第44話 夢と願いと目標と
「──トゥナさん、カナデさん。夕食が出来ましたよ~」
巨大な太陽は広大な大地を赤く染め、長く細い影を作り出す。
フィーデスの町までまだしばらくかかる予定なので、俺達は少し早いがここで野宿をする事にした。
赤い光を水面が反射し宝石の様にキラキラと輝く、そんな綺麗な湖のほとりに馬車を止め、俺はワンポールテントを一つ立てた。
馬車の荷台があるから必要無いようにも思えるが、このメンバーでの野宿の際は、決まってテントを一つ用意するのだ。
荷馬車があるので、その中で寝ればいいと思うのだが……。
「私達は寝るとき荷馬車で寝るけど、カナデ君はテントでお願いね」と、前にトゥナに言われたのだ……。
二人旅の時は交代で夜の番をしてたので、こう言った問題が起きなかったのだが、トゥナはどうも俺がハーモニーと荷馬車で一緒に寝る事に、何かしらの抵抗があるらしい。
そして、 断るのもおかしいので、素直に了承している次第である。
「おぉ~美味しそうだな?」
ハーモニーが準備した料理は、野菜を蒸したものと、薄く切ったハムだ。
蒸した野菜をハムで巻いて食べるらしい。切ってあるパンに挟んで、一緒に食べても美味しい。
シンプルながら、野菜の甘味や旨味が分かる一品だ。マヨネーズがほしくなるな……。
今晩の夕食は、ハーモニー自ら「今日は私が作ります~」と、率先して声を掛けてくれたので、今回はお言葉に甘える事にしたのだ。──やっぱり……自分で作るより誰かの手料理が食べたいしな? じいちゃんも料理はしなかったから……些細な事かも知れないけど嬉しいな。
焚き火を囲み、俺達はハーモニーの料理を心から堪能した。
ミコなんて欲をかきすぎて蒸し器代わりに使った鍋の中に、頭から突っ込む始末だ。幸い、大きな火傷も無かったが、危うく精霊の蒸し焼きが完成するところだった──。
──楽しい食事も終え、ミコを含めた四人で焚き火を囲む。
日は沈み、先ほどまで伸びていた影は見えなくなり、周囲は夜に包まれる。そして、焚き火が作り出す影が新たに生まれた。
しばらくすると、ハーモニーが突然思い出したかのように「カナデさん、とてもお強かったんですね~? 驚きましたよ~」と話題を振ってきた。──確かに彼女の前では刀を抜いたことは無かったけど……俺は、今までどう思われていたのだろうか?
「そうなのよ。カナデ君、ビックリするぐらい強いのにね……」とこちらを見るトゥナ。──勿体無いとでも言いたいのだろうか?
「今回はボクも頑張ったカナ!」
目の前に飛び出てきて、胸を張るミコを「ミコちゃんも凄かったわよね?」とあやすトゥナ。──扱いになれてきてるな……。
そんなやり取りをしている中、ハーモニーが俺の顔をじろじろと覗きこんでいる。
「な、何だよ? 俺の顔に何かついてるか?」
「いえ、そう言うわけじゃありませんが~……。ただカナデさん、全然武器抜かないな~っと思いまして。戦闘以外だと、ちょくちょく剣を抜いてウットリしている所を見るのですが……」
──見られてた!
「何でって言われてもな……」
この世界の人に言っても、納得してもらえるのか?
しかし、目の前のハーモニーは俺をじっと見つめ、回答を待っている様だ。
「俺の師匠に当たる人……じいちゃんの教えなんだけどな? 剣ってものは命を奪うために振るわず、何かを守るために振るえって教えがあるんだよ」
「あんなに強いのにですか~?」
「強さは関係ないさ、命を簡単に奪うなってことだと思うけど」
目の前で「う~ん」と悩んでしまうハーモニー。
生きていた世界が違うんだから、命に対する価値観も違う。地球でさえ、戦争のある国と無い国。個人が何を信じるかで、その人が感じる命の重さは変わってくる。分かってもらうのは難しいよな……。
「でも力があるなら、魔物を沢山倒した方が人的被害が少ないですよね? それって……力があるものだけが成し遂げられる、責任な気もするんですけど~……」
人が生きる上では、ハーモニーの意見は間違いではないと思う。ただ、俺がじいちゃんから教わった教えは、もっと広い視野で見ないといけない気がするんだよな……。
「私はカナデ君が言ってる事も、最近少しだけ分かってきた気がするわ……でもね? ハーモニーが言うことも正しいと思うの……」
まぁ、俺もハーモニーの意見が間違っていると思っていないしな? そもそもコレは、正解のない問題なのかもしれない。
じいちゃんが俺に伝えたかったことは、武器を握る以上、常に命と向き合って生きていけ……。そう言いたかったんじゃ無いのだろうか?
