第96話 女子会1

 レクス・オクトパスとの戦闘があった、雨が降る晩の事です。

 これはわたくしティアと、フォルトゥナ様、ハーモニー様のめくるめく愛のお話……オホン。もとい、愛を語り合った日のお話です。


 オールアウト号での航海中 私達三人には、それはそれはとても大きな三人部屋の船室があてがわれました。そして毎晩のように、同じ部屋で寝室を共にするのでした……。──あ~ダメです! もう、毎晩がご褒美すぎてたまりません!


……おっと、脱線してしまいましたね。いけないいけない。


 今から語るは、就寝用の衣類を身に付け、寝る前の語らいの一ページ。そんなほんの一時の物語。


「──本当にカナデさんは、いつも最後がしまらないんですよね? 今日も魔力切れで寝てしまいますし~……」


 小さなフリルがあしらわれている、薄い黄色の寝巻きに、身を包んでいるハーモニー様。

 彼女の口から、本日だけで数回目となるカナデ様の悪口が出ました。ただそれは、決して相手を嫌っての言葉では無いでしょう。むしろ、どちらかと言うと好意を持っているからこその照れ隠しですね。


「ハーモニー、さっきからカナデ君の話しばかりよ? 本当カナデ君の事が好きなのね」と、クスクスと可愛らしく笑う少女。


 その少女は、リベラティオ国で流行っている、ネグリジェ……と言っただろうか? その薄い透き通る衣に、清き御身を包まれています。

 その女性の名はフォルトゥナ様。天使の様な彼女の口から、おそらく深くは意識していないでしょう……。しかし、的確に確信をついた言葉が発せられました。──本当、フォルトゥナ様の無自覚な小悪魔な所が素敵です! 尊いです!


「べ、べべべべ、別に、カナデさんが好きとか……。そ、そんな事ないんですからね~!」


──はい、ツンデレさんです。

 フォルトゥナ様の発言に、明らかな動揺を示すハーモニー様。これはこれで、そそるものがあります!

……イヤイヤ、ダメです! 私には、フォルトゥナ様がいるのですから、浮気はダメなのです!


 そんな事を考えて、私がニヤニヤしている時です。── 私は思い付いてしまいました。


 そう……これは、ネタになる! っと。


 ただ、この程度じゃダメですね。私の作品の登場人物を語るには、まだスパイスが足りません。

 そうですね……これは一つ、場をかき回してみましょうか?


「ハーモニー様? 何も人を思う気持ちをごまかす必要は無いのですよ。愛は……崇高なものなのですから」


 私の発言に対して「それをティアさんが言うんですか~?」と、もの言いたげな顔でこちらを見てきました。


 なるほど、カナデ様と仲がよろしいだけあって、ハーモニー様はどうやら私の趣味趣向をご存じのようですね。

 あの軽蔑にも似た眼差し……癖になってしまいそうです!


 ふむ……では少し、作戦を変えてみましょうか? 押してダメなら引いてみろ、ですね。


「わ、私は、カナデ様の事。と……とても素敵だと思いますよ? 確かに最後は至らない点もあると思います。しかし、自身をかえりみず、果敢かかんに強敵に立ち向かっていく姿に、私はつい、男を感じてしまうのです……」


 私はそう言いながら頬に手を当てて、体をくねらせる……。どうですか? お姉さんの迫真の演技力は!


「──そうよね! カナデ君格好よかったよね! ワイバーンの時も、レクス・オクトパスの時は……ちょっとアレだったけど。それでも勇敢に立ち向かう姿は、まるで勇者様よね!」


──あ、貴女が食いつきますか、フォルトゥナ様!


 若干興奮ぎみにフォルトゥナ様が釣れました。まさか、こちらが釣れるとは全く思っておりませんでした……。

 何ですか? 私の心の中に、何かモヤモヤしたものが。もしかして! 私がジェラってるんですか? フォルトゥナ様の、カナデ様に対する気持ちにジェラってるんですか!


 そして今回の本命も、静に釣れておりました。私の発言と仕草に「え、え? ティアさんって……あ、あれ~?」と、挙動不審な態度を見せております。

 私のフォルトゥナ様への思いを知ってての動揺なのか。もしくは、私の想い人がカナデ様だと言う勘違いなのか……。今は、どちらでもいいのです。


──どう転んでも、ネタになります!


 いい感じに場が荒れてきましたね、私も少々痛い思いをしましたが。なんかモヤモヤしたので、完全にネタになってもらいますとも!


 さて、まずは観察です。う~ん……フォルトゥナ様のあれは、恋愛感情ってよりは、憧れに近そうですね。

 前々から思ってはおりましたが、どういった教育をなさったら彼女のように、羞恥心を持たせた恋愛幼稚園児を生み出せるのでしょうか……尊すぎます!


「あ、あの~ティアさん? ティアさんは、カナデさんの事……。す、す、好きだったりするんですか~?」


 ハーモニー様は、モジモジしながらこちらの様子をうかがっています。彼女に、ネタになって貰うときが来たようです。


「そ、そんなの言えませんよ。ハ、ハーモニー様が好きでないのなら……。別に、どうでも構いませんよね?」

「──そ、それってどう言う事ですか~!」


 完全にうろたえてますね、ハーモニー様。カナデ様に対する想いがにじみ出てますね……可愛いです。ジュル。


「ま、まさかティアさん? お付き合いを考えていたりしてますか? た、確かにティアさんはお綺麗ですし……。ス、スタイルも良いから、カナデさんならイチコロだと思いますけど~……」


 ハーモニー様も、本当に可愛いです! あの泳いでる目……最高ですね。

 それにしても、いい感じですね。完全に欺くことが出来たようです。


「──え? ティアさんとカナデ君、お付き合いするの? それじゃ、ゆくゆくは結婚するのかしら」


 突如、とんでも発言をするフォルトゥナ様に、私は驚愕きょうがくしてしまいました。

 どうやら、テンションが上がって失念していたのです。

──本命の相手の前で、他の殿方に興味があるような態度を、取ってしまっていたことに!

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