第66話 当面の目的地

 地平線の先に登る朝日、異世界の景色は自然豊かでいつ見ても美しく、新たな発見に驚かされる……。

 そう、今朝けさの朝日は、この世界に来て見てきた朝日とは、また一味違った。


「おい……朝日、昇る方角がいつもと違うだろ……?」


 そんな、なにげな……くはない日常の風景にツッコミを入れつつも、無銘を抱き締めながら朝食のスープを作っている。


 昨日大量に出た蟹の殻を、じっくりと煮出してダシにする。

 本当は、カニ雑炊が食べたかったけど、米がない……。


「あ、そう言えば……」


 時間のある時に、ハーモニーから米の事を聞いておかないとな……。前に報酬として要求してた気もするし。


「無い物ねだり、してても仕方ないよな」


 今日のところは野菜を入れて、塩で味を整えるだけの簡単料理。ダシのバリエーションと、何より味噌もほしいよな……。朝飲む味噌汁が恋しい。


「カナデ様! おはようございます!」


 俺は昨晩の事もあってか、ティアの声に、条件反射的に身構えた……。

 忘れてないぞ? もう一つの王命とやらを、無理矢理聞かせるつもりだろ?


「お、おはようございます……ティアさん」


 挨拶を返す俺のすぐ隣に「よいしょ」と、見た目に不釣り合いな掛け声と共にティアが座り込んだ。


「昨日は、大変申し訳ありませんでした。もう襲ったりしないので、そんな身構えないでください……」


 あれだな? 可愛さで気を引いて、騙し討ちする気なんだろ……? そんな手には乗るもんか。


「そんなこと言われても無理な話しですよね? いつ巻き込まれるか、分かったものじゃないんですから」


 ティアから一歩離れるように座り直す。下手にスキンシップなんてさせてみろ……俺は直ぐに騙される自信がある!


「そ、そこまで嫌がらなくてもイイと思うのですが……。それに関しても大丈夫です。昨晩カナデ様のお陰で解決しましたから」


 解決? 解決するような事をした記憶がない、そもそもティアには、アドバイスもしてなかったような……押し倒されただけで。


「フォルトゥナ様が言ってましたよ? カナデ様に、後押しされて来たって。お陰さまでその……気まずい雰囲気も? 王様への正式な報告許可も、なんとかなりました」


 ティアは座ったまま頭を下げ「ありがとうございました」と、素直に感謝の気持ちを述べた。


 どうやら、トゥナも頑張ったようだな? 元々不仲って訳じゃなかったし、問題ないとは思っていた。

 自身の身辺報告の許可を出す辺りは、トゥナもティアさんの立場を考えたのだろう。


「もう一つの王命の、フォルトゥナ様を連れて帰る事も、カナデ様と一緒になら帰っても良いとの事なので……一緒にリベラティオ王の元へ行っていただければ、完璧です!」


「──だから! なんでさらっと巻き込んでるんだよ!」


 何だよそれ……お姫様と一緒に、国のトップに会いに行かないといけないのか? 彼女を連れて相手の親御さんに挨拶、っとかよりハードルが高いぞ! 経験があるわけじゃないけどな?


「もぅ~……。カナデさんうるさいですよ? リーダーなんだから落ち着きを見せたらどうなんですか?」


 チビッ子が軽口を叩きながら、トゥナと一緒に馬車の方から向かってきた。──この様子なら、この二人も大丈夫そうだな。


「俺だっても朝ぐらい落ち着いて飯食べたいわ!」


 そう言いながら野菜に火が通っているかを串で刺す、そして確認が終わると、全員分の食事を装い各自に渡してく。


 その後、俺の手製の朝食を食べながら、今後の予定について話し始めた。


「あのね? 今後の具体的な予定なんだけど。この先の町で船に乗ったら、なるべく真っ直ぐにリベラティオの町に行きたいと思うの。ティアさんとも昨晩少し話したんだけど……カナデ君に、お父様と会ってもらいたくて」


 ティア……外堀から埋めてくるのはやめてもらいたい。かと言って、思いっきり拒否するのも良くないよな……。


「え~っと、流石に王様と会うっとかは……気が引けるな……なんて」


 そう言った俺の言葉に「え~、カナデさんは、勇者様な訳ですし~。王様と会うのは、普通なんじゃないですか~?」と、口を挟むハーモニー。──まさか、昨日のお子さま扱いを根に持ってるんじゃないだろうな?


 何かを言いたげな顔で、俺をじっと見つめるトゥナ。──……意味もなく会わせたがる訳もないか……。


「何か理由があるのか?」


 彼女の事だ、自身の為ではなく多分俺の事を思ってのはずだ。それに、真剣に話してくれている彼女に悪いしな?


「あのね? 例え勇者と認められなくても、カナデ君が召喚されたことには意味があると思うの……。因果、とでも言うべきなのかな……? ただ事じゃないことが起こってると思うの。それに、今後何をするにしても監視の目は付くハズだし、知らない相手に監視をされるって、気味が悪いでしょ?」


「まぁ……そうだな」


 そりゃ~そうかもしれないけど……王様と面談する理由には弱くないか?

 しかし、現在の状況で俺が自由に鍛冶をやるとなると、やはりこの国じゃ厳しいわけで……。どのみち、今の所は選択肢は無さそうだな。


「トゥナさん、王様への口利きよろしくお願いします!」


「うん、私頑張るからね!」


 小さくガッツポーズを見せるトゥナ。非常に可愛いんだけど、この先不安だな~!


「エヘヘ、それでは目的地は決定ですね~」


 ハーモニーにも異論は無いようだ。俺達の目的が具体的に決まった。目指すは、リベラティオの町だ!


 この後、俺達エルピス一行は、リベラティオ国に向かうために港町イードル港に向けて再び進むことにした。


 昨晩寝ずの番をしていた俺は、馬車が動くと否や荷台に横になる。

 美少女達の話し声を子守唄変わりに目を閉じ、眠りにつくのであった。

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