第100話 検証

──では早速、検証を始めようか?

 左目を手で隠し、右目だけで回りを見た。すると背景はモノクロに染まり、注視している部分だけは色付いている。


「じゃぁ例えば、手を調べたい時は手を見つめればいいのか?」


 そう言いながら銅板を見ていると、銅板が急にモノクロとなり。いつしか手が色づいた。──どうやら、言葉で対象を指定すると見える物が変更できる様だな?


 それにしても、鑑定のスキルを自分で地道に鑑定していくって、ある意味ネタだろ……?


 そんなことを考えながら、手を握ったり伸ばしたりすると、緑から黄色、黄色から赤色に変わった。

 それに、手の中は血管のようなものが見える。──この色の変化がこの能力の鍵なんだろうけど……。


 手を強く握ると赤く染まり、ゆっくり力を抜き手を広げると黄色、緑へと変わった。──なるほど、もしかして!


 先ほどまで使っていたハンマーを握る。今のままでは、俺の手に色が付きハンマーの柄は見えないが……。


「対象、ハンマー!」


 一言口にすると、ハンマーが色付きだす。俺の手の甲は、ハンマーの柄が赤色に透過してみえた。──なるほど、何となく、全容が分かってきたぞ?…


「対象、銅板!」


 銅板へと視野を移す。そして俺はハンマーを振り上げ、銅板に向け振り落とした。


──カキン!


 その瞬間ハンマーで叩かれた銅板は、打点を中心に赤色の波紋のように波をうったのだ。──なるほどな……恐らくだが、対象にかかった力を色で鑑定する能力みたいだ。


 強さを変え何度も銅板を叩く、すると波紋の大きさと色の違うグラデーションが広がっていく。──よし、間違いないだろう! 手に見えた血管のような物は……もしかして、魔力の流れか? アウラウネの時はそれで、分体の存在に気付けたんだったな。


 そんなことを考えていると、視界の隅にロウソクが見えた。──では、形の無いものを見たらどうなるのだろうか? 


「対象、ロウソク」


 ロウソクの炎の揺らめきも複数のグラデーションで見える……。火力も色として認識してくれてるみたいだ。ってことは、おそらく水力、風力も同等の結果が見れると考えてもいいか?


「それにしても、こんな能力何に使うんだよ……」


 世の中の定番としては、新スキル獲得! っとかってざわめきが起こるものだよな? 地味すぎて、ガッカリ感しか無いのだが……。

 まぁでも、区別をつけるために名前を付けておこうか? 眼力……いやいや、力見眼りきみがん……っはないな。


「じゃぁ、力動眼りきどうがんなんてどうだろうか?」


〈──力動眼、認証シマシタ、今後発動キーハ力動眼トナリマス〉


「──なっ!」


 視界の中に、突然機械的な文字が浮かび上がってきた。──な、なんだコレ!


 ミコの悪戯? と言う訳でもなさそうだな。明らかに漢字を使っている。 鑑定眼のインターフェイスか何かだろうか?


 俺が思考していると、文字が変わり〈YES〉っと出た。──何で今さらになって出てくるんだよ……。まぁどちらにしても、名称が決まったようだ。


「鑑定」と唱えると、魔力を持っていかれながらも、再びいつもの数字と文字の視界に戻った。

 しかし、魔力が全体の二割持っていかれてる。鑑定眼と力動眼を、切り替える為に一割ずつ持って行かれてるな?


「なぁ、地味なわりに、魔力消費がえげつなくないか?」


 俺は、鑑定眼のインターフェイスに話しかけた、しかし、返事が返ってこないみただ。──鑑定眼のインターフェイス君は無口のようだな? 無口なインターフェイス……職務放棄かな?


 さて! スキルの効果は何となく分かってきたし、また作業の続きをしようか?


「力動眼!」


 焼け石に水かも知れないが、金属にかかる力の流れが見えれば、この作業も何か解決策が見えてくるかもしれない。


 そして先ほどと同じように、木材の穴に合わせて叩いていく。すると、ハンマーで叩き凹ませる作業に合わせて、銅板がどの範囲から引っ張られているのかが分かるのだ。


「これなら……行けるかもしれない!」


 半球形の穴を作り、反り返った部分を平らに叩き直す。 一つ目は完成だ、ここまではさっきも出来たんだよな?


 後はこれを複数箇所作るだけなんだが、力のかかり具合から見ると、穴同士が近すぎた可能性があるな。失敗の原因は、新しい凹ませ加工に、隣の穴が引っ張られて歪な形になったと思われる。


「それなら、もっと極端に距離を離せば!」


 反省点を踏まえ、もう一つの半球型の凹ませ加工を始めた。慎重に、慎重に叩いていく。


「で、出来た?」


 それは、本来作りたいもののイメージとは若干異なるが、使うぶんには問題ないはず。

後は、この板一面に同じような半球型の凹みを出来るだけ沢山作って……。


 希望が見えてきたら、作業が段々楽しくなってきたぞ! このまま完成まで、一気に仕上げるか!


「よし、次はこの辺りなら大丈夫だろう!」


──その後しばらくの間、金属を叩く音が部屋に鳴り響いたのだった。

 

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