番外編 研磨バトル2 ~研磨石で奏でる始まりの宴~

──研磨バトル……! 名称からして、研磨に関するバトルであろう……。

 今さらながら、知ってるような雰囲気で言っちまったが何だよそれ! 始めて聞いたぞ?


 しかし、目の前の小僧は一切目線を逸らしやがらねぇ……。野鍛冶の俺が、研磨について知らねえ事があるのか? みたいに思われるのもシャクだ……ここはひとまずヤツを泳がせるか?


「おいおい? 冗談はよせよ。俺様が小僧と勝負だって? 相手にもならねえよ。大体俺にメリットがねぇじゃねえか」


 どうだ! これなら知っているていで会話が成り立ち、知らない事実がバレることから回避もできる……完璧な作戦だ。


「ふ~ん……。逃げるのか? ならいいや、俺みたいな小僧に怯える程度の職人には端から用はないしな」と、不適な笑顔を小僧は俺様に向けてきた。


──あ、あの小僧! やりやがったな!


 これで俺様が下手に拒否すれば腰抜け扱いされちまう……。かといって勝負を受けて負けたら、親方から譲り受けた包丁を取られちまう……。


 話術だけでは小僧が上だ……そこは認めてやろう。

 いや、考えてみれば、その勝負に勝てばいいんだよな? そうだよ。野鍛冶の、この俺様が研磨で負ける事などありえねぇ。


──俺様には、アレもあるしな。


「ソコまで言うならその勝負考えてやる! しかし、今の話を聞いても、俺様に何の特もないよな? それじゃ~全然燃えないな~。つい手を抜いちまいそうだぜ」


 口では負けたが、俺様は策士なんだよ。俺様には利益のない勝負に、端から関わるきはないね。


「言われてみれば……負けたときのいいわけにされても困るな……」


 小僧はそう言うと、新品の道具が置いてある陳列棚を指差しながら「俺が負けたら、そこの包丁を一本買ってやるよ」と、ふんぞり返って答えた。


 バカめ! 自分から負けたときの条件を提示して来やがったぜ!


「はっはっは、上等だ! その喧嘩、俺様が買わせてもらうよ!」と息巻いて、目の前の小僧を威嚇した。


 その様子を心配してか、隣にいる姉ちゃんが何やら耳打ちをしている。


 それを「大丈夫だから、任せろ!」と答え、小僧は嬢ちゃんに良いところを見せつけようとしてるようだ。


──なめられたものだぜ!


「具体的な勝負内容はどうするんだ?」と俺様は小僧に問いかけた。

 相手にルールを決めさせれば説明してくれるからな……。知らないのもバレないぜ、俺様賢い!


「う~ん……」


 小僧はそう呟くと、客から預かっている品の前に向かった。


「この包丁二本とくわ二つ、痛み方が似てるな? コイツの研磨でどうだ? そうだな……。時間制限は、あのロウソクに火を灯して、ロウソクが無くなるまででどうだ?」


 そう言って、小僧は作業代の上に置いてあるロウソクを指さした。


「時間内に、自身が客ならどっちの品を手に取りたくなるかを、彼女に判断してもらう……どうだ?」


「意義あり! そんなの公平なジャッチをするわけがな──」


 俺様が、反論している最中。


「──なんで私を巻き込むのよ!」と、目に見えない早さで、カナデと言う小僧の頭を嬢ちゃんが、躊躇ちゅうちょなく叩いたのだ。


 その勢いで地面に膝をついた小僧は「こ、これでも信じられないか?」と、今にも倒れそうな顔で答えた……。──か、体を張った見事な説得力だ……。


「い、いや信じよう」て言うより、下手に反論して、俺様も小僧のようになるのが怖い……。


 小僧は、震える足でフラフラと立ち上がり「先に一方を選ぶとイイ、その後で俺が引く。それでいいか?」と、俺様に先攻を委ねるようだ。──その満身、後で痛い目を見るんだぜ?


 俺様は、二本の包丁と二つの鍬この中で一番状態の良さそうなものを選ぶ。──この包丁だ!


「それでいいのか? じゃぁ俺は、コッチの鍬を選ばせてもらう」


 小僧がそう言うと、選んだ鍬と選ばれなかった包丁を自分用に回収し、残った鍬を俺様に差し出してきて、それを受け取ってやった。


「スタート合図は彼女が。あ、あの……トゥナさん? 火を着けるだけでイイから手伝ってもらうことは……」


 こ、こいつビビってやがる。この二人は本当に知り合い同士なんだよな?


「……はぁ~良いわよ。流れについていけないし、さっさと始めてちょうだい」と、頭に手を当て、困ったように答えた。


「……っだそうだ! 分かったか!」


 急に俺様に向かって虚勢を張る小僧……。ちょいちょい締まらないヤツだな? まさか、油断させるための作戦か? 俺は騙されないぞ?


「あぁ、分かった。道具はそこの入れ物に入ってるのを好きに使っていいぞ。俺様のを特別貸してやる。道具選びはスタートと同時にだ! いいな?」


 くっくっく、あの道具入れには、研磨の山の無い使い古した物しか入っていない。勝負は見えたようなものだな……。


「え~っと、火つけるわよ? イイの?」


「おうよ!」


「あぁ、頼むよトゥナ!」


 


 そして、今更ながら激しい攻防は次回へと持ち越しであった!


─────────────────


 今回、作中のトゥナによるカナデへの耳打ちのシーン。

 トゥナはカナデに「カナデ君が勝負で負けたときのペナルティー。それって、ただの買い物じゃないの? 完全に騙しちゃってるけどイイの?」でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る