第106話 船修理中─今日俺は死ぬかもしれない─
「──はぁぁぁ、感無量だ……」
周囲には何もなく、この世のものとは思えない美しい水平線、下には花畑の
魔物が現れないと聞いて、緊張の糸が切れているのだろうか? 自分でも分かるほど、リラックス出来ている。
甲板に横になり空を見上げると切に思う。──そうか。俺は海に出て初めて、純粋に心を落ち着かせることができたのか……っと。
何故なら、普段なら不快に感じているシャツのバサバサが今日は無い。一番の理由はそこだろう。
この前レクト・オクトパスに襲われた際、船の後部の外壁に一部損傷が見られた。故に、現在は海の墓標の上で停泊中だ。
今はと言うと、帆【Tシャツ】を下ろし、洗濯中。
心底思う。こんな平和な日々が、いつまでも続けばいいのに……と。
少し罰当たりな気もするが、船長曰く「彼等は残された者の為に戦ったはずだ、それならばここで船員の身を守るために船を修理する事を、
この海域には波もなければ、危険な魔物も現れない。確かに船の修理にはもってこいの条件かもしれないな?
どうせ船が動かないわけだし、今の状況を楽しまないと損だ。
不意にマジックバックを見ると、ミコのヨダレだろう大きな染みが出来てきていた。──本当に良く食べ、良く寝るやつだな……。
でも考えてもみたら、この世界で平和に過ごせる日が、今まであっただろうか? いや、無かっただろう!
よし、俺もミコにあやかって、このまま昼寝でもしようか?
今だけでも平和を心行くまで満喫しよう。そんなことを考え目を閉じた……。
「──ちょ、ちょっとティアさん! これで本当にカナデ君が喜ぶの? とても恥ずかしいのだけど……」
構造物の影からトゥナの声がした。ティアもいるようだな?
しかし、俺は寝ると決めたのだ! 寝てれば絡まれないはず。このまま絶対に寝るぞ!
「安心してくださいフォルトゥナ様! これは、過去の勇者様考案の装備です。カナデ様なら絶対に理解があるはずですよ? さぁ、いきましょう! 今すぐ行きましょう!」
──絡む気満々かよ! なんか不穏な予感だ……。ティアが絡んできて、今まで心の平穏を保てたことがあったか? いや、なかっただろ?
よし、睡眠を妨害されるなら、事前に追い返してしまおう!
「ティアさん! 今日だけは一日……俺に……安ら……」
俺は起き上がりそれだけ言いかけると、目の光景を見て言葉を失ったのだ。
なんとそこには、純白のビギニの上に、
ただでさえ可愛く美しい、彼女の引き締まった無駄のないプロポーションが、俺を魅了し止まない……。
「カ、カナデ君ごめんね? 寝てたよね……」
そう言いながら、俺の視線を感じ何やらモジモジとするトゥナ。
四肢は細く、腰はくびれ、しかし出るところは、しっかりと出ている。その姿を見たものは、呼吸を忘れてしまう程の美しさだ……。
剣を握り普段から運動してるから、もっと筋肉質だと思ってたんだけど。
女性らしいそのフォルムは、柔らかそうで、見つめていると顔が緩んでしまいそうになる。──こ、これは直視できないぞ!
「──カ、カナデ君?」
「あ、あぁ! 起きてる、起きちゃってるから!」
慌てて体操座りをする。危なかった! 見えてませんよ!
くそ、まんまとティアに一杯食わされた。異世界最高じゃないか! どうしたよ? 昨日までの悪魔のような日々は
きっと、不運を使いきったに違いない。これからは明るい未来が待っているのだろう。水着──最高じゃないか……!
歓喜の涙を流しかけながらも、ひとつの疑問が生まれた。
「──それにしても、水着なんてどうしたんだよ? この世界でも一般的にあるものなのか?」
何て言うか、形状が完璧に地球のソレなんだよな。なんか、因縁めいたものを感じる、何となく勇者って聞こえた気が……。
「ごめんなさい、私はよくわからないわ。この服は、ティアさんが準備してくれたの……」
何故だろう、その名前を聞くと不安になるんだが。まぁいいか! 今はこの絶景を楽しまないと損だよな?
しかし、ご褒美タイムはそれだけではなかった。
「ティ、ティアさんお、押さないでください~! お、押すなぁ。じ、自分で出れますから~!」
ハーモニーの声がしたぞ。まさかハーモニーもか? いやいや、トゥナはティアに騙されて着ることはあっても、しっかり者のハーモニーが騙されるとは考えにくい。
でもハーモニーもちびっこいけど可愛いからな? 本人に言えないが、見てみたい気もする。
そんなことを考えていると、ティアに押されたのだろう。ハーモニーも照れながら、目の前に姿を現した。
「──おぉ~……」
本当に水着で現れた……。何て表現するべきだろうか? 控えめに言っても最高だ!
何故か今日は、世界が俺に優しいぞ? もしかしたら、今日ここで俺は死ぬんじゃないか。
「ど、どどどど、どうですか? カ、カナデさん…おかしくないですか…~?」
そう言いながら手で胸元を隠し、横を向き恥ずかしそうな仕草をするハーモニー。
そんな彼女に、いつものようについ、軽口をたたいてしまった。
「どうもなにも、隠してたらコメントも出来ないだろ?」
平然を装う俺の一言を聞き、震えるように正面を向いた。そして手を後ろで握りしめ、さらに顔を赤く染め上げるハーモニー。──な、なんだよ。普段なら突っ掛かって来るのに……調子が狂う。
幼い容姿と体型だが、
所々覗かせる透き通るような肌、豊満とはとても言い難く、成長の余地しかないまっ平らな胸……しかしそれでも、柔らかそうに見えるから不思議だ。
とても可愛いのだが、見ているだけで何故か罪悪感を感じてしまう。俺はそれでも、つい横目で見てしまうのだ。
「だ、黙ってないで何か言ってくださいよ~! これ、死ぬほど恥ずかしいんですから~……」
本当に恥ずかしいのだろう、最後の方は消え入るような声だ。
「に、似合ってるんじゃないかな? 健康的で……肌は綺麗だし、色合いもハーモニーにピッタリだ! 俺はいいと思うぞ?」
視線を外し頬を指でかく、素直に褒めるのは照れ臭かったのだ。
しかし、その言葉に気を良くしたのか、照れながら「えへへ」と、モジモジして見せるハーモニー。──か、可愛いじゃないか。ロ、ロリコンじゃないけど、これはありだな……。
俺達がそんなやり取りをしている中、トゥナが俺の目の前に来て前屈みに俺を覗き込んだ。
目の前に見える谷間に、俺もさらに一段と前屈みになるのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます