第37話 フィーデスでの依頼
楽しい楽しい食事会の翌日。俺とトゥナは、新しい依頼を受けるために、ギルドの受付嬢の元に向かった。
「「おはようティアさん」」
「フォ、フォルトゥナ様、カナデ様。お、おはようございます……」
俺とトゥナがにこやかに挨拶をする中、ティアは明らかに顔を会わせずらい……っと言う雰囲気で目を合わそうとせず、横を向いている。──さては昨晩の……。
「ティア~さん? 横向いてると声が聞き取りずらいですよ~?」
俺の言葉を聞き、両の頬を膨らませながら彼女がこちらを向いた。
「カナデ様は、そう言う意地悪を言うんですね!」と、普段の凛とした態度とは違った可愛らしい一面を見せた……。このギャップは可愛いすぎるだろ?
「な、何はともあれ、昨晩は申し訳ありませんでした! それと……とても楽しかったです。ありがとうございました」
「楽しんでもらえたなら何よりです。俺も、ティアさんの素敵な笑顔が見れて、誘ってよかったと思ってますよ」
「それって、また意地悪ですか? それとも口説かれてるのでしょうか?」
冗談交じりの会話に、俺とティアは笑い合った。──それにしても、一番の狙いは上手くいったようだな?
ティアの眩しい笑顔が、彼女とトゥナの距離が前より縮まったことを物語っている。──この笑顔が見れたなら……余計な御節介をした価値はあったかな?
「ふ…ん……。カナデ……、ティ……んの笑顔…見……から三人で食事をするって言………けなんだ?」
俺の隣で、何やらぶつぶつと小声で呟くトゥナ。──俺の名前が出てた気がするけど、俺に話しかけたのだろうか?
「トゥナ、何か言ったか? 良く聞こえなかったんだけど?」
「え? う~ん……。何でもないわ。どうしちゃったんだろ? 私……」
そんな言葉を残し、何やら考え込むトゥナ……。──三人で食事が、とか聞こえたけど……。気になるな。
ちなみに昨晩、ミコはと言うと。御馳走を前にマジックバックから出れず「美味しいのも食べれなかったシ! お話しも出来ないしで退屈カナ! プンプンカナ!」と、終始ふて寝していたらしい。
まぁ~そんな彼女も今は、昨晩の残りをこっそりマジックバックに詰めて持ち帰った俺が、それをミコに上納したため、ご機嫌は回復したのだ。
しかし、話せないのは退屈らしく、今日は無銘の中に入っている。
『カナデ、カナデ? トゥナンどうかしたのカナ?』
──っん?
ミコの念話ですぐ隣を見ると、何故かトゥナが若干不機嫌そうな顔をしているのだ。
「トゥナ? どうかしたか?」
「何の事かしら? 別になんでもないわよ?」
そうは言ったが、明らかに普段より声が刺々しい。
それを見て、ティアがテーブルからノリだし小声で「カナデ様。フォルトゥナ様が、ご機嫌斜めですよ? 彼女にも言う事がありますよね?」と、呟いたのだが……。
突然そんな事を言ってもな? 怒ってる理由に見当が付かないし……。こう言う時って定番だと……。
「あれ? トゥナ、髪型変えた? いい感じだよね」
──これしかないでしょ!
しかし、目の前のティアは何故かため息をついている様だ……。──もしかして違ったか?
トゥナは自分の髪の毛先を指で遊ばせ「前髪を、ちょっとだけ切ったけど……。カナデ君よく気づいたわね? ありがとう……」っとうつむき照れているようだ。──ほら見ろ!これで合ってたじゃないか!
『カナデ凄いシ! よく分かったカナ!』
そうだろう、そうだろう。もっと褒めたまえ! そんな事を心の中で考えふんぞりかえる。
「違いますけどね。でもフォルトゥナ様の、そのチョロいところが可愛いです」と、頬に手を当てうっとりしている。──この人のトゥナに対する態度、やっぱり少しおかしいよな……?
