第50話 腐葉土作り2

 しばらく席を外してた俺は、用事を済ませ裏庭に戻った。

 すると、目の前のには地面に寝転がり肩で息をしている四人の兎のおっさんと、彼らをマッサージしている親分の姿が見えた。──あれは、ボディータッチ……ではないよな?


 こいつらの様子からすると、指示通り頑張っていたみたいだな?


「お疲れ様。穴、掘れたか?」


 何食わぬ顔でそう言いながら、穴の中を覗き込んだ。そこには一メートル位の深さの見事な穴が掘られていた。──おぉ、あの硬い地面を良く掘れたもんだな? スコップのみで……。


 そんな俺の表情を見てか「兄さんヒドイでヤンスよ……。いつの間にか居ないでヤンスもん」と苦情が入る。


 言いたいことは分かる! 俺が相手の立場なら同じことを言うだろう。しかし!


「お前達に仕事を覚えさせる為だよ、それに誰の為にしてるんだ?」


 今回はこっちの立場だ。権力やコネがあれば大いにフル活用する! それが俺のスタイルだ!


「そりゃ~そうかもしれないでヤンスけど……」


 でも納得は行かない。分かる、分かるぞ、その気持ち! 世の中って理不尽な事でいっぱいだもんな?


 俺は、パンパンっと手を叩き「じゃぁ~次の作業するぞ!」と、声を出した。


 しかし「おぉ~…」と、力のない返事が帰ってくる。──元気が足りないな? トゥナをけしかけてやろうか。


「掘った穴に落ち葉を十五センチぐらい……あ~これぐらいな? 大体でいいから、平らに入れてくれ」とジェスチャーを交え、彼らにも分かりやすく説明をした。すると、四人のうさ耳おやじの厳しい視線が突き刺さる。


 若干態度が反抗的になっているので、俺は親指を立てトゥナを指さすと、急に機敏に仕事を始めたのだ。──なんて扱いやすい……。悲しくなってくるな。


 子分達は親分の指示の元、言われた通りにバケツリレー方式[必要ないだろう]で、次々と麻袋を運び、穴の中にひっくり返して次々に枯れ葉を入れていく。


 実際馬車の積み荷をやっていたから分かる。枯れ葉といえど、多少の湿り気と土が混じっているため軽いとは言いがたい。

 それでも、元子分たちは多少なり文句は言うものの、作業の手を止めることはない。──やっぱりコイツらは、武器を持つより泥にまみれる方が似合っているな……。


「こ、これでいいっすか……?」


 一番多く穴を掘っていたシータに、流石に疲れの色が見えてきてるな……。


「次の準備もあるし仕方ない、少しだけ休憩をやる」


 休憩を言い渡した途端、子分達は喜びの声を上げ井戸に向かって走っていった。──なんだよ……まだ元気じゃないか。


 そんな彼らの背中を見て少し嬉しくなりつつも、俺はその場を移動した。


「ハーモニー、ちょっといいか?」


 子供達と遊んでいるハーモニーに声を掛けると、彼女は俺の元まで駆け寄り「何でしょうか~」と質問をする。


「この前言ってた米ぬかと、わらがいくらかほしいんだけど?」


「あ~はい、大丈夫ですよ~。少しだけ待っていてくださいね?」


 彼女はそう言うなり、一目散に走っていった。──先程まで、子供と遊んでいたのにタフだよな……。


 しかし考えても見たら、この広大な畑は数年前から農家の人の手が借りれなくなったんだよな? ってことは、ハーモニーと子供達とで作ったんだよな……。


 改めて畑の規模を眺めながら、彼女達の行っていた努力や苦労を想像するものの、今まで食べ物に困ったことのない、日本暮らしの俺にはハッキリとイメージすることができなかった。

 でもまぁ、この作業が成功して今後に繋がっていく様なら、理解することは出来ずとも、少しだけ彼女達の食生活を良くできた……っと、胸を張ることができるのかもしれない。


 しばらくするとハーモニーが戻ってきて、両手一杯の藁を穴の前においた。


「藁は、これで十分ですか~?」


「あぁ、有り難う。米ぬかは俺も手伝うよ、重いだろ?」


「有り難うございます。それじゃぁ、着いてきてください」


 ハーモニーの後に続き歩いて行くと、到着した場所は大きな厨房であった。

 厨房の中は、そこいらの食堂や宿の厨房より圧倒的に広く、何十人もの食事が同時に作れそうな設備が並んでいる。


「広くて驚いたんじゃないですか? ここは過去の戦争の時に、勇者様の指示で立てられ怪我人や難民の受け入れも行っていたんです~。でも今使っているのは、ほんの一角だけですけどね~」


 なるほど、そのためにこんなに広いのか? 過去の勇者の指示って……。発言力や偉大さが分かるようだな。同じ召喚者でも、俺とは偉い違いだ、泣けてくる。


「そこの麻袋に入っている物なら、好きに使ってもいいですよ~」


 ハーモニーが指をさす先にはきねうすがあり、そのすぐ隣に複数の麻袋が並んでいる。中を覗くと袋一杯の米ぬかが入っていた。


「じゃぁ、一袋だけ貰ってくよ、後もう一個だけお願いがあるんだが……。無理なら無理でもいいんだけど」


 俺はハーモニーに、追加でひとつのお願いの内容を説明した。


 それを聞いたハーモニーは「カナデさんって本当に良くわからない人ですね、優しかったり厳しかったり……。もちろん、大丈夫ですよ~」と、彼女はこころよく承諾してくれた──。


──俺とハーモニーが裏庭に戻ると子分達は大地に身を任せ、何故かその隣で添い寝している親分の姿が……。──あの人は……さっきから何をしてるんだよ。マジで。


 俺は、米ぬかが入っている麻袋をその場におき、再び手をパンパンっと叩いた。


 寝そべっていた兎どもは目を開き、ガバッと起き上がりダッシュで俺の前に走ってきた。その後を追いかけるように親分が内股で……いや、もうほっておこう。


「お前らに朗報だ! 何と頑張っているお前達に、ハーモニーがニンジンのぬか漬けの差し入れを許可してくれた」


 俺がそう言うと、ハーモニーがお皿に乗せた漬物を子分達に見えるように差し出した。


「「「おぉ~~~~~!」」」


 漬物を食い入るように見る、うさ耳が不釣り合いなおっさん達……。口からは涎が垂れている。


「汗をかくと体が塩分を欲する! 今後は仕事の休憩時は水分だけではなく、各自で塩分も取るように! でも取りすぎは良くないからな? それではハーモニーから漬け物を一人一つずつ貰うように」


 俺の言葉の後、順々にハーモニーからニンジンのぬか漬けを受け取り「有り難う御座いました!」と彼らは頭を下げ受け取っていく。


 ポリポリと兎のように食べ始める四人と何故か親分。彼らが小動物のようにニンジンにかじりつく姿を見て、何となく胸の辺りがモヤモヤするのであった。

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