第49話 腐葉土作り1
──天国とも、地獄ともとれるあの事件の後、裏庭にある管理が行き届いていない大きな畑での出来事だ。
まだ肌寒い陽気の中、半袖姿の元子分達が、汗をかきながらも恐ろしく早いペースで、表の麻袋を畑に運び込んでいる。
その中俺は、トゥナの側で正座中……。共犯の親分は、どうやら彼女に近付くと気絶してしまう様なので、少し離れたところで土下座中だ。彼は全然頭を上げる素振りがない。──異世界にもあったんだな、なんて見事な土下座だ……。
「カ~ナ~デ~君、聞いていますか!」
「はい! 聞いております!」
正座を始め、どれぐらいの時間がたったのだろうか……? 恐らく、地球時刻で二十分程だろう。先程から、ずっとこんな感じだ。
前回見た時は、ファーマのファインプレー……もとい。悪戯によって見てしまったので、ここまでのお咎めは無かったが、今回は違う。
今回もある種の事故みたいなわけだし……
それにしても、前回が白で今回はピンクか……トゥナらしい清楚な色選びだな、流石だ、うん。
「聞~い~て~る~の! カナデ君!」
「──は、はい! 聞いております!」
やべっ! 今のは完全に聞き逃してた!
俺の心を見透かす様に「後で、ミコちゃんに確認取るわよ?」と、死の宣告を下すトゥナ。その瞬間、背筋に凍るような悪寒が走った。──それだけは困る! 今のをミコにチクられたら、土下座じゃすまない!
「すみませんでした~! 今のは聞き逃してました!」と、潔く地面に頭を擦り付ける俺。──例え格好悪いと言われようが構うものか、今は自分の命が優先だ!
トゥナはその姿を見てか、頭を抱え大きなため息をついた。
「見られたから怒ってる訳じゃないの、建物の中で大人が全力で走ったら危ないし、子供が真似するでしょ?」
彼女の発言にぐうの音も出なかった。例え恐ろしかったとは言え、急に走り出した俺にも非がある……のか? ま、まぁ、話し合いで解決するべきだったのかもしれないな。
「それでは、お説教はこれでおしまいにするからね? カナデ君、今後は気を付けてね?」
そう言いながら、荷物運びを手伝いにいくトゥナ。目の前の兎共の動きが、三割増し早くなったようだ。──俺も手伝いを。あ、足が痺れて動けない……。
向かいで土下座していた親分は、その場で地面に胸までつける土下座を見せピクピクと痙攣をしている。──あれ、気絶してないか?
『トゥナンとっても優しいカナ。こんな邪なカナデは、もっとビシッ! っとするべきだと思うカナ!』
な、なんだよ……急に。仕方ないだろ! 男は大体、邪な気持ちを胸に秘めてるものなんだよ。
『あ~カナデが開き直ったカナ!後でトゥナンに報告……』
──ミコ様、誠に申し訳ありませんでした!
『わかればいいカナ!』
くそぉ~! ミコが無銘の中にいる以上、完全に思うツボだ……明鏡止水……明鏡止水だ!
ミコとそんなやり取りをしているうちに、どうやらハーモニーと元子分達。そして、子供達によって無事に枯れ草が入った麻袋が運び込まれたようだ。
「カナデさん、運び終わりましたよ~?」と、遠巻きに俺を呼ぶハーモニー。遠目に見ても、その顔はなんとも言えなさそう複雑な表情を秘めている気がした。
「あ、あぁ~今いくからな! ちょっとまっててくれ」
俺は自分の膝を抑え、何とか立ち上がる。生まれたての小鹿さながらに、足を震わせながら皆の元に歩いていった。
「よ~し! じゃぁ早速、
俺の掛け声に「はい喜んで!」と、元子分達は、何故かトゥナの前で整列し敬礼をした。それを見てだろう、子供達も真似をするようにその後ろに並んで敬礼をする。──完全な上下関係が成り立っている……。トゥナ、恐るべし。
さて、俺も少しは仕事しないとな。このままだと、良い所を全部持ってかれちまうからな……。そんな事を考えながら、俺は畑をぐるっと見渡した。
「ハーモニー? あの辺りのスペース借りたいんだけど」
畑から遠すぎず、しかし邪魔になるほど近くない。腐葉土の完成後、比較的持ち運ぶに便利そうな場所を指さした。
「はい、どうぞ。あそこでしたら、ほかの作業にも邪魔にならないと思うので~」
俺が現地まで歩いて行くとトゥナの指示があったのだろうか? 後ろから、行進をするかの様に元子分達と子供達が後をついてくる。──なんだろ……非常にやりづらい。
地面に線を引き「大体これぐらいの位置に
「はい、エースケ君質問かね?」と、俺は少し教師を意識して答えた。テンション上がってしまったのだ。
「あっしらは、今から何をやらされるでヤンスか?」
あぁ~言われてみれば、コイツらには一切説明していなかったな。確かに説明する、良い機会かもな?
俺は髪をかき上げる仕草をしながら、エースケを指さし変なテンションを維持しつつ答えた。
「エースケ君、いい質問だね? 今から君達にやってもらうのは、この植物を育てるには向いてない土を、植物を育てるに適している土にする、魔法のアイテムを作ってもらう!」
その言葉に子分達からは「おぉぉ~~」と、歓声が上がる。──テレビ知識だけに何か恥ずかしいな……。
「ゴホン! まぁ、順に作りながら説明をしようか?」俺はそう言うと、近くに置いてあったスコップを手にし、シータに渡した。
「わっしっすか?」
彼の問いに頷いて答えた。そして、地面に先ほど描いた線を指さし、一言だけ彼に説明をする。
「掘れ──」
「──ひぃぃぃ! 土が固いっす! 全然掘れないっす!」
俺の指示に従い、懸命にシータが地面を掘っている。しかし様子を見ていると地面が硬いのだろう、かなり苦戦をしているようだ。
元々交代でやらせるつもりだが、あえてのシータを人選したのには理由がある。おやびんの産みの親に、なんとなくペナルティーを与えたかったんだ……。そう、なんとなく。
「それだけ固いと野菜も根を伸ばしにくかったり、石にぶつかり形もいびつになるんだよ。腐葉土を土に混ぜることで、そう言った欠点の解消に繋がるんだ」って、テレビで言ってた気がする。確か、 土の中の通気性や保水力アップとかにも効果があるって言ってたな?
「まぁ、交代でやってもいいからな?」
俺の言葉を聞いて、頭の耳を力なく倒し「もっと早く言って欲しかったっす、いじめっす」とクレームを入れられた。しかし、それに否定はしない。
もっと言えば、本当は木の入れ物とかでもいいんだけどな? 少しでも材料費の節約になるかと、あえて穴を掘らせている。
穴掘りは子分に任せ、俺は一度席を外す事にしようか?
そういえば、子供たちは? と周囲を見渡すと、子供たちはトゥナとハーモニーと遊んでいる。──いつの間に……。
ふと空を見上げると、永遠に広がるかの様な青空が、一面に広がっている。──うむ、今日も見事な快晴だ!
「うん、労働って素晴らしいものだな!」
俺は、それだけ言葉にすると、しばらくの間席をはずすのであった。
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