第99話 鍛金
──意識の外から、何か音が聞こえる……。
以前にも、何度か味わった感覚だ……いつだったか……。
──思い出した! 以前は、ワイバーン戦の後だったな? 魔力使用過多で倒れると、いつもこうだ……。
そう言えば、このまま目を開けると、ご褒美の時間のはずだ。──忘れるはずもない!
思考がしっかりと働き、ミコに警戒しながらもゆっくりと目を開けた。すると目の前には、山ではなく平らな丘が二つ……。これは比喩表現になるが、その丘はピクピクと歩いている様に見えた。
「お?
──くそぉ、船長の胸筋かよ!
目の前ではこの船、オールアウト号の船長が、何やらポーズを取りながら椅子に座ってこちらを見ていた。
俺は過去の経験から危機感を感じ、慌ててベットから飛び退く……こんなの、恐怖でしかないだろ?
爽やかに笑いながら、俺の下半身に向かって指を差す船長。
「元気になったようだな。とりあえず布団に戻るか、服を着た方がいいんじゃないか?」
彼の指差した方を俺がみると、そこには。──親分!
どうやら俺は、寝ている間に全裸に剥かれ、産まれたままの姿にされていたようだ。
貞操の危機を感じた俺は、船長から事情を聞く事とした──。
──どうやら、風邪を引かないように濡れた服を脱がし、布団に寝かせてくれたらしい…
…。
全裸なので、付き添いは船長が代表してくれたとか。──疑ってすまん……船長。
「まぁ、それにしても健康そうでよかった。今晩は少々遅いから、仲間との顔合わせは明日にしておいた方がいいだろうな」
そう言いながら部屋から出ようとする船長。
しかし、部屋から出る直前で振り返りワンポーズ【フロント・リラックス】をした。
「言い忘れた、素材も回収してあるからな」と言って、部屋から出ていった……。──っていうかほぼ普通に立っているだけだろ、そのポーズ!
しかし、脳裏に焼き付いた。イイ顔してたな、船長……。
船長が部屋を出ると、部屋は静まりかえり波の音しか聞こえない。
ロウソクと月明かりだけが、暗い部屋を照らし出している。──そう言えば、いつの間にか雨が上がってるな。……大きくて綺麗な月だ。
俺は無銘を手に取り、中にいるであろう少女に声をかけた。
「ミコ、出てきてもいいぞ?」
返事はない……っか。どうやら、ミコは寝てるみたいだな?
マジックバックの中から、替えの衣類を取り出そうとする。──そうだ!
思い立った俺は、替えの下着と、久しく着ることの無かった
下着を履き、上からシャツを着る。その上から半袖長ズボンの甚平を身につけ、上着の下に無銘を刺す帯を巻く。──うん、この格好も久しぶりだな……。
「──さて! 何をしようかな?」
目がバッチリ覚めてしまった為、二度寝する気にもならないな? ひとまず無銘の整備だな……潮風に触れたし。
後は……そう言えば、素材がどうとか言ってたな? あの時出た素材。あぁ、船に付いた足だろうか? ワザワザ回収してくれたみたいだな。
しかし、あんな巨大な足何に使えるんだろう。タコって言ったら、ヤッパリ装備品の素材に使うってよりは……食用か?
俺は無銘の手入れを始めながらも、ボーッと考える……。
そして、手入れが終わる頃には朝日が昇っていた。──もう朝なのか? 今日は晴れてくれたようだ。太陽が見事に……太陽?
「そうだ!」
俺は思い付きで、バックから木材と複数のハンマー。それとは別に、一番薄い銅板を取り出した。
借りっぱなしの工具を使い、木材をピンポン玉の様に加工する。ノミで丁寧に削っていき、魔物の皮でヤスリがけをした。
完成したものの上から銅板を重ね、ハンマーで叩いた!
──カン! カン!
何度も何度もハンマーで銅板を叩く。金属が響く音と共に、銅板に半球型の凹みを作っていく。
今行っている作業は【
具体的には、型や金床に鉄を重ね、ハンマー等で叩き、形を形成する技法。
代表的な物で言えば、鍋の様な物や、アクセサリー作り、新幹線の先端部分なんかにも使われている方法であるのだが……。
「こ、これは難しいな……」
一個目の凹みを作り、それによって反り返った、周囲の部分を叩いて平らにする。少し離れた部分にまた凹みを作ると言った行程を繰り返していたのだが……。
「穴が空いたり、前に加工した部分が引っ張られて、歪な形になってるな……」
本来であれば、今作っているものはプレス機だったり【
銅板なら鉄よりは、少なからず粘りがあり柔らかいため、加工しやすいと思ったんだけど、目論見が外れたな。
「鑑定!」
やっぱりだ、鑑定越しに見ても加工した付近は耐久力が落ちている。
一枚皿とかなら、不格好でも作れそうなんだけどな……。さすがに俺の実力では、鍛金で複雑な凹凸物を作るのは無理があった様だ。──しかし、何とかならないものかな……。うっ──!
──ガタンッ!
突然の脱力感によりハンマーを落としてしまった。身に覚えがある感覚だ、見開いている俺の目に、写る情景が変化していく。
鑑定眼の、数字と文字の世界がモノクロの世界に変わる。その後すぐ赤、黄、青、緑と四色をベースとした世界に変わったのだ。
「──あの時の鑑定眼か!」
さっきの感覚、魔力を一気に持ってかれた……。──これは危険だ!
発動条件が分からないと、戦闘中に意識を失う可能性もある。何より使い分けが出来ない……。
暇を持て余していたし、丁度良い機会かもしれない。ここで、この事象の検証でもしてみようか?
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