第79話 三度目が一番痛かった
「なんであいつらが居るんだよ……まだ到着には時間が掛かるんだろ?」
あの時ティアは、確かに到着するのには三日程かかると言ったはずだ、しっかり覚えているぞ?
「いえ、カナデ君は二日半眠りっぱなしだったのよ? だから予定通りなの……今日の朝には到着しててもおかしくないわ」
そ、そうなのか? 俺そんなに寝たっきりだったのかよ……。今は何ともないから実感が沸かないが、かなりヤバかったんだな。
「カナデさん、どうするんですか! あれじゃぁ船に乗れませんよ~!」
確かに、
「確かにマズイな……。あの中に召喚された時に会ったヤツがいる」
「そうなの? じゃぁ、今の変装だけだと見つかるかもしれないわね……」
何て間が悪いんだ、ここを抜ければ晴れて自由の身なのに……。あれ? 悪役っぽいな……この台詞。
俺とトゥナが頭を抱えていると、誰かが服を引っ張ってきた。
「──なんだよ、ハーモニー?」
「いえ、その……カナデさんの姿の何が変装なのかな? っと思いまして~」
あぁ~そうか。トゥナ以外は、俺が元々は黒髪で和装な事は知らないもんな?
「髪の色と、衣装だけ変えてあるんだよ。それだけで意外とばれなかったんだぜ?」
本当にそこにはビックリだよな? それだけこの世界では、黒髪が特徴的だったんだろう……。髪の着色なんて、発想自体がないのかもな?
「カナデさんみたいな特徴のある刃物フェチなら、すぐに気付くと思うんですけどねぇ……まったく無能ですね~……」
おいどっちの味方だよ。後、刃物フェチって……。ハーモニー、おまえは後で何かしらのお仕置きをしてやろう。
「カナデ君、グローリアを出たときのアレどうかな?」
ん、グローリアを出たときの……? あぁ~外壁を切らない方の手段だっけ? そんなこともあったな。
「確かに、その手があったな? じゃぁそうするかな」
流石トゥナ、名案だ。あれなら確実にバレずに乗船できるだろう。事前許可も取ってあるし、密航……にはならないよな?
「それじゃぁ、私達は先に行くわ。ハーモニー、ティアさん、先に行きましょう」
それだけ言うとトゥナは皆を連れて、ギルド船へと向かう……。──じゃぁ俺は、また後からこっそりついていく方向で……。
俺は魔法使用で疲れるのが嫌なので、隠れながら船に近づいて行く。
「だ、大丈夫なのですか? カナデ様を一人にして」
「大丈夫よ。前にもそれで町を抜け出してるから」
トゥナに背中を押され、三人は検問も通りすぎて行く。──あまり遅いと心配かけるし、そろそろ動こうかな?
「じゃぁミコ、もうちょっとだけ近づいたら、アレお願いできるか?」
『わかったカナ、チョチョイノチョイだシ!』
なるべく移動距離が減るように、建物の物陰に隠れ更に近づいていく。──この辺りなら十分だろう……ミコ頼んだよ。
『任せるカナ!』
返事の後に何やら小さい声で呪文を唱えるミコ。
それにしてもあの兵士、ワザワザここまで来て何日間アレをやる気だ?
俺がよその国に入るって知ったら何かしらの罰則もありえるかもな。……いい気味だ。
『インビジブル!』
ミコが魔法名を唱えると、徐々に体が不可視になって行く。何度見ても見事な魔法だ、悪用できないのが勿体無い……。
『なんか言ったカナ?』
「──いえ……何も」
さぁ何はともあれ、これでこの大陸ともおさらばだ──!
「──カナデ様……遅いですね……」
「やっぱり捕まってしまったんじゃないですか~?」
甲板の上では俺が中々姿を現さない為、ハーモニーとティアが心配そうな声をあげている。──既に目の前にいるとも知らずに……しめしめ……。
「大丈夫よ前の時もこんな感じで……あら? 私、何か忘れているような気がするわ……」
俺は頭を抱え、悩んでいるトゥナを横目に、ハーモニーに近づいた。──今がチャンスだよな? さっきのお仕置きを今してしまおうか……。
俺は両手をハーモニーに向かって伸ばし、手をワキワキと動かす。
『カナデ! それ以上罪を重ねたらだめカナ!』
──なんと! ミコが止める声と共に魔法が消えてしまったのだ。
甲板の上では、ロリっ子の耳を
「ひゃぅん~!」
ハーモニーの口からは
周りの視線が突き刺さる。特にエルピスのメンバーの二人の視線は、それだけで人を殺せるのでは? っと思えるほど殺意を帯びている。
「あ、あれだよ……。ずっとエルフの耳に興味があって……」
ただの犯行の自白だった、言い訳にもなっていないじゃないか! 俺の異世界生活はどうやら詰んだようだ。
「カナデ様……あのですね? エルフの耳はヒューマン……。人族の何十倍もの感度があるんですよ? 一般的に、夫婦間でも無闇に触ることはないのです。この意味、お分かりになりますか?」
「……そ、そうなの?」
やばいやばいやばい! 知らなかった、全然知らなかった!
全身の血の気が引き、悪寒が走る。喉はカラカラに乾き、手が震えてきたのだ……。
そして、恐れていた事態はすぐ様起こったのだ! 俺のみぞおちに、何やら激しい衝撃が走った!
「──ゴフッ!」
痛みの原因は言うまでもない。トゥナの
「ポ、ポーションを……」っと助けを求める俺に、あの方が声をかけてきた。
「カナデ君、前にも似たようなことしたわよね……? 忘れちゃったのかしら?」
覚えている……覚えているぞ! 彼女は確かに言った。「次、同じことをしなければいいわ」……っと。
──それはつまり、次は無いぞ? って言うことですよね?
「あ、謝るから、ごめんなさい! だ、だから、おやびんだけは御許しください!」
よっぽど余裕が無かったのか、俺の口からおやびん登場。
この後、痛みを伴う折檻は無かったものの。しばらくの間、危険人物につき無闇に、見ない、聞かない、触らないっと書かれた板を首から下げる事になったのだ──。
──どれ程時間がたったのだろうか? 船は港を離れ海上をユラユラと揺れている。無事に? 国を離れることが出来たようだ……。
「カナデさん……いい気味ですね~……」
一人で羞恥の眼に晒され土下座している俺に、ハーモニーが近づいて来た。
俺は、声には出さず板を指差す。自身が危険人物だから、チビッ子は近付かないようにっとジェスチャーをした。
すると、その情けない姿を見たハーモニーが、俺の首から板を外したのだ……。──これは……許してくれたって事で良いのか?
「ハーモニー……ごめん」
知らなかったとは言え、彼女の大切なところに触れてしまったんだ。
俺の謝罪の言葉に、ハーモニーはあきれた仕草をする。そして「カナデさんですしね~」の一言を残した。
船内に向かうハーモニーは足を止め、こちらを振り返る。
「……お嫁にいけなくなったら、カナデさんが悪いんですよ? その時は……責任、とってくださいね?」
彼女は、その一言を残し船内へと入っていったのだ。
「………………えっ?」
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