第76話 ワイバーン討伐後
──視界が暗い……あぁこれは、目を閉じているからか?
「カナ…君……早く起……よ、傷はも…治ってる…しょ?」
「…ナデさん~! 早く起き……だ……、いつもみ……にからかって…だけ……で…よね~?」
どこからか、聞き覚えのある女性達の声が聞こえる。しかし、その声は何故か元気がない……。その為なのか? 俺の心がざわついた。
「御二人…も、落ち着…………さい。カナデ様は大丈夫……から……」
──俺が……大丈夫?
あぁ、思い出したぞ……。確か俺は、ワイバーンを倒したと同時に魔力を使い切って、意識が飛んだんだ。その時に、ワイバーンの反撃を受けて……。
それじゃぁ、もしかしてここは天国か? って、彼女達の声が聞こえるんだ。そんな事ないよな……?
意識がハッキリしてきた俺は、重く、固く閉ざされている自分の瞼を何とか開けようとする。──確かこんな時、言葉にするテンプレがあったな……。
みんなきっと、俺の事を心配しているだろう……。ここは一発、あの台詞で場を和ませてやるか?
う~ん、なんだっけか? あぁ、そうだ。目を開けたら、知らない天井だった……のはずだ。
何とか薄目を開く事が出来、俺の視界に天井が……映る事は無かった。何とそこには、大中小の連なる柔らかそうな山々がそびえ立っていたのだ! そう……やはりここは天国だった。
耳を済ませば三人の天使の声が聞こえる。完全に意識がハッキリしてきたぞ? そういえば、前にも同じ様なことがあったはずだ! あの時はミコの妨害にあって、堪能できず仕舞いだったはず……。
ミ、ミコはどこだ! どうせまた目を開けたのに気付いたんだろ? 俺は、同じ
前回の教訓を生かして今回は──。
俺はできる限り瞳を見開き、一瞬たりとも目の前の光景から視線を離さない。例え瞬きを忘れ、目が乾燥したとしてもだ!
──この光景を目に焼き付けてやる!
『カナデ……。
「…………」
予想外の結果に言葉が出なくなる……ミコの念話が聞こえたって事は……。
「──今回はそっちかよ!」
俺はツッコミと共に、体を起こした。本当この子は、俺の想像の斜め上を行く!──あぁ~煩悩が~~~! 俺の煩悩を覗かないでくれ~!
少し冷静になると、俺は美女、美少女の注目の的になっていた。彼女達は突然の事に驚きを隠せない、そんな顔をしていた。
「カナデ君!」
「カナデさん!」
「カナデ様!」
「あ……はい。カナデです。おはようございます……」
俺が挨拶をすると、突如ハーモニーが泣き出した。
先程の事もあって罪悪感で顔を会わせずらいのだが……。あれ? これ以前にも似たようなことあったぞ? 完璧に同じ轍を踏んでるじゃないか……俺!
「カナデ君大丈夫なの! 体に異常はない?」
俺の寝ていたベッドの上に乗り、グイグイと迫るトゥナに押され気味になる。心配をしてくれている彼女を安心させるために、鑑定を使い自分の体調を確認した。
「大丈夫……かな? むしろ前より調子がいいぐらいだ」
鑑定眼の結果では、自身の能力値が前より格段に上昇している。──今さらだけど、この世界はゲームみたいだな……。魔物を倒し、レベルアップでもしたのだろうか? まぁ強くなるとしても、無駄な殺生をしない俺には関係ないんだけどな……。
「──カナデさん~カナデさんカナデさん!」
顔を涙でグシャグシャにしているハーモニーが、何度も俺の名前を呼ぶ。──ここまで心配してくれるとか……なんか、嬉しいな。
俺は両手を広げ「ほら、こいチビッ子」と、
「──ゲフゥゥゥ!」
あろう事か、飛び込んできたハーモニーの頭が俺のみぞおちに痛恨の一撃を与えた。
あまりにも痛かったので、使いっぱなしの鑑定眼で自身を見ると、今ので体力が三割り近く持っていかれていた。──う、嘘だろ?
流石に痛かったので、やりすぎだと注意を促そうとした。
しかし、彼女は俺の服に顔中の液体を擦り付けながら、泣きじゃくっていたのだ。──これじゃ……怒ることも出来ないよな?
俺は文句も言わず、ハーモニーの頭を精一杯優しく撫でた。
皆は無事そうだな? トゥナもポーションを飲んだのか、折れていた腕が治っている様だし……流石異世界。
「そう言えば、ワイバーンはどうなったんだ? 首を跳ねた筈なのに、反撃を貰ったんだが……」
俺の質問に、ティアが布で涙を拭きながら、あの時の状況を説明してくれた──。
「──つまり……俺は間違いなく首を跳ねて倒した。しかし、ワイバーンが攻撃の為に振っていた尻尾は止まらずに、動かなくなった俺に当たって吹き飛ばされたと……そう言う事ですね?」
どうやら事の本末はそれでいい様だ。ティアは涙を瞳に貯めながらも、何度も首を縦に振る。
……なんて締まらない巻く引きなんだ。粋じゃないな……俺。
「それにしても、あんなもんに当たって良く平気でしたね……俺?」
「──ぜ、全然平気じゃなかったわよ! カナデ君死にかけてたのよ? ポーションだって、二本も使わないとダメだったんだから! 解毒薬も必要だったんだからね!」
俺は彼女の迫力にたじろいでしまう。普段、ここまで熱くならない彼女の勢いに圧倒されたのだ。
これは、それだけ心配してくれていたと言う事なのだろうか? でも、ポーションを二本もって言われても、基準が分からないぞ。
「本当……本当に死んじゃったかと思ったんだから……。余り無理しないでよ……」
トゥナはそう言いながら下唇を噛む。泣くのを我慢していたのだろうか? 彼女も他の二人同様に頬を濡らすのだ。──トゥナの様子からするに相当な大怪我だったらしいな……。今更ながら、本当に自分らしく無いことをした気がする。
女性を泣かしておいてなんだけど、俺は心の底から思った。彼女達が……皆が無事でよかったと。
「──本当大変だったカナ! ボクもすごく、すご~~く心配したモン!」
帯に刺さっている無銘から、ミコが突然飛び出し叫び声を上げた。──こいつにも心配を掛けちまったな……。
「本当大丈夫だから、心配するなって……ありがとうな? ミコ」
俺の言葉を聞き安心したのか、ミコはほっと胸を撫で下ろす。
「それならよかったカナ。それにしても、本当に心配したシ! カナデ、自力でポーションも飲めないぐらいボロボロだったモン!」
「──えっ? じゃぁ、どうやってポーション使ったんだよ?」
俺の返答に「あ……言っちゃった!」みたいな顔をして両手で自分の口を塞ぐミコ。──えっ?
俺は説明を求める為、他の三人を見た。しかし、先ほどまで泣いていた彼女達は、うっすらと頬を染め、
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