第102話 流血事件、犯人はお前だ!

 俺は、扉の下に落ちている本を手に取り、ページをめくった。


「──おい、犯人探しが出落ちになってるじゃねぇか!」


 その本とミコをマジックバックに入れ、ボタボタと垂れている血痕を追うことにした。

 犯人に既に目星はついている。後は証拠を本人に突き付け、自白に持ち込むのみ。──謎解きすら無かったな……。


 血痕は途切れること無く、甲板へと向かっているようだ。──かなりの出血量だ、何があったかは知らないが大丈夫なのか?


 そんなことを思っていると、甲板に出る寸前でトゥナとハーモニーの慌てる声が聞こえた。


「──ティアさん、どうしたんですか! 何があったんですか!」


「す、凄い出血です! 衛生兵~! 衛生兵~!」


 そ、外はとんでもないことになっているみたいだな?


 甲板に続くドアを潜ると、先ほど落ちていた本の著者であるティアが、鼻元を押さえながらトゥナの膝枕で青い顔をしていた。

 しかも出血は止まってはおらず、それどころか更に勢いがましているのでは? っと思えるほど垂れ流している。


「トゥナ、頭を床に下ろすんだ! 変わるから、俺の指示に従い動いてくれ!」


 いきなりの登場で若干驚く二人に、 水と床を拭くもの、ティアの着替えを準備させた。

 きっとあのまま、トゥナが介抱していたらティアは助からなかったかもしれない……。

 彼女の幸せそうな様子を見て何となくわかってしまった。──これは、鼻血だと!


「わ、分かったわ、カナデ君! ティアさんをお願い!」


 その言葉を残し、トゥナとハーモニーは慌てる様に言われた物を準備しに走って行った。


 俺はその後、ティアを抱き上げマストを背もたれにするように座らせた。マジックバックから柔らかい布を出し、離していいと言うまでこの布で鼻を摘まむように指示をする。

 鼻血を止める際に良くやりがちだが、上を向かないようにさせるのがポイントだ!


「所で、どうやったらそんな大量の鼻血を出せるんだよ。トゥナの膝枕か? 膝枕がそんなに良かったのか?」


 そう言いながら、ティアに先程の本を見せつけた。

 ページをめくった時に内容をチラ見したら前回の続編だったしな!──本当に何がしたいんだよ! 俺の視界に入れないで欲しいのだが。


 トゥナの膝から距離をとっためか、ティアの顔色は幾分か良くなったようだ。


「それで、なんでこんな事になってるんだ?」


「あ、あのですね? もうすぐ面白いものが見られるので、カナデ様を呼びに行ったのです」


「それで?」


 ドアに顔でもぶつけたのか? そうでもなければ、あんな出血しないよな……。


「言葉にするのは少々はばかられるのですが、カナデ様とミコ様のやり取りがその……。あまりにも尊くて、私のツボにはまってしまったのです!」


「──はっ?」


 何を言ってるんだ、この変態美人は。一瞬っというより、今も全く意味がわからない。

 俺とミコのじゃれ合いを見て、鼻血を出したって事か? いくらなんでも冗談だろ。


「絡ませるだけが、愛では無いのですね……目から鱗です」


 言っている意味は分からない。っと言うより分かりたくない。

 しかし彼女は、布を更に赤く染めながら真顔で何度も頷いていた。──ついて行けない……。


 ティアは不意に、震える手で俺の持っている本を指差した。


「それは、カナデ様に差し上げる為に持ってたのです。その時に、出来心で覗き見をしていたら、鼻から流血してしまいまして……。慌てて押さえた時に、落としてしまたのですね」


「別に覗かなくても、堂々と中に入ってこれば良かっただろ? それと本は欲しいとは一言もいった記憶がないんだけど……」


──むしろ、御免被ごめんこうむりたい!


 それに覗きを暴露する上に、俺のBLシーンが描かれている本をプレゼントって、返答の正解が見えない。こう言う時……どんな顔をすればいいか分からないの。


「嬉しい……ですか?」


 赤く染まった布で鼻を覆い、瞳を潤ませた美女がつやのある声で俺に問いかけた。


「──嬉しかないわい!」


 流石に喜べなかった。総受けだぞ、総受け! 物語のカナデ君総受けなんだぞ! 大事なポイントだから三回言っちまったよ!


 やっぱり、返品させて貰おう! これは、俺の手には余る。

 

 そう思い、ティアに話を切り出そうとした。


「──カナデ君! 頼まれたもの、準備できたわ!」


 慌てて本をマジックバックに突っ込んだ!──お、早いお帰りだ。お陰で返しそびれた。


 トゥナとハーモニーが、俺の指示した物を持って帰ってきたのだ。しかも、船長も連れて。


「ティアの嬢ちゃんは大丈夫なのか? すごい出血量だったが……」


 彼女が通ってきた道を見たのか? 確かにアレを見たら、誰も鼻血だとは思わないよな……。

 複雑な気持ちなので、一層いっその事、彼女の性癖を暴露ばくろしてやろうか? っと悩んだ。

 しかし、この本が手元にある以上俺も被害に遭う可能性も考えられるか……。


──仕方ない。


「だ、大丈夫です。俺が偶然持っていた、ポーションを彼女に飲ませましたから。今は少しだけ血が止まらないようなので、押さえさせているだけです」


 何とかフォロー出来たみたいだな? 三人ともホッとした顔をしている。

 すると庇った台詞を聞いてなのか、ティアは熱烈に感謝の視線を向けてきたのだ。──やめてくれ、鬱陶うっとうしい。


「ティアの嬢ちゃんも、何があったかしらないが気を付けてくれよな? 此処からが、この航海の醍醐味なんだぜ?」


 船長が言う、醍醐味とはなんのことだろう。もしかして、さっきティアが言ってた面白いものってそれの事か?

 てっきり同人誌擬きの事だと思ってたんだが……。


 俺の様子を見てか、船長が得意気な顔で指を二本立て、驚きの事実を口にした。


「──実はな、戦友よ。このオールアウト号には、まだ二度変形が残されている!」


……っと。

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