第51話 腐葉土作り3
四人は綺麗に食べ終わり、心なしか顔色も良くなっていくらか体力も回復しているようにもみえる。
「久しぶりにまともなもの食べたっす!」
「僕、今のお漬け物、大好きになってしまいました」
「あっしもでヤンス! あっしらが作る野菜がこんな美味しくなるとか、
「ディ……ディランも、農作業頑張るウサ……。もう、道草を食べる生活に戻るのはこりごりでウサ……」
それを聞きながら涙目で静かに頷く親分。──え? 道草を食べるって、比喩表現だよな?
『カナデ? 道草って美味しいカナ?』
流石うちの腹ペコ精霊……食の話題には敏感だ。一般人は腹壊すんじゃないか……? 兎男だから大丈夫だとかか?
「じゃ、じゃぁ元気になったようだし、続きをお願いしていいか?」
「はい、喜んで!」
俺は藁を手で掴み、次々と穴の中に投げ入れていく。
「次はこの藁を……こうやって中にいれる。さぁ、お前たちもやってみろ。入れすぎないようにな?」
俺の指示に従い。次々と藁を穴の中に均等に入れていく。
「ストップ! 次は米ぬかを入れて水をかける。米ぬかは、表面に薄っすらと振って、落ち葉が見えなくなるぐらいでいいぞ。ちなみに、藁や米ぬかを入れるのは、微生物……っていっても分からないか? 目に見えない小さな生き物な。そいつの栄養になったり、ミミズや虫の栄養にもなるから入れるんだ。」
分かりやすく説明をしたつもりだが、親分、子分はいまいち理解できてなさそうだな……。
どうせ仕事を覚えるなら、作業工程だけじゃなく意味を理解してもらいたいんだよな? それが今後の彼らのためにもなるはずだし。
「あ~……植物って、森とかでは割りとスクスク育ってるだろ? あれは生き物たちが長い年月を掛けて生み出したものなんだ。その環境の土を、人の手で作る手順……って認識でいてくれ」
兎男達からは「おぉ~」と歓声があがり、皆頷き何やら納得をしているようだ。──理解しているかは知らないが、分かってくれたと信じよう。
改めて穴を確認すると土も固そうだな……崩れる心配もなさそうだ。未来の事を考えれば、子供達にも作業に触れあって貰いたいな……。
「トゥナ~ちょっといいか?」
トゥナに声をかけると、彼女はこちらを振り向き「なに? カナデ君」と返事をした。
「ちょっと、こっちに来てもらっていいか?」
俺の呼び掛けに、トゥナは子供達をぞろぞろとつれて歩いてきた。
「カナデ君、どうかしたの?」と彼女の疑問の声に、俺は一人の獣人の少年を抱き抱え穴の中に入れた。
「カナデ君…何してるの?」
「これか? 今から、中の藁を踏み固めるんだけど。子供達もこれなら楽しく農作業に参加できるかなって」
そう言いながら一人、また一人と穴の中に入れて行く。
穴の中でキャッキャッ飛び回る子供達。
履いている靴も、この時期はサンダルではなく。モンスターの固い皮を使っているらしいので、足に枝が刺さる心配もない。大人は中で子供が転ばないよう、気を付けるだけだ。
あらかた踏み固めてもらったら、一度穴から子供達を出し、再び枯れ葉、藁や米ぬかを入れて子供に踏んでもらう。
「じゃぁ、これを一杯になるまで繰り返すだけだから。親分さん、俺はちょっと用事があるから、またしばらく任せたぞ? トゥナ、ちょっと」
「私? わかったわ」
俺達は、そう言いながら畑を後にし、大聖堂の方へ歩いていく。
そして俺は勇者の像の前で「さっきの素材売買の代金を頂きたいんだけど? 買い足したいものがあって」とトゥナに唐突に切り出した。
突然のことで驚いたのだろうか? 少し顔を背けながら指を擦り合わせ、彼女の表情が曇っていく。
「あ、あのね? その事で報告しないといけない事があって」
そう言いながら俺の前に、アルラウネを倒したときに出た石と、細い糸……おそらく菌糸を束ねたものか? それを目の前に出して見せた。
「買い取って貰えなかったとか?」
俺の質問にトゥナは首を左右に振った。
「
そう言葉にして、明らかに困った顔をするトゥナ。──俺が寝ていたうちにしっかり素材を回収してくれてたんだよな……。
「多分そんな高い買い物じゃないから、売れた分の分け前でいいよ。残りの素材はトゥナに任せるよ」
「そうね、それならお金が必要になった時に売りましょ。それまで、持っててもらっていいかしら?」
トゥナから、俺の取り分と素材を受け取り、マジックバックの中にしまった。
「それじゃぁ俺は買い物に行ってくるから、アイツらの見張りは頼んだぞ?」と、俺は教会を後にした──。
──その後買い物を終え、裏庭の畑に俺が戻ると、子供達ではなく四人のオッサンが、作りかけの腐葉土の上でピョンピョンと兎の様に跳ねていた。──子供達は飽きたのかな?
「あ、兄さん! おかえりっす!」
「ただいま。ずいぶん仕上がったみたいだな?」
目の前を見ると、先程の空いていた穴には一杯に材料が敷き詰められていて、それがほぼ完成しているのは目に見えて分かった。
「おかえりなさい、カナデ君」
「おかえりなさい~カナデさん」
トゥナとハーモニーの周りには、遊び疲れて眠ってしまった子供たちが集まっている。
この空間でのこの二人の存在は、本当に癒しとしか言いようがないな……。絵柄が対照的だ。
ちなみにその近くでは、親分も寝てい……いや? 白目むいてるぞ。
「兄さん、その手に持っているものは何でヤンスか?」
「あぁ、これか?」
俺はそう言うと、丸まっていた布のようなものを広げて見せた。
「魔物の皮だよ。腐葉土の熱が逃げたり 、雨が入るのを防ぐために上から掛けるんだ」
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