ティアは、コホン! っと咳払いをして「それで、本日はどの様な御用件でしょうか?」と、急に見事な切り替えを見せた。──お仕事モードに入ったみたいだな。
俺達は「依頼を受けに来ました」と、一枚の依頼書をティアさんに差し出す。昨日、彼女が俺達に勧めてきた依頼だ。
内容は教会内の作物の採取、賃金は日払い制。決して金額が高いものではないが、好きなときに旅立てるのは都合がいい……。っと言うのは建前だ。
トゥナがどうしても教会の孤児院の、仕事の手伝いがしたい! と、俺を説得したのだ。
俺も断る理由もないので、了承した次第である。
「フォルトゥナ様なら、この依頼受けると思っていました」
そう言いながら依頼書にサインをし、それをトゥナに渡した。
「それでは、お気を付けていってらっしゃいませ」
ティアは頭を深々と下げ、俺達二人を見送ってくれた。
結局、彼女の正体は分からず終いだが、トゥナに関する気持ちには嘘は無いだろう……。
依頼書も受けたので、目的地に向かうために移動を開始する……。
しかし、先ほどからずっと、遠巻きで男女問わず、何やらヒソヒソと噂されている気がするのだ。気になってならない……。
『カナデ、ボーっとしてると、トゥナンに置いていかれるカナ?』
あ……あぁ~。
ギルドから出ようと歩き出すものの、明らかに視線が俺達を追っている……。
俺はトゥナに置いていかれないよう、不気味な視線から逃げるようにその場を後にした……。
──その理由は、また別の時に分かることになるのだが……。
目的地に到着すると、敷地の入り口には大きな鉄の柵が開いた状態になっている。
最近閉じられた形跡は無い。地面は煉瓦を境に、青々とした雑草が生い茂っている。──管理までは、行き届いていないようだな?
上を見上げると見るのは二度目だが「すっげぇ~立派な教会だな~」と、つい声に出てしまうほど見事な作りだ。これは素人目でも分かる。
『フッフゥ~、スゴいだろ、もっと誉めるカナ!』と、何故かミコが得意気になっている。聞こえなかった事にして、俺は先に進み建物の扉の前まで進む……。
『無視するなカナ!』っとミコからクレームが入るが、それでも聞こえなかった事にした。
トゥナが大きくそびえたつ扉を、四回ノックをして「すみません、ギルドの依頼で来ました」っと言う。すると、しばらくして「は~い~」と、ゆっくり扉が開いたのだ。
「冒険者の方ですか~? 作物の採取ですね。是非よろしくお願いします~」と、昨日ぶりにハーモニーが顔を現した。
「──よっ!」
俺は、目の前のちびっ子に片手をあげた。突然の事で彼女は驚いた顔で俺らの顔を見ている。
そんなハーモニーに「依頼、受けに来ましたよ」と、トゥナが依頼書を見せた。
「カナデさんにトゥナさんじゃないですか~!」
『ミコもいるし!』と、念話越しに文句が入る。
「ミコも居るってさ」
俺はそう言葉にして両肩を上げた。
「そうでしたね~、精霊様もこんにちわ~?」
俺の頭の中で、大きな声で『こんにちわカナ!』するミコ……。──大きな念話で話さないで頂きたい……マジで。
「お二方が受けてくれたんですね~? 良かったです~。中々受けてくれる人が居なくて~」
「まぁ~確かに、冒険者向け……では無いかもな? この依頼は」
俺の発言に、トゥナもハーモニーも「そうね」と笑い声をあげる。
「──誰かきたみたいだぞぉぉ~!」と突然、見知らぬ声がした。それと同時に、ハーモニーが俺達の目の前に派手に倒れたのだ……。
「だ……大丈夫か? ハーモニー?」
どうやらそれは、ハーモニーの上に積み重なった、元気いっぱいの子供達が犯人のようだ……。
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