第33話 町へ
元盗賊達の処遇が決まったら後、俺達は今後の打ち合わせを行い出発の準備を行った。
馬に乗って移動するだけの元盗賊子分は、準備が早かった。
彼らは、まず親分さんの容態を確認後、合流して馬をコッソリ返して、俺達が向かっている町に向かうと言うことだ。その間に捕まらないといいが……。
俺は多少気を回して、戦闘中にトゥナに飛ばされた親分の剣を指差し「道中、手ぶらで行くのも危ないだろ? そこに転がってる親分さんの剣もってくか?」と尋ねてみた。
「大丈夫でヤンス、この辺りには馬より速い魔物はいないでヤンスから。それに……」
それに? あぁ、どうせ戦うのが怖いでヤンスっとかいうんだろ?
「その剣、刃がついてないでヤンスよ?」
──っは?
近づいて親分の剣を手に取ってみた。──本当だ……刃の部分が丸められている。
俺、刀鍛冶にとって、見逃せない! とか思ってたよ……。自分が凄く恥ずかしい!
それにしても、偉いリアルな作りだな? 実際の剣の刃を、後でワザワザ丸めたかのようだ……。
「それよりどうせ持ってくなら、そのご飯がいいでヤンス。メチャクチャ美味しかったでヤンスから、出来ることなら親方もに食べさせてあげたいでヤンス」
メチャクチャ美味しいって……そうかな? 調味料も足りてないしもっと手を加えれるところは多いんだけどな~。
そんな事を考えながら、俺は緩んだ口元を手で隠した。
「カナデ君、持たせてあげたらダメかな? 過程はどうあれ、私も……ちょっとやり過ぎちゃったみたいだし?」
やはり気にはしてたか? 三人組が親分の名前をだすたびに、トゥナは居たたまれなさそうな顔をしてたしな。
「まぁ、残すのも勿体ないしな?」
肉じゃがを竹で作られている器に入れ、一回り小さな竹で簡易的に蓋を被せる。はずれないように大きめの笹の葉でもれないように固定した。
「ほら持ってけ」
ヨダレを滴ながら子分の一人、エースケが「ありがたいでヤンス」っと受けとる。──間違ってもお前が食べるなよ?
「本当にご迷惑をかけたでヤンス。この御恩はかならず体で返すでヤンス!」
彼らはそれだけ口にすると、「またでヤンスー」っと馬に乗り俺達が元来た道に向かって歩いていった。
その内の一人、ディランは親分の乗っていた馬の手綱を握り、並列して走っていった。
ヤッパリ、アイツらには武器よりも農具や手綱が似合うな。
それにしても……あの二人、全然話さないのな?
もうこれで忘れ物は無いかな? 辺りを見渡し、ゴミなども落ちていないか確認する。
「よし! 準備OKだ」
トゥナとハーモニーは、もう馬車に乗り込んだようだ。
俺はバックの中で、寝息を立ててるミコと共に馬車に乗り込む。
ピシンっと鞭の音と共に、馬車はゆっくりと弧を描くように先