第39話 ビバお米
「なぁ? トゥナ……。そんな顔しても、何もしてやる事は出来ないぞ?」
冷たいようだが、普通の人間が出来る事ってたかが知れているんだよ……。
漫画や小説の主人公なら、領主を成敗! とかしてさ? この状態も何とかできるのかもしれない。
──しかし残念ながら、俺はそう言った種類の人間ではない。
誰かを倒して世直しとか、それが正しいと判断できる程の知識も、経験もないのだ。
「そんなぁ……」と、下を向きながら落ち込むトゥナ。
その姿を見たハーモニーが「大丈夫ですよ~。この前のおやびんさん達が来たら、人手不足も解消されますし~」と、フォローを入れた。
なるほどな……。この前の盗賊達に対する彼女の提案は、そういった意図があったのか……。本当に商魂たくましい子だな。
──ただハーモニーよ! 親分だからな? 間違えないように……。
でも、人手不足が解消されるのなら、石取りや雑草抜き、俺達がやっている収穫も、外に依頼する必要もないな? それだけで教会内の問題が、すべて解決になればいいんだが……。
あ~そうだ……。
「──鑑定!」
俺の赤く輝く
「おいおい……。マジかよ……」
本当にただの思い付きだった、もしかしたら何かの役に立つかもしれないと……。しかし、瞳に映し出したものは、思ってもみない情報であった。
【畑の土】土 ランク1
状態異常
栄養不足 重要◎『窒素、リン、カリウム』
栄養不足 重要△『カルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、銅、マンガン亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ニッケル』
水捌け ×
人や武具だけでなく、物の状態異常までも見えるのか……。
鑑定眼……。あまり意識して使っていなかったが、これはひょっとするとかなり便利なスキルなのではないか?
野菜の状態の悪さの原因はハッキリしたけど、教会の収入源になっているのであれば、作物を育てず土地を休ませる事も難しいよな?
かといってローテーションで畑を休ませる提案をするには……家畜を買うための知識が必要になるし……。もちろんその分の出費もかかる。
人手が居るなら、肥料が手に入れば直ぐにでも解決するだろうけど……。肥料を手に入れる具体的な方法がな。
じいちゃんは趣味で家庭菜園とかしてたから、その辺りに関しても詳しかったかもしれないけど……。
ぼやいても仕方がないか! ひとまず、分かったことだけでも伝えておくか?
「どうも畑の様子を見ると、土の状態が良くないらしいな」
「え? カナデ君分かるの?」
事前に、彼女達には俺のスキルを説明してある。今俺が見たことを説明すると、驚きは納得へと変わった。
「やっぱり……土の状態ですか~……」
薄々は気づいていたに違いない。しかしどうすることもできず、この教会では畑を広げて、作物の量を取ることにしたのだろう。
「カナデ君、何とかならないのかな?」
トゥナも何かしてあげたいのだろうけど、今日の彼女の手つきを見ていると農業経験はなさそうだ……改善案は見込めないな。まぁ、俺もなんだけど。
「う~ん」
俺も農作業は本当に、畑違いなんだよな……。畑だけに!
『カナデ……。ビックリするぐらいツマラナイカナ……』
そう言えば、無銘の方に居ましたね……。
俺も、農具なら作ったことはあるんだけどな……。
──ん、作ったこと?
「なぁ、肥料って自分達で作れないのか?」
何で気付かなかったんだ、無いなら作ればいいだけじゃないか!
