第38話 収穫
「お、おもいです~、どいて欲しいです~!」
数人の子供たちに上から乗られ、身動きが出来ずにバタバタするハーモニー。──多分この子達が、孤児の子供なのだろう……。
本来ならば、すぐさま助けに入るところかもしれない……。しかし、俺はその子供達の、多種多様な外見に気をとられ、ハーモニーを助ける事をすっかり忘れていた。
子供達は俺とトゥナを見て「あ~綺麗な姉ちゃんと、微妙な兄ちゃんだぁ~」っと俺達を指差し大きな声で言った。
子供って本当に残酷だよな……。第一印象で思った事を言うんだもんな……。俺の良いところは内面だからな?
『カナデ微妙カナ、ププププッ』
こいつ……。後で何か飛びっきりのスゴい罰でも与えて……。
『ゴ、ゴメンナサイカナ。カナデの心、超綺麗だシ!』
うむ、分かればよろしい。
虫の息になっているハーモニーの事を忘れ、俺がミコと念話している最中も、トゥナは何とか引っ張り出そうと奮闘している。
しかし不思議かな、子供はムキになり、余計に大好きなハーモニーお姉ちゃんを離さないのだ。
「貴女達、おいたはダメですよ? どいておあげなさい」
目の前からはゆっくり歩きながら、修道着に身を包んだ、おおらかな雰囲気の老婆が現れた。
「
「うぅ~、ひどい目に合いました~」
息を切らせながらも、何とか起き上がるハーモニー。
一人二人なら何とかなっても、三人四人と集まると完全に手がつけられない……。本当子供ってパワフルだよな……。
そんな事を考えていると「──ハモニ? この方達は?」と、聖母と呼ばれた女性から疑問の声が上がる。
手を繋げず泣き出してしまった子を、あやしながらハーモニーに語り掛ける。
この人が、この教会の責任者なのだろうか? 子供に好かれるのも分かる気がするな……。笑顔がまるで日溜まりのようだ。
「このお二方は、私がここに戻るときに護衛に着いていただいた方々です~。今回の作物の収穫の依頼も受けてくれたのですよ~」
ハーモニーの言葉を聞き。──まぁ! と、驚いた顔をする聖母。
彼女は、胸のロザリオを手に取り「ありがとうございます。これも勇者様とミコ様のお導きですね」と目を閉じ、何かにお祈りをしているポーズをとった。──い、今、変な名前が聞こえなかったか……?
「ではハモニ、早速色々と教えてあげてください。お二方も、重労働なので無理だけはしないようにお願いします」
彼女はそう言葉と笑顔を残し、子供達を連れ奥へと向かって行った。
その姿を見送ると「じゃぁ~、私達も行きましょうか~?」と、ハーモニーは歩き出し、その後をついて俺とトゥナも教会の奥に入った。
中に足を踏み入れた俺は、教会の内装に開いた口が塞がらなくなった。
ステンドグラス越しに差し込む光が、月並みの表現だが美しく、あまりにも幻想的でつい足が止まってしまう。
人とは心から目を奪われると、言葉を発することも忘れてしまうんだな……。
「畑は裏庭になります~」と、彼女の案内で教会の中央を抜け裏庭に向かうのだが、中央にはとても立派な男性の彫刻に、一人の天使の様な女性が背中から抱きついている彫刻がソコにはあった……。
彫刻を中心に、複数のバラ窓が設けられており。まるで万華鏡の様な、きらびやかな世界が広がっていた。
彫刻に見入って、足を止めている俺とトゥナに気付いたのか「その彫刻は、勇者様と大精霊ミコ様の彫刻です~。そう言えば~、カナデさんの精霊様もミコ様と同じ名前でしたね~」っと説明を入れてくれた……。──まじでか?
イヤイヤイヤイヤ! どう考えても縮尺が違うだろ? それともなんだ? 勇者ってのは一寸法師かなにかだったのか?
念話越しに『ドヤァ~』と凄いだろうアピールする、うちのチンチクリン。──そうだ! 別物だと考えよう。
『──ナンデダヨウ!』
俺達は建造美を噛み締めるよう、周囲の景色を楽しんだ。ひとしきりソレを見て再び裏庭へと歩きだす。彫刻を見て感じた、何かの違和感とモヤモヤを胸に抱きながら……。
しばらく歩き建物内を抜けると、反対側まで抜けたのか、裏庭らしき出口が見えた。
「おぉ~……」
裏庭に出ると、広大な敷地に複数ある畑の中央には、桶汲み式の井戸があった。
畑を見渡すと、
──でもどうだろうか?
どれだけの作業者がいるのかわからないが、畑を広い規模で使っているためか、草取りなどの作業が追い付いてない様にも見える。
植わっている野菜も日本の物と比較すると、素人目に見ても形も大きさも良くないな……。
「大体ここからここまでを収穫お願いしたいです~」と、ハーモニーから指定された範囲は、三十メートル四方程の大きさの大根畑だ。
「じゃぁ~、早速始めましょうか!」
トゥナは早速、身に付けている防具と武器をはずし、目につくところに置き作業に取り掛かる。──トゥナ、やる気満々のようだな。俺も負けられないな!
腰の無銘の帯をほどき、背中に背負い締めなおした。──よし! 準備完了だ!
「さて、始めようか!」
俺は掛け声と共に、大根の回りを掘り起こし、引き抜いて
籠が一杯になったら、出入り口付近の空いてる場所に、収穫物を置くを繰り返した。
ハーモニーは俺達とは別に、収穫したものを質、サイズ別に販売用の入れ物に積めたり、出来の悪い物を天日干ししたりなどの作業を行っている。
それにしても……。
「これは、量が多くないか?」
ハッキリ言って、思ったよりかなりキツイ! 中腰で歩き続けたり重いものを運搬したり。世の中の農家の人は、こんな苦労を味わっているのか……。正直、畑仕事を舐めていた……。ごめんなさい。
「申し訳ありません~……。沢山出荷しても、安価でしか売れなくて、数を売るしかないんです~……」
俺のぼやきを聞いていたのだろうか? そう言いながら現れたハーモニーの長いエルフ耳が、元気なく垂れ下がった。
「まぁ~確かに、この大きさや見た目じゃ価値も下がるよな……?」
収穫したばかりの大根を手に持ち眺めた。大きさも小さく、形も悪い。地面を掘っても分かるが、石などもゴロゴロ埋まっている。大根も曲がってしまうわけだ……。
「村の農家の方々に、応援とかアドバイスを頼むことは出来ないの? 教会からのお願いなら、人手を出しては貰えないにしても、アドバイスぐらいなら頂けるでしょ?」
そう言葉にして、汗を拭いながらトゥナが現れる。
ハーモニーは少し
確かに、先程ハーモニーが押し潰された時に何人かいたな? 素敵なケモ耳やエルフ耳の子供が。それが何か、関係あるのだろうか?
「この辺りの領主が、数年前に世代交代をしまして~……。その領主がとてつもない亜人嫌いなのです。前までは、農家の方々から肥料を頂き、助言も頂くことができたのですが~……」
ん? ここ最近も、何処かでそんな話を聞いたな……?
「今ではその領主から農家の人達に、教会に協力や援助が出来るのなら、税を重くしても大丈夫だろ? と脅されているみたいなのですよ~……」
なるほどな……。自分達だけで管理してた結果がこれな訳だ? 農家の人も自分達の生活があるだろうし、恨むこともできないよな……。
そんな事を考えながらすぐ隣を見ると、瞳に涙を蓄えた美少女が俺に「何とかして」っと言わんばかりに、黙ってコチラを見つめていた……。──どうしろって言うんだよ。
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