第71話 討伐? いや、分からないけどマズ情報確認

 イードル港のギルドに入ると、中は騒然としていた。俺達はカウンターへと向かうと、大量の資料と格闘中のティアが座っている。


「ティアさん! 先ほどワイバーンが現れて、この町を見つめていましたよ~!」


 ハーモニーが、普段より早口で報告をいれた。ワイバーンの姿を見て衝撃的だったのだろうか……? 少し興奮している様だ。


「えぇ、今しがた報告を受けました。こちらの調べだと最後に船が襲われたのが二日前なので……。何処、何処でしょうか……確か、前にワイバーンの資料を……」


 ティアは書類の山を崩しながらも、机の上から彼女作の図鑑を引っ張りだし、ページを次々とめくっていく。


「ありました、過去のワイバーンの生体報告書が! どうやら過去最長で四日、平均三日ほど絶食しても大丈夫です。そして今までの報告の傾向から……。早くて明日、遅くても明後日の夜には次の獲物を襲うと思われます!」


 ってことは……この町は明日には、その標的になる可能性があるわけか? それにしても、何かを忘れているような……。


「あ! そう言えば兵士たちが、この町に向かってるって言ってたよな? それって、ワイバーンの討伐の為じゃないのか?」


 そうだよ……それならこの町は安心じゃないか! なんだよ、慌てることなんて全然無かったじゃないか!


「……いいえ、それは当てにできません。通常ワイバーンクラスには、二個小隊……六十名ほどで当たる事が定石です。それに対して、今回こちらに向かっている兵は十名ほどなのです。討伐隊にしては圧倒的に少な過ぎます……。それにグローリア兵は、到着するのに三日ほどかかる予定です……」


 それじゃあ何の為に来るんだよ! まさか検問要員じゃないよな? それにしたって動きが遅いだろ!


 よし! やっぱりここは……ギルドに任せよう。それしかない!


「──この町の戦力は、どの程度なの?」


 トゥナの質問に対してティアは首を左右に振った……。


「在中している冒険者は貴方達を含めて集団クランが三グループですね……。ギルドの職員を含めても、四グループ……。後戦えそうな方は……船の乗組員様達と、この町の男性ぐらいしかいませんね……」


 少なすぎるだろ! 他の冒険者は逃げたのだろうか……? 言われてみればこの町に来る最中に、大型のキャラバンとすれ違がったな? それか!


「そして現在、一番戦闘力のありそうなパーティーは……貴方達エルピスだと思っております……」


 聞こえない! 何にも聞こえないぞ! いや~だ! 危険なのは嫌だ!


「ねぇカナデ君……。私達で何とかならないのかな……?」


──やっぱりか! 何となく予想してたぞ……。しかし、飛び出さなくなっただけ成長したな……トゥナ……。


 彼女の表情を見ると、何かしたくて仕方ないと言う顔をしている……これは、まずい流れだ。


「申し訳ありません……。こんな時、何もお力になれなくて~……」


 おいハーモニー……その言い方だとこれから一戦やるみたいだろ? 止めたまえ!


「フォルトゥナ様にご迷惑をかけて……誠に申し訳ありません……私共も、最善は尽くしているのですが……」


 ちょっと待て! 低姿勢で来られたら、見て見ぬ振りし辛いだろ!


「あ~もう! 分かった、分かったから……。討伐に向かうか向かわないかは別として、ワイバーンの情報と生態を教えてくれないか?」


 彼女達は、まるで打ち合わせたように顔を向き合わせ、悪戯っぽく笑いあった。──こ、これはハメられたのだろうか……?


「情報ですね! これを見てください」


 ティアはテーブルの上に図鑑を広げ、皆して中身を覗き混んだ。


 何々……ワイバーンとは? 種族……竜種 。竜の中では中級クラスの危険度を誇り、成体ではAランク相当、幼い個体でもランクB+の戦闘能力を有する。幼い個体は翼の皮膜が白く、成体になるにつれて他の部分と同じ色に……。


 な、なるほど……あのサイズでまだ子供ってことか? 嘘だろ?


 ワイバーンの脅威は爪や牙もそうだが、あまり知られていない所で尻尾に毒針を持つ。そして、その毒による死亡率が一番高く注意は必要。


「ワ……ワイバーンって毒も持ってるのか?」


「はい、ワイバーンの様な飛竜種は、飛ぶための舵の変わりに尾が長く発達しております。それを守るために毒を持っていると言う説がありますね……。逆に言えば、尾をある程度の長さ切ることが出来れば、翼が健在でも飛べなくなるはずです!」


 相手の弱点が、一番死亡率の高い危険ポイントって……毒で苦しむなんてごめんだぞ?

 しかし、あれだけの巨体だ……。確かに手の届きそうな尻尾は、狙いどころのひとつではあるな。


「ちなみに、ある程度の長さってどれぐらい何ですか?」


「そうですね……ここから、これぐらいでしょうか?」


 ティアは、俺の質問に対して図鑑に描かれているワイバーンの尾の、約半分ほどを差す……。

 リスクが大きすぎる上に、剣や刀でギリギリ届く高さぐらいか?


「住みかとしているのは、近くの山ですね……。睡眠中に襲うのも効果が低いと思われます。長い時間寝るそうですが、変わりにかなり眠りが浅い様です。寝首を掻くのも、難しそうですね……」


 う~ん、大きな隙が見当たらないな? そう言えば竜種って書いてあるな? 念のために、あれも確認しておこうか?


「まさか……ブレスとか吐きませんよね?」


 異世界だから、何があっても受け入れる覚悟だ……しかし、流石に口から何か吐くようならお手上げだぞ? 相手は空にいるんだし、一方的にやられるのが目に見えている!


「ワイバーンは竜種なので、炎の類いは出しません。カナデ様、安心してください!」


「安心って……まだ俺は討伐に向かうなんて言ってませんよ? 後、何か情報はありますか?」


「そうですね……。ワイバーンの防御面に関しては、普通の武器じゃ中々刃が通らないのですが、カナデ様とフォルトゥナ様ならロッククラブをいとも簡単に斬ってたので問題ないと思います」


 近接で戦うのなら勝機はありか……。


「じゃぁ弓はどうでしょうか?」


 相手は空を飛ぶんだ、弓でも無ければ太刀打ちできないだろう。


「普通の弓では効果がないかと……そういえば! 漁船用の小型のバリスタがあります! これなら刺さらないにしろ、地面に落とすことは可能かもしれません!」


「──それは使えそうですね! 他には何か……なんでもいいから情報はないのか?」


「う~ん…後は、確信はないのですが。魔物の種類の傾向として、聴覚と嗅覚はあまり良くないか、もしくは並みぐらいだと思われます。後、上空から獲物を探すので視覚はかなり良いハズです!」


 う~ん……バリスタだけじゃ、対抗策としては怖いな? ゲームでも、もっと色々と使えそうなアイテムとかあるだろうに……。いや、現実だからこそか……。もしかしたら、あれが打開策になるかもしれないな?


「ミコ? ちょっと相談があるんだけど」


「ん? 何カナ?」

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