「物事の考え方なんて、人それぞれだろ? 正しさなんて立場で変わるさ。それに……」
真剣な面持ちで、二人は俺の言葉に耳を傾ける。俺が出す答えに興味津々なのだろうか?
「二人とも勘違いしてるぞ、俺はそもそも鍛冶屋志望だからな? 命を奪うのは本業じゃない!」
俺がそう答えると、予想外の回答だったのだろう。二人はお互いの顔を見合わせて笑い出した。
「そうだったわね、忘れてたわ」と、そういったトゥナは、口元を手で隠しながら声を我慢するかの様に笑い。
「そうだったんですか? 知りませんでした」とハーモニーは、腹を抑えながら日溜りの様な明るい笑顔で笑った。
きっと俺は、こんな笑顔を守るために、無銘を振るっていくんだろうな……っと、心の中でらしくないことを考えた。
しかし、よく笑うな……。それはそれでちょっと悔しいぞ?
俺はそんな二人を見て、仕返しをしてやろうと「俺の事より、二人はどうなんだよ? 夢とかさ?」と言い、二人の顔を見た。
夜と焚き火の魔法かも知れないな? 普段ならこんな話、恥ずかしくて話題にも出せないんだけど。今は気分が高揚しているのか、自然と言葉が口を突いて出た。
「え~そういう話だったの!」と焦るトゥナ。
しばらく間を置き、トゥナは「笑ったりしない……?」と指をモジモジしている。──可愛いいな! もう!
俺とハーモニーは口裏を合わせる様に「笑わないよな?」「笑いませんよね~?」と、緩みそうになる口元を必死で我慢し答えた。
それを見聞きして観念したのか、トゥナは「私は、勇者様みたいになりたいの」と言いながら、両手で顔を
「お、おぉぉぉ…?」と反応する俺と「おぉぉぉぉ~!」と驚くハーモニー。
それを聞き、何故かミコは腕を組み、ウンウンと頷いている。
なるほど……壮大な夢だな。しかし、勇者みたいって勇者をよく知らない俺には、いまいち分からないな?
「勇者みたいって、具体的なイメージとかあるのか?」
「世界を救うとかですか~?」
「あ、あのね! 世界を救いたいとか、そう言う大それた話じゃないの! ただ子供のころから聞かされていて……」
憧れとかそう言う感じかな? そう言う意味では俺も似たようなものか。目に見えていたか、見えていないかの違いしか無い。
「誰かのために戦って、何かを守りたい。それで種族差別の無い、平和な世界が作れればいいかなって……」
「素敵ですね~青春です~!」と両手を叩き、拍手をするハーモニー。
「カナデも少しはトゥナン見習うカナ!」とミコも割り込んできた。──なんで俺が怒られてるんだよ……。俺のだって、立派な夢だろ? 確かに誰かを助けたいとかそう言う美談ではないけど。
「私はこれでおしまい! はい、次はハーモニーね!」
理由は焚き火の明かりだけではないだろう。先ほどより、明らかに顔を赤くしているトゥナが、慌てながらもハーモニーに話題を振った。──なんか、学生のお泊まり会の様な雰囲気になってきてるな? なんか甘酸っぱい感じの……。
「私ですか~? う~ん……」
指を
「あまり考えたことがありませんでしたね……。夢と言うよりは、願いになってしまいますかね?」
誰しも夢を描く事が出来る世界では無いかもな……。そんな子が思う願いか? どんなものなのだろうか?
ハーモニーは深く深呼吸をすると、何やら覚悟を決めた様な面持ちで俺達を見て口を開く。
「私出来ることなら、カナデさんと、トゥナさん、精霊様と、このまま旅を続けたいです。そして、色んな世界を見たいです~!」と、少し声を震わせながら答えたのだ。
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