第47話 世界初の漫画本?
俺達は、ティアとの約束を果たすためフィーデスの街に到着してすぐに、彼女の勤めているギルドへと向かった。
「お帰りなさいませフォルトゥナ様! 私とても……とても心配しておりました! 無事で何よりです」
カウンターから上半身を乗り出し、両手でトゥナの手を握るティア。
俺も居るんだけど、完全に
「ありがとうティアさん、心配を掛けてごめんなさい……。そうだ! 早速なんだけど素材の買い取りをお願いしたいのだけど」
手を離し、席に着きなおしたティアが「はい、かしこまりました」と、満面の笑みを向け、トゥナと素材のやり取りを始めた。
まぁ、こちらは任せておいても問題ないか? むしろ俺に、やれる事がない!
それにしても、このギルドに来る度に、周りがこちらを見てヒソヒソと何やら話してるのが気になる……。
前の食事会からだよな? 特に女性が多い気がする……気になって仕方ない。
「トゥナ、そっちは任せていいか? 俺はちょっと外に出るから」
「良いわよ。買い取りと、打ち合わせが終わったら教会に行くから、先にいってて」
俺は片手をあげて「任せた!」っとハーモニーが待っている馬車へ、逃げるように向かった。
ギルドを出るとすぐそばで、小さな体で精一杯、背伸びをしながら馬車の馬の毛繕いをして待っている、ハーモニーの姿があった。
「あれ? ずいぶんと早かったんですね~?」
「何て言うか、中に居づらくてな?」
どうやら、トゥナやティアは気づいていないようだけど、周りの視線に敏感なのは、協調性を重んじる日本人特有の感性かもしれないな……。
『違うカナ。それは、カナデがビビりで挙動不審なだけカナ? 環境のせいじゃ無いモン』と、ツッコミを入れるミコ。──こいつ……的確に痛いところを突いてくるな? 今回は、どんなお仕置きをしてやろうか……。
何気なく目の前の小さな大人のレディーをみて。──あ! そうだと、視線調査の打開策を閃いた。
「ハーモニー。一つ、頼みがあるんだけど?」
「え~……カナデさんのお願い事ですか? 少しだけ考えさせてください~」と、考える素振りを始めた。
まぁ、嫌なら無理に頼むほどの事でもないんだけど……。あの視線が、どうにも気になるんだよな? 俺の勘が告げてるんだよ。これはきっと、何かある! って……。
そんな俺の顔を見てか「冗談ですよ、最近子供扱いするから困らせたかったのです~」とハーモニーは満面の笑みだ。
「では、用件を教えてください。私に協力出来ることがあれば喜んで~」
今回は、彼女の好意に甘えさせてもらおう。自分の事だけならほかっておくが、トゥナやティアが、何かの事件に巻き込まれてるかもしれないしな?
俺はお願いの内容を伝え「よろしく頼んだよ」と、またハーモニーの頭を撫でてやった。
嫌がりながらも目を細め、気持ち良さそうに撫でられるハーモニーを見ると、ついからかいたくなるんだよな……。
「も~う~」と、口を尖らせながらもギルドに入っていくハーモニー。──なんだかんだ律儀に動いてくれるんだよな? 可愛いやつめ。
さて、ハーモニーに頼んだお願い事も、時間はかかるだろう。その間何をしてようか?
──しかし、時間がかかると思いきや、ハーモニーは物の数分でギルドから、何故か慌てるように出てきたのだ。
「どうだった? 何か情報はつかめたか?」
俺が彼女に頼んだのは、あまり顔の割れてなさそうなハーモニーによる、他の冒険者、職員への聞き取り調査だ。──この愛らしい外見だ、知っていれば断ることも出来まい……。
「え~っとですね~……何ていったらいいのでしょうか~?」
俺と目を合わさず、明らかに挙動不審なハーモニー。──まさか、さっき頭を撫でて怒ったのか?
そんな彼女をよく見ると、何やら先ほどは持っていなかった、一冊の本を背中に隠し持っているようだ。
「なんだ? バッチリ情報手にいれてきてるじゃないか」と、彼女の手からソレを引き抜き、奪い取った。
ハーモニーの「あっ!」っと言う声と共に、俺はその本のページをめくったのだった──。
「──な、何だよこれ……」
そこに描かれていたのは、トゥナとティア、そして俺の、三角関係を描いた十八禁ものの同人誌だったのだ……。
しかも、ご丁寧にも羊皮紙ではなく、紙を使った一品だ。
「トゥナリア王子とティアーラ姫の恋、その最中、略奪愛を企むカナデ王子。物語はクライマックスへと迫っていく……。三人の恋の行く末は。って、何だこりゃ!」
っていうか、何で俺だけそのまんまの名前なんだよ! 悪意しか感じないぞ!
しかもよくよく見ると、カナデ王子が狙ってるのって、トゥナリア王子って書いてあるぞ! 何だこれ……BL本じゃねぇか!
目の前には、俺を見て何やらモジモジするハーモニー……。──な、なんだよ……その視線は……。
「あ、あの~大変お聞きしにくいのですが……御三方は、そう言ったご関係で~?」と、目の前のハーモニーも、ギルド内の冒険者と同じ様な視線を俺に向けてきた。
「いやいや、これフィクションだよ! 想像の産物だから! だいたいトゥナも女の子だろ!」
「そ、そうですよね……スミマセン。こう言うの初めて見たもので~……」
気まずそうな顔をしながら顔を背けるハーモニー。──情報収集を頼んだのはオレだけどさ? こんなチビッ子に、こんな過激な内容の本を渡すって……何考えてるんだよ? 倫理観の違いか? そうなのか?
しかし、彼女が動揺する気持ちは分かるな。そうだよな? 異世界に同人誌なんて普通無いもんな……。そもそも、事実を描かれない、漫画のような空想で描かれた本ってあるのか? あっても、聖書のような
──じゃぁ何か? これを見た一部の人は、これが事実だと勘違いする事もあると言うことか?
こ、これは不味いぞ? くそぉ~! 犯人が見つかり次第抗議してやる! なんで俺だけ本名なんだよ! もっと魅力的に描け! って……。
──冗談はさておき 。
しかし、犯人を見つける手だてもないしな……。ひとまず今は、俺のイメージ低下以外の害は無い……か?
この件は保留にしよう。この手の情報は一人じゃ捌ききれない! 俺の手に余る。
頃合いを見てティアに相談しようか……。当事者だしな?
トゥナに教えるのは……。ダメだ! 彼女にこの世界はまだ早い!
今はやる事もあるしな? まず、そちらを優先しよう。
先程の俺の説得に、若干半信半疑な雰囲気を
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