第98話 女子会3

──フォルトゥナ様の寝顔……。本当に最高っです!


 私達はあの後すぐに、床に就きました。フォルトゥナ様もハーモニー様も、雨に濡れて疲れていたのでしょう……すぐに就寝されたのです。

 私の耳には、彼女たちの寝息が聞こえてきます。


 実のところ、私も非常に眠くなってきましたが、寝るわけには行きません。──日課のお祈りがあるのです。


 私は本来、潜入任務などで扱われる、マジックアイテムの一つを、自分の荷物から取り出しました。


 マジックアイテムの名は【かいちゅうてんとう】、魔力を注ぐことで明かりを灯す優れものなのです。

 暖色だんしょく系の光を発光し、送り込む魔力量で明るさ調整も自由自在なのです! 寝ている人の睡眠を妨げることのない、親切設計なのですよ?


 余談ですが世界に百台もありません……。

 まるでこれは、フォルトゥナ様の寝顔を見るために、生まれてきたようなアイテムですよね!


 明かりを灯し、正座をしてフォルトゥナ様を見つめます……。その後、自身の両手を組み、神様にお祈りするのです。


 フォルトゥナ様と出会えた、神様の粋な計らいに感謝します──っと……。


 時々、薄目を開けながらフォルトゥナ様を見つめては、神様に感謝をする。それが私の日課なのです──。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 か、完全に寝不足ですね……。昨晩のお話思い出しながらお祈りしてたら、テンションが上がって完全に寝るのが遅れました……。


 翌朝。私達は起床した後、身だしなみを整え、カナデ様を訪ねることにしました。


 レクス・オクトパスとの戦闘を行ったカナデ様は、その戦いが終わった後に、魔力切れを起こし眠ってしまいました。

 随分と時間も立っておりますので、もう起きられてると思うのですが……。


 私達三名は、カナデ様の部屋の前に到着しました。

 そしてノックをして「カナデ様、起きていますか?」と、声をかけたのです。


 部屋からはドアを叩く音と「開けて欲しいカナ! お腹すいたかな! ペッタンコカナ! ペッタンコカナ!」と、言う声が響きました。ミコ様でしょうか?


 その声を聞き「デジャブだわ……」っと、頭を抱えるように溜め息をつくフォルトゥナ様。凛々しくて素敵です!


 そして私は見逃しませんでした。「ペ……ペッタンコ」と、御自身の胸元をコッソリ撫でるハーモニー様の姿を……。これがちまたで聞く、えというやつでしょうか?

 成長するといいですね? 例えしなくても、ハーモニー様はとても愛らしいと思います。と、心の中でフォローを入れました。


 返事はありませんが、 非常事態なので扉を開けさせていただきます!


──すると突然! 先程大声で叫ばれていたミコ様が、顔の色々なところから液体を垂らし私に抱きついてきたのです。

 縮尺はアレですが、これもひとつのご褒美ですね!


 部屋の奥では、カナデ様が何かなさってますね……。ブツブツ言いながら、無心に金属を叩いているのでしょうか?


「ミコ様? カナデ様はいつからあの状況なのですか?」


「いつからって、分かんないカナ! ずっとカナ! ボクが起きた時にはやってて、ずっとカンカンだモン! それよりご飯欲しいシ! ペッタンコダシ!」


 ミコ様、ペッタンコはやめてあげてください。そろそろハーモニー様の瞳に涙が貯まってきていますので……。


「分かりました、私が食堂で食料を分けてもらいに行って来ますね」


 私はそれだけ言うと、食堂に向かうことにしました──。


 食堂は、貴族等を対象とした客船では無いためか、大型のレストランでは無いのですが、船員達だけで食事を取るには十分な大きさがあります。


 私は厨房のコックに頼み、雑談をしながらも一人分より、少し多めの食事を準備してもらい、再びカナデ様の元へ戻ることにしました……。

 それにしても、カナデ様も無事に起きられて本当に良かったですね……。コック様からも、興味深い情報を仕入れましたし、この情報、如何いかにして有効利用致しましょうか。


 そんな事を考えながら、カナデ様の部屋に戻ると、フォルトゥナ様とハーモニー様が、何やら慌てておりました。


「テ、ティアさん! カナデ君の様子がおかしいの!」


 カナデ様の様子が? 大概、いつもおかしいと思いますが……。


「て、鉄を叩きながら、何かブツブツ言ってるんですよ~! 話しかけても反応ないですし!」


 なるほど……余程ストレスがたまっていたのでしょうか? 自分の殻に閉じ籠ってしまった様ですね、少しいたたまれないです……。


「ひとまず食事を置いたら、ミコ様には悪いですが部屋に戻りましょうか? 一応、殿方がお使いになられてるお部屋なわけですし」


──これはチャンスですね……。カナデ様に、今までお世話になった御返しをする、またとない機会です。


「そ、そうね……一度落ち着いた方がいいわね」


「は、はい……。少しそっとしてあげましょうか? ミコちゃん、カナデさんの様子、見ててあげてくださいね?」


 その後、私達は自室に戻り、カナデ様に元気になって貰うための、対策会議を行いました。


「様子から察するに、最近辛い目にばかりにあってらっしゃるので、体よりも精神的な疲労が大きいのかもしれませんね……」


 皆様揃いもそろって目を背けました。私を含め、彼女たちには痛いほど身に覚えがあるのでしょう。

 私も少なからず、彼には精神的に負担をかけている自覚が少しだけあります。まぁ、少しだけですが。


──もしやこれは! 先ほどの情報を有効利用するチャンスなのでは!


「御二方、実はですね? 先ほど食事を取りに行ったときですが、もうしばらく進んだ後、船を海上で停泊して修理を行うと情報を得ました。せっかくなので、そこでカナデ様にご褒美を与えてはどうでしょうか?」


「ご、ご褒美ですか~?」


 どうやら、彼女は警戒している様ですね? 

 露骨に嫌そうな顔のハーモニー様に「では、ハーモニー様が嫌そうなので、私が特別なご奉仕を……」と彼女の不安をあおることにしました。


「──わ、私も参加しますよ~!」


……ちょろいです。ちょろすぎです。


 ハーモニー様は、慌てて食い気味に答えました。扱いやすすぎます。少々心配になるレベルで扱いやすいです。


「とてもイイと思うわ! 私も協力します」


 狙い通りです! 言質げんちをいただきました! フォルトゥナ様なら、嫌とは言わないと思ったのですよね。


「それで、ご褒美って何をすればいいのかしら?」


 これで私の企みは達成した様な物です。カナデ様もさぞ私に感謝するでしょう。何より、私にとって最高の展開になりました!


「任せて下さい……私に考えがございます──」




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