第75話 ワイバーン戦 下
狙いが外れた
しかし、そう思った。その時だ──!
──ドオォン! っと、ワイバーンのすぐ近くで謎の爆発音が起きたのだ……。
「はっ? も、もしかして、これがティアの弾道補正か?」
目に見えない爆発は、銛の落下方向を変えていく……。一度、二度……三度目が鳴りやむ時には、見事にワイバーンの体にロープが巻き付いていた。
な、なんだよアレ? 俺はてっきり、銛を当たるように魔法で支援すると思いきや、こう言った補正方法なのかよ……。
まぁ、飛んで行く銛を補正するより、失速した銛に何かしら細工をする方がやり易かったのだろう。
ティアのやつ、ヒヤヒヤさせやがって……。しかし、何とか予定通りにロープを絡ませる事が出来たぞ!
「……良くやった。二人とも!」
振りほどこうと暴れるワイバーンの体に次々とロープが絡んでいく。──この様子だと、翼を広げられなくなり落ちてくるのも時間の問題だな。
この時俺は、心のどこかで油断していたのかもしれない……
「──おいおい……待てよ、あまり引っ張るなって!」
当初の予定では、絡まった時点でその場に落ちて来る予定だった。
しかしあろうことか、ワイバーンはロープが巻き付きながらも何とか飛ぼうと暴れまわったのだ。
ロープはワイバーンの体に勢い良く巻き付いて行く。そして、残りが無くなったロープはピーン! と引っ張られてしまったのだ。
銛の反対側を、余程しっかりと何かに固定したのだろう……。
ワイバーンは引っ張られた勢いで、ハーモニーとティアがいる方に向かって落下していったのだ。
「ハーモニー! ティア! ワイバーンがそっちに落ちるぞ! 逃げろ!」
叫び声をあげ、俺は走り出そうとした……。
しかし、自分が思ってる以上に魔力使用の眠気、疲れや心身疲労が溜まっていたのだろう、膝から地面に崩れ落ちてしまったのだ……。──くそ! こんな時に!
俺はなんとか立ち上がろうと奮闘するものの、体がなかなか言う事を利かない……。その時だ──。
「──トゥナ!」
背後からトゥナが俺を追い抜いて行ったのだ!
大きな爆音を上げ、砂煙を上げながらワイバーンは地面へと落下して行った。そして、そのすぐ後を追うようにトゥナも砂煙の中に入って行く。
俺も……俺も追いかけないと! 動けよ、この体! くそぉぉぉ!
無銘を杖変りに、何とか自分の体を無理矢理起こす。そして、力の入らない体に鞭を打って俺は走り出した。──集中しろ! 緊張感を持て! 今途切れたら、動けなくなっちまう!
自分を奮い立たせながらも、俺はトゥナの後を追うように砂煙の中に入って行った。
「ヒュグギャァアァァァァ!」
ワイバーンの叫び声だ……一際大きかったな?
その叫び声が、悲鳴なのか……それとも雄叫びなのかは分からない。ただ分かった事……それは砂煙の中でトゥナとワイバーンで交戦が合った事を示しているのだろう。──間に合ってくれ! 皆……無事でいてくれよ!
視界は次第に晴れ、落下時になぎ倒されたであろう木々の間に、ハーモニーとティアが尻餅をついていた。そして二人を庇う様にして、レーヴァテインを右手で構えるトゥナが立っている。──良かった! 三人ともまだ無事……。
……ではなかったようだ。トゥナの左手は力なくブラブラと揺れ、変な方向に曲がっている。──腕が折れてるじゃないか! そしてワイバーンもすぐ近くにいる……あの状況はまずい!
ワイバーンの片側の翼が失くなっており、首の裏に無数の傷痕が見える。拘束の為のロープは、落下の衝撃の為か切れて散り散りになっている。
ヤツは
二人を守っている状況だ……! 今のトゥナには、次の攻撃を避けることも受けることもできるはずがない!
俺は渾身の力を振り絞り走った……。今彼女達を守れなくて、何がリーダーだよ!
「──全員、目を閉じろ‼」
俺は大声で叫び、無銘を抜くと大きく振りかぶった。
ワイバーンも俺に気づいたのだろう。俺の方に振り向くと、その大きな口を開き牙を剥いてきた。
「ミコォォォォ……輝けえぇぇぇぇ‼」
俺の掛け声に、突如無銘が眩く輝き出した。それは一瞬にして辺りを真っ白な光で埋め尽くしたのだ。
ミコと打ち合わせた、過去に勇者が魔王の城を沈めたと言う攻撃魔法。それを俺の魔力量に合わせ、大幅に縮小、熱量ではなく光量に重点を置いてもらったのだ。──お前は目がいいんだろ?……異世界式スタングレネードだ!
その光をモロに見たワイバーンは、眩しさの余りに俺の姿を見失ったのだろう……。俺は一瞬の隙を狙い、振りかぶっていた無銘を振るった。
──スンッ!
俺は、音すら立たない一撃をワイバーンの首へと浴びせた……。
ワイバーンの首は大きさの為、完全に切断とまでは行かなかった。しかし、これだけ斬りこめれば十分だ……。
ヤツの頭は重さでズルっと体から離れ、地面に落ちる事となった……。──終わった……。
血の雨が周囲に舞い、辺りを赤く染めていく。そして、地面には赤い水溜まりを作ったのだ。
──何とか……。退治することが出来……た……。
そう思ったら、耐えられない眠気が俺を襲った。立っていることが出来ず、崩れる様に両膝をついてしまった。
ゆっくりと閉じられる視界の中、仲間の安否を確認した。──良かった……三人とも何とか無事だったみたいだ。
意識を閉ざしかけていた俺の耳に「カナデ君! 避けて!」と、声が聞こえるような気がした。
──その瞬間、ミシミシミシ! っと、体がきしむ音が聞こえた。うっすらと、ほんの少しだけ見えていた景色が激しく回転する。
体にドサッっと音が響き、激しい痛みを感じた。それと共に、完全に視界が閉じ意識が途切れたのだ……。
意識が途切れる直前に見えた物は、赤く染まり始めた雲ひとつない夕焼けだった。
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