第70話 白き翼膜のワイバーン

「──これはまた……遠くから見るより、かなりでかく感じるな……」


 ギルド船すぐ近くまで来たものの、俺は目の前の木造大型船に圧倒され、尻込みしてしまいそうだ。


 船の形状は、大体地球にあるような、長細い流線型で先端が尖っているものだ。

 しかし、地球で見る船とは違う物も付いている。違う物とは、船の両サイドに木製で出来た長く巨大な、使用用途がわからない何かが付いているのだ。


「なんだ……あれ?」


 更に近づき、確認しようとした時だ「カナデさん~着いてこないと置いていきますよ~?」と、ハーモニーが呼ぶ声が聞こえた。


「──今いくよ!」


 うちの集団クランはこう言う時、普通に置いていこうとするからな……。


 俺は慌てるように皆を追いかけ、走っていく。

 すると、舷梯げんてい※のすぐそばに座り込み、海を見つめてボーっとしている男がいた……。


「すみません、こちらの船の乗組員さんですか? ギルドのティアさんの紹介で、乗船の手続きをお願いしたいのだけど……」


 トゥナの声に振り向き、開いてるのか開いていないのか分からないような、そんな死んだ魚のような目で男は俺達を見た。


「知らないのか? 今は船は出てねぇぞ。次の出港見通しも立ってないのに許可っていってもなぁ……」


 屈強で日に焼けた肉体の男だが、海に出れずに腐っているのだろうか? まるで陸に上がった魚のようだ……。


「私達、どうしてもリベラティオに行かないといけないの……」


「そうですよ、今すぐにと言うわけではないので出港する時に船に乗せてもらいたいのです~」


 彼女達の話に、男は彼女達に向かって左右に手を振った。


「無理だ無理。俺じゃぁ~決めれねぇしよ」


 そう言葉にした男は、眠そうに目を閉じ、大きなあくびをした。

 あくびが終わり目を開くと、さっきの眠そうな顔が嘘みたいに見開かれたのだった。


「いいね~いいね~。中々綺麗所の御姉さんが集まってるじゃないか」


 後ろからの声に、俺達は慌てて振り返った。


「──せ、船長!」


 俺達の背後に立っていたのは、乗組員の男よりもさらに一回りも二回りも大きな体で、パッツパツの短いTシャツを着た筋肉をやたら主張する格好をした男であった。──すげぇ……力んだら、シャツが破れ飛ぶんじゃないか?


「先ほどギルドで、偶然ティアの嬢ちゃんに行き合ったのだが……あんたらが彼女の言うエルピスかい?」


 口調こそ強くは無いが、力強い声だ。立ち振舞いも、何処か気迫を感じる……これが海の男。


「はい、俺達がエルピスです。そして、俺がリーダーをしているカナデです」


「私はフォルトゥナと申します」


「ハーモニーです、よろしくお願いします~」


 船長は、俺達を品定めするかの様に見つめた。

 本来であれば不快に感じたのかもしれない。しかし、彼が見ているのは体型や体つきなどではない……。終始、俺達の目を見続けているのだ。


「へぇ~……みんなイイ目だねぇ~。コイツらみたいに何かを諦めたヤツの目じゃねぇ、気に入った!」


 そう言いながら船長は大変喜び、俺の肩をバシバシ叩いた。──重い! 一発一発が重い! 肩が抜けるって!


「ギルドカードを出しな、一応ルールでね。問題ないようなら乗船を許可しよう!」


 俺達は各自ギルドカードを提出すると、船長は何やらポケットから、単眼用のルーペの様なものを取り出した。

 そしてそれを使い、俺達のカードを覗きこむ……。


「──よし問題ねぇな!」


 えっと……なにをされたのだろう? 魔法のアイテムかなにかか?

 あれで何かが分かるのだろうか……? すっごい気になる! ティアなら知ってそうだし、今度聞いてみよう。


「ただコイツらにも聞いたと思うが、今はワイバーン騒ぎで船が出せねぇんだ……。出港見通しが立ったら、ティアの嬢ちゃんから連絡が行くように手配しといてやる……。ん? 噂をすればだ……」


「──ギシャァァァァ!!」


 鳴き声の先を見ると、上空にはうっすら大きな何かが、すごい速度で飛行しているのが見える……。

 海の上を何度も旋回して、獲物を探しているようだ。


「あ、あれが……ワイバーン?」


 俺が呟くと、まるで聞こえたかの様に高度を急に下げた。そして今度は水面からすぐ近くでホバーリングをしながら、辺りを見回ってるようだ。


 ドラゴンって言うよりは……顔は恐竜に近そうだな? 大きさもこの前戦ったロック鳥と同じぐらいか、少し小さいぐらいだ……。ワイバーンってイメージより白いんだな?


 そしてしばらくワイバーンは辺りを見渡し、最後にコチラを見ると、今度はすごい勢いで上空へと飛び去って行った。


「──い、今コチラを見てましたよね~!」


「あぁ……あれはヤバイな。この場所が、あいつに完全に知られちまった……。比較的頭がイイと聞くから、無闇には来ないと思うが、もし腹を空かせでもしたら……。これは、時間の問題かも知れねぇな」


 本当に、こんな時にこの町に来るとかついてない! 悪運を引き付ける力だけなら歴戦の勇者にだって、引けをとらない気がしてきたぞ!


「船長さんありがとうございます。俺達一度、ティアさんの所に行くので……。船が出る際にはよろしくお願いします」


 よし、少しでもギルドに情報を持っていこう。今は兵士の影も見えない以上、多分この町の防衛は、ギルドが担う可能性が高いだろう……。町と俺達を守って貰わないとな?


 俺達は急いでギルドのティアの元へと向かった。何事もなく、討伐してくれればいいんだけど……。

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