番外編 研磨バトル1~轟け、俺の研磨石~



──突然だが、自己紹介をさせてもらおう。


 俺様の名前はオルデカ。フィーデス一の野鍛冶※1だと自負している。


 なに? たいした自信だな……だって? それには理由がある! なんせこの町には、野鍛冶は俺一人しかいねぇからな。がっはっは。


 しかし、そんな俺の平和な鍛冶ライフは、忘れもしない……。そうあの時に一変してしまったのだ。


 あれは冬のピークも終わりかけている、ある日の昼下がりの事だ──。



──俺様はいつものように、客からの依頼で農具の製作や研磨を、ただ無心にこなしていた。

 いや違うな……。今思い返してみれば、情熱の炎ってやつが消えかかってたのかも知れねぇな……。


 昔は親方に、槌も中々振らせて貰えなくヤキモキして、熱い魂を引っさげ独立した。しかし今は、毎日ただ仕事をこなしていくだけ……。


 向上心……そんな言葉、忘れちまったな……。


 そんな俺様の店を、一人の目付きの悪い兄ちゃんと、えらいべっぴんの姉ちゃんが扉を開けて、やって来たんだ。


「カナデ君、ここ鍛冶屋でも武器を置いてる店じゃないわよ?」


 あの男はカナデとか言うのか、女連れで俺様の聖域に入って来やがって……ふてぇヤロウだ!

 でもまぁ、客は客だ……今だけは愛想振り撒いてやろう。金のためだ。


「い、いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」


 多少引きつり笑いになっちまったが、何とか笑顔で対応できたぜ……。どうだ? さっさと用件を言いやがれってんだ!


 しかしその男は「う~ん」と、俺様を無視しながら赤い瞳で店の品をなめ回すように見てやがる。──くそ! 折角俺様が微笑んでやったってのによぉ!


「お客様~? ご用でないのでしたら、私も仕事がありますのでお引き取りをお願いします~」


 言ってやったぜ! ここは女連れの小僧が遊びに来るところじゃないんだよ! ザマァみろ、さっさと帰りやがれ!


──すると突然、先程まで何も言わず店を見渡すだけだった小僧が、俺様に話しかけてきた。


「あんたがここの亭主か? あそこにある包丁は中々の物だが、後は大した物はないな? 客を舐めてるんじゃないのか?」


「カ、カナデ君! 何いってるの!」


 カナデとか言う小僧は、俺が独立する際に親方に譲り受けた包丁を指差し、あろうことか俺様をあおってきやがったのだ。


「あの包丁が一味違うってのは中々の目利きじゃねぇか? 他のものが大したことないって言う辺りは二流だけどな」


 へっへっへ、煽り返してやったぜ!


 所詮、この小僧も目利き以外ド素人だろ? 多少質が悪くたって、使い手が大したことなければ分からねえよ。


「さぁ、いちゃもんつけるだけなら帰ってくれ!」


 本当こう言う客には困るぜ。中にはいるんだよ、俺はお客様だ、偉いんだって言うやつがな。


「ほ、ほら……カナデ君。亭主さん怒ってるわよ? 帰りましょ?」と言う、姉ちゃんの制止を小僧は振り払った。


 そして……あろうことか──。


「ふ~ん。帰るのは構わないけど、この店にはあの包丁は宝の持ち腐れだな、俺にくれよ亭主」


──この小僧! 何を世迷い事を!


「はぁ? 貴様、何ふざけたこと言ってやがるんだ!」


 この小僧は何を考えてやがる……。憲兵けんぺいに付き出してやろうか?


 そんな事を考えてると、小僧が「じゃぁ、俺と勝負しようぜ?」と、俺様が客に任された、未だ手付かずの仕事を指差してそう答えた。


「小僧と俺様が勝負? 何のだよ……」


 俺様がそう言うと、目の前の小僧は声を出し笑い始める……。──こいつ、俺様をなめてやがんのか?


「ここは何の店なのか忘れたのか? この店の亭主なんだろ」


 小僧は店に置いてある、仕事で使うための研磨石を指差した……。


「ま、まさか!」


「気づいたようだな亭主。研磨バトル※2さ!」


「け、研磨バトルだと!」


 小僧の提案に、自分の中でくすぶっていた何かが、沸々と沸き上がるのを感じた……。


「──なんなのよ……それ」


 俺と小僧は火花を散らし、にらみあった。そして店の片隅では、頭を抱えるようにため息をつく少女がいた。


──激しい攻防……研磨バトルは、次回に続くのであった!


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番外編サブタイトル:意味もなく付いています、雰囲気だけお楽しみください。

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