第101話 新スキル活用法

「よ、よし! 出来たぞ!」


 俺の手の中には、見事……とは到底言いがたいが、一枚の銅板に無数の凹みがある何かが握られていた。


「思ったよりサイズダウンしたけど、少人数に使うなら問題ないか?」


 納得が出来る仕上がりとまでは言いがたい。しかし、いつまでやってても仕方ないし、今のところは妥協しよう。

 いつか鋳造が出来る環境があれば、再挑戦すればいいか?


 そんな自分の思考に、ふと疑問を抱く。


「あれ? 俺って刀鍛冶がしたかったんだよな?」っと……。


 な、なんにしても、技術や経験は無駄にならないって、じいちゃんも言ってた気がするし、回り道も悪くはないか。


 現実逃避をするかのように、窓の外に目をやると。──おいおい、もう太陽がずいぶん高くまで登っているじゃないか。

 どうやら、集中すると周りが見えなくなる悪い癖が、出てしまったみたいだな。


 立ち上がろうとした時、腰から下げている無銘が、カチャっと音を立てた。


 そう言えばミコはまだ寝てるのか? いつもならお腹すいたカナ、お腹すいたカナと五月蝿うるさいのに、明らかに静かすぎるだろ?

 そう思い無銘を握りしめ! いつものように念話を試みるが返事がない……?


── まさか! 俺が倒れてた後、ミコに何かあったのか!


 俺が意識を失った後の状況を聞くため、仲間の元に向かおうと立ち上がり後ろを振り返った。

 すると、そこには、俺が探していたミコがいたのだ。


……いたのだが。


「あっ!」


 それだけ口にするミコさん、まるで見つかってしまった! っと言わんばかりの表情だ。

 その理由は一目ひとめで分かることになった。


 彼女の近くには、人が使うための食器が何枚も並んでいた。しかし、その上には料理がほとんど残っていないのだ。


「き、気づかれたカナ!」


 それだけ言うと、ラストスパートをかけるように勢い良く残りの料理を、掻き込む様に食べるうちの精霊様……。──コ、コイツ。またやりやがった!


 そして慌てて食べ詰まらせたのか、喉を押さえてミコが皿の上をのたうち回り始めた。──過去の栄光により石像にまでなった精霊様の姿がこんな残念とは……。なんだろう、悲しくなってきたぞ?


 食事がおいてあったテーブルまで近づき、水差しに入っている水を手のひらに汲み「ミコ大丈夫か? ほら飲めよ」と、手を差し出した。彼女はしがみつき勢い良く飲み干して行く。


「──プハァ、死ぬかと思ったカナ! 苦しかったシ。カナデありがとうカナ」と、ミコは笑顔を向けてきた。


「まったく、色々心配するだろ? もっと落ち着いて行動しろよな?」


 愛のある、軽めの説教にニコニコ笑顔で「ゴメンカナ」と笑い飛ばすミコ、天真爛漫てんしんらんまんで、非常に可愛らしい。


── 可愛らしいので、少々心苦しいのだが……。


「力動眼!」


 スキル発動と同時に、右手の人差し指と親指でミコのこめかみを掴む……。そうアイアンクローである!


「イタイ! イタイカナ! 頭、頭ギリギリしてるシ! 潰れるシ!」


「心配するな! 今の俺はギリギリの罰を与えることが出来る!」


──そう、ギリギリだけに!


 新スキルが大活躍してるから、絶妙な力加減がお手の物だ! 今まで怖くて出来なかった、見た目で力加減が分かりにくいこんなお仕置きも可能に……!


 あれ? このスキル中々に便利じゃないか?


──しばらくお仕置きした後、ミコを解放して事の経緯を聞き出すことにした。


「きょ、今日のお仕置きは刺激的だったカナ……。チョ、チョコットだけ後悔したカナ」と、珍しく反省してる様だ。


「いいから白状しろよ、誰がミコを餌付けしたんだよ?」


「え、餌付けとか言うなカナ! 朝昼晩の三食毎日出してくれないと、ボクの心は揺れうごかないカナ!」


 力強く力説する彼女に、俺はトゥナポーズを取って呆れた。──伝説の精霊様がチョロすぎる……。


「それで結局、誰が持ってきたんだよ」


「えっと、トゥナンとハモハモと、ティアリンが来てくれたカナ。ご飯はティアリンが持ってきてくれたモン」


 なるほど三人が来てたのか。どうやら、食事はティアが持ってきたみたいだな。それ、本当に餌付けとかじゃないよな……。


 皆に、部屋に食事を置いておくときは、何か被せておくように言っておこう。ウチの飼い精霊に全部食われてしまう。


「でも、三人とも様子見にきたなら、声をかけてくれれば良かったのに……」


 俺の一声を聞き、ミコがジト目で俺を見つめてきた。


「な、なんだよミコ。言葉にしないと思いは伝わらないぞ……? 外に出てるの忘れたか?」


「声掛てたカナ。カナデを見て何か心配してたシ! ボクだって沢山声掛けたカナ! ご飯イッパイ要求したシ!」


 ミコは頬っぺたを膨らまし、俺に詰め寄った。まるでプンプンっとか聞こえてきそうな程顔を近づけて……。


「プンプンカナ!」


──聞こえてきた。


「分かった、俺も悪かったから」


 俺の謝罪の言葉の後、会話に一瞬の間が出来た。そのタイミングでミコが「でも?」と話題を振ったのだ。


 それを聞いた俺は「後悔はしていない」っと答えてしまった。──しまったぁ! ミコにしてやられた……本音がポロリした!


 その瞬間、グルグルパンチで俺の顔を叩いてくるミコ。──こ、これが意外と痛い!


 そんな風に、ミコとじゃれているとドアの方から、ガサッ! と、何かが落ちる音がした。

 俺とミコは、とっさに振り向いたが、そこには誰もいなかった。


「ミコ、今誰かいたよな?」


「見えなかったカナ、でも音がしたカナ……」


 確かに誰かいたはずだ。しかし、どうしてわざわざ逃げるような真似を……。


 ドアを開けて外の様子を確認すると、そこにはおびただしい量の血痕と……そのすぐ近くには、一冊の本が落ちていたのだった。


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