第72話 ワイバーン討伐開始
ミコとの相談も終わり、何とか緊急時の保険も出来た……と思う。
「カナデ様、あのですね……。ワイバーンの討伐依頼、どうかお請けすることは出来ないでしょうか?」
三人の美女、美少女が期待に満ちた瞳で俺を見つめる……。──期待されるとか、あまりそう言った耐性がないからやめてほしい。
「なぁ? 住人をこの港から避難させて良し! っとかにできないのか?」
そうだよ! わざわざ危険な思いをしてまで争う必要はない。住む所は失くなるかもしれないがまだ時間がある。家財を出来るだけ持ち出せばいい……命あっての物種だろ?
「この町が襲われるのはほぼ確定だとは思いますが……あくまでもそれは可能性なのです。当然、ギルドもすでに説得に
深々と頭を下げるティア……彼女の本性を知っているだけに
「カナデ君……」
「カナデさん~……」
何でこう言うときだけ、頼ってくるかな? 君達、ただでさえ可愛いんだから、斜め下から覗き込むの反則だろ!
「あ~もう! 薬関係は勿論ギルドで準備して貰えるんですよね?」
「ポーションと解毒薬ですか? はい、アイテム商人も逃げておりますので最小限にはなりますが、既に準備はできております! では……カナデ様?」
町を命がけで守るとか、正直そんなガラじゃない……。しかし、この国を出る為にはワイバーンの討伐が必須か……。それに何より──。
期待の眼差しで、俺を見る
──可笑しなものだな……。彼女達が悲しむ顔を見たくないとか、期待を裏切りたくないとか思ってる自分がいる……。これが、情が移るってやつなのだろうか?
いや、単純に彼女達に嫌われたくないだけだろうな……。俺も男の子な訳だ。
──よし! 覚悟を決めるか!
「分かりました、その依頼請けます。報酬はしっかり頂くので覚悟してくださいね?」
トゥナ、ハーモニー、ティアの三名は俺がそんな回答を出すとは思っていなかったのだろう。三者三様に驚いている。
「は、はい! ありがとうございます。ギルドは、エルピスにできる限りの優遇をさせていただきます!」
笑顔で俺の事を見つめてくる彼女達に「じゃぁ、作戦会議と行きますか!」と、精一杯の強がりを見せる。本音は正直怖くて仕方ないのだが──。
「──あ~もう……まさか本当に竜と戦う日が来るとは……」
各種準備を終え、バリスタを乗せるためにギルドの馬車を借りた。
そして俺達は、急いでワイバーンの住みかまで向かっている……。
まだ日が落ちるまではかなりの時間があるが、遅くなって夜のワイバーンと戦闘することになるのだけは死んでもごめんだ。
「でも、あのカナデ君が討伐に行くって言ったとき、少し感動しちゃった」
今回は時間も無かったため、ワイバーンの討伐にあたるのは俺達エルピスのみ、定石に反してはいるが、かえって連携のとれていない急増パーティーより良いのではといった意図もある。
そして何より、俺達がもし失敗した後に町が襲われたとしよう……。避難誘導や防衛を行うものが必要になるはずだ。
「かなり渋りましたけどね~? カナデさんらしいと言えばカナデさんらしいですよね~」
相変わらず、緊張感も無く馬車を走らせる。
それにしても、今まで良くワイバーンに見つからなかったな? 住みかまで目と鼻の先じゃないか……。
イードル港の崖に囲まれている、特殊な地形が偶然にも死角になっていたのだろう。確かにここからでは港は見えない。
山の中腹ぐらいに差し掛かると、遠目にワイバーンの姿が見えた。
巣はなく、
「地形的にも、足場が広いアイツが寝てる辺りで戦いたいな……。バリスタの設置あの辺りでどうだろうか?」
俺は、ワイバーンが寝ている、広場から少し下った木々の中を指差す。
「あそこなら、ワイバーンから死角になっているので見付かることもないと思いますが……。事前に打ち合わせた様に、準備に少々時間を頂く事になります」
準備とは、馬車から一部バラしてあるボウガンを下ろし、運搬、組み立て、ボウガンの足場を固定する事と、それと別に矢に繋がるロープの固定だ。
作戦は至って簡単。俺とトゥナが陽動中にボウガンの設置、準備が終わり次第合図と共に、ボウガンの発射。
ティアがボウガンの弾を魔法で誘導するので、素人のハーモニーでも当てることが出来ると言う話だ。
「わ、私がそんな大役なんですか! が、がが、頑張ります~……」と、かなりのテンパりを見せてたけど……。大丈夫なのか?
例えバリスタで倒せなくても、落下にさえ持ち込めば俺とティアの、近い方が翼または、尻尾を切断すればいい。
地上にさえ居れば、十分勝機はあるだろう。
とても万全を期すとは言いがたいが、それでも俺が考えれる中では、最善な手段だと思う……。
俺達は、打ち合わせ通りに各々の位置につき、ハンドサインで連絡を取り合った。
そろそろ、準備が整っただろうか?
緊張の為、鼓動を感じる……。 深呼吸の後、トゥナ、ハーモニー、ティアに見えるようハンドサインを出した。それを見て頷く三人。──よし……準備は整ったようだな。
ミコも起きてるよな? 頼りにしてるからな?
『任せるカナ! ボクにかかればチョチョイノチョイだシ』
あぁ……それ久しぶりに聞いたわ。そんなことを考え、少しだけ笑顔がこぼれた。
ミコのお陰で、少しだけ肩の力が抜けたかもな。
──さぁ! ここまで来たら覚悟を決めようか。ハズレの勇者様が、町の一つを救ってやるよ!
俺は、自身を奮い立たせながらハンドサインを出す。
そして、なるべく静かにワイバーンの元へと駆け出したのだった。
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