「肥料って人の糞、尿等を使ってるんですよね……? ここだと子供たちも居るので、作るとなると危なくて……」
ん? この国の肥料って人の排泄物を使った物が主流なのか? 日本でも当時は使ってたって話を聞いたことはあるけど……。
「なるほどな……どっちにしても肥料は難しいか……。糞なんかを使わない、肥料の作り方もあったはずだけど……覚えてないしな……」
こんなことなら、じいちゃんの趣味に俺も付き合っておくべきだったな……。まさか、こんな形で必要になるなんて……。
じいちゃんも言ってたな……。生きる上で、無駄な経験など一つも無い! って……。
「そうだ! 比較的危険もなく子供たちがいても安全で、土を少しでも良くする方法はあるぞ!」
「──それって本当ですか!」と俺に飛び付いてくるハーモニー……。
不謹慎だけど、よく見なくてもこの子も可愛いんだよな……。顔立ちも整っているし少し幼いだけで……。流石エルフと言うべきか? 胸は無いけど。
『最低カナ……。カナデ……』
しまった……。またやらかした……。
「ごほん! 腐葉土って言ってな。俺のいた国で実際に使われてた事もあるものなんだ。肥料ほど栄養価はないけど、水はけに関しては改善されるはずだ」
じいちゃんが好きなテレビ番組で、やってたのを一緒に見た記憶がある。うん大丈夫だ! これはしっかりと覚えてる。
「材料は落ち葉や水があればできる、米ヌカがあれば出来るまでの時間が短くなるはずだけど……」
そもそも、この世界に米があるかさえ分からないんだよな……。どうせ「米ヌカってなんですか~?」って言われるのがオチだろ?
「米ヌカ? 有りますよ?」
「──あるのかよ!」
ちょっとまて……。なんだ? このご都合主義の展開は、運命めいたものまで感じてきたぞ?
「言い伝えでは、勇者様が好まれ食べられていたらしいのですよ~。教会では、お供え物としてヌカで漬けた野菜を奉納するのです~」
え? 何? もしかして、過去の勇者って日本人なのか?
考えても見れば、過去にも日本人が召喚されて、その日本人が勇者である可能性があってもおかしくない。ファンタジーの定番だしな?
むしろ、醤油や米ヌカがあるんだ……。まず日本人だと見た方が自然だろう。
『カナデ! カナデ! トゥナン呼んでるカナ!』
あ、あぁ。考え事していた。でも、何か希望めいたものが見えてきた気がするな。
畑の件もそうだが、勇者の事を調べたら今後の俺の目標について、色んな物が見えてくる気がするぞ?
「カナデ君? 聞いてる?」
「あ、あぁ~ごめん考え事してた」
「も~う! すぐ上の空になるんだから」と怒られてしまった……。上の空……久しぶりに聞いたわ……。
「町中だと、落ち葉が沢山はないらしいの。私達で森に取りに行くのはダメかな……?」
なるほど……トゥナらしい提案だ。
「それは構わないけど、取りに行くのにどれぐらいの時間がかるんだ?」
「森までは、往復で1日半ぐらいらしいけど……」
遠いな! まぁ特に、滞在の予定日数も決めてはいなかったし、問題はないけど……。気掛かりがあるとすれば、指名手配の件か……?
取りに行くにしても、依頼をするにしてもお金はかかるだろう。ハーモニーが、もじもじしながら俺の様子をうかがっている。
「ハーモニー、協力するのは良いけど報酬は出るのか?」
「カナデ君! やっぱりどうしても報酬を取らないとだ……」
俺はトゥナの言葉を途中で手で遮った。彼女の事だ、何もいらないと言うのだろう? しかし、俺には彼女からどうしても手にいれたいものがある……。出来てしまったのだ!
「スミマセン…お金を急に用立てるほど蓄えは無いのです~」と、耳を下げながらハーモニーが落ち込む。
「──それなら俺に、お米の情報をくれ!」
右手を強く握りしめ、ガチでお願いをした。懇願したのだ!
トゥナを見ると手で頭を抱えながら、ため息を吐いている。ただ目が合うと満面の笑みで俺に微笑みかけた。異論はないらしい。
「それなら~別に今からでも~」と言う彼女の言葉に、俺は手を挙げ制止した。
「ご飯は……。働いた後に食べるのが一番旨いんだよ」
本当は彼女に、タダ働きをさせるって負い目を感じさせないための、条件提示なんだけどな。
ハーモニーから本当に得たいもの。それは、彼女の笑顔だ! ……なんてな?
『ゴホン、ゴホンカナ!』
ま、まぁ、米の情報が欲しいのは本当だ。あわよくばご馳走にもなりたいと思っている!
「分かりました~、是非よろしくお願いします~!」と深々と頭を下げるハーモニー。
その後は、とりあえず収穫の仕事に戻り、収穫を最後までこなした。
きっと、久しぶりに食べるお米の味は絶品だろう。この世界で、楽しみにしていた可能性の一つが、明確になったのだった。
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