人は俺から少し距離を取ったのだ。──まさか、このタイミングでこの人に助けられるとは、複雑な気持ちだがありがとう。


──ってもしかしてティアも!?


 少しの期待と、よこしまな気持ちでティアを見てしまう。しかし残念ながら、彼女はダボダボのパーカーに身を包んでいたのだ。


「あ、あれ? ティアさんは水着じゃないんですか?」


 つい口走り、俺はしまった! っと言う顔をした。当然の事ながら、トゥナとハーモニーの視線が痛い。


「あら? フォルトゥナ様とハーモニー様のお姿だけじゃ、物足りなかったんですか? とても素敵だと思うのですが……」


「いやいや! 二人とも十分に素敵ですよ。ただティアさんが準備したって聞いたので……」


 俺の発言に、何故かまんざらでもない顔をする二人。彼女達の水着姿が魅力的なのは間違いはない。しかし、正直なところティアの水着姿も見たいんだよな……。


 性格を除けば容姿端麗ようしたんれい才色兼備さいしょくけんび。トゥナやハーモニーもそうだが、ティアも同じく言葉では言い表せないほど魅力的な女性なのだ。期待するなって言う方が無理だろ?


 そんな俺の心中を察してなのか、クスリと笑いかけてくるティア。──これが大人の余裕なのだろうか?


 トゥナの純粋無垢じゅんすいむくな美しさとも違い、ハーモニーの幼い可愛らしさとも違う。

 これが、妖艶ようえんな大人の魅力……ゴクリッ。


「カナデ様はさん、ですね? しかたがありません……」


 そう言いながら、俺の近くまでゆっくりと近づいてくる。

 そして、パーカーの前のボタンを上からゆっくりと、一つ、また一つと外していくのだ……。


「んっ……中々外しにくいですね、このボ・タ・ン」


 くそ、絶対にわざとだ! 俺を焦らしにかかってるのか?

 そのなまめかしい仕草は、周囲の注目を集め、同性である二人でさえ見いっている。


 散々焦らしながらも、すべてのボタンを外し終わった。しかしティアは、中が見えないように手で押さえているのだ。


「この恰好を殿方に見せるとなると、中々に恥ずかしいものですね。やっぱり止めてしまっても……」


 そう言いながら、彼女は頬を赤らめ後ろを向いた。──さ、流石にここまで来てそれはないだろう。でも、周りの目もある……。


「ま、まぁ、無理する事は無いと思いますよ?」


 精一杯の強がりだ。他の女性メンバーが居る以上、ここは紳士に行こう! 非常に残念だが……。あえてもう一度言おう、非常に残念だが!


「カナデ様はお優しいのですね?」


 優しくなどない、ただチキンなだけだ! 少なくとも今日の判断を数日は引きずる自信があるぞ?

 

 しかし、どうやらその必要は無い様だ。


「──あのですね。自分で羽織ものを取る勇気が無いので……カナデ様にお願いしたいのですが?」


「……はい?」


 ティアの発言に一瞬思考が停止した。 つまり脱がせろって事か……? さ、流石にそれは不味いだろ!

 俺は、トゥナに助けを求めるように視線を送ると「取ってあげたら?」と、まさかの回答が返ってきた。──本当トゥナはそういう無頓着むとんちゃくなところがあるな!


 これはどうするべきなのか? なに、ティアの上着をとるだけだ、簡単簡単……。指がカタカタと震えるものの、俺は彼女の上着を取るために動きだした。


 その俺の姿を見てだろう、恥じらい顔を染めていたはずのティアが、突然笑いだしたのだ。


「ふっふっふ、すみません。カナデ様のリアクションが余りに初心うぶだったので、ついからかってしまいました」


「あ、あぁ~……そうだよね? そりゃそうだ……」


 完全にしてやられた! そりゃテンパりもするだろ、ほら見てみろ? ハーモニーなんて頭から煙を噴いてるぞ……って、大丈夫かよ!


 そんな慌てる俺をみて、ティアはとても満足した顔を向ける。──間違いない、これは本のネタにされるだろう。


「今日は、日頃頑張ってくれている、カナデ様へのご褒美でした。忘れるところでした」


 ティアはパーカーを両手で掴み、俺の前で普通に脱いで見せたのだ──。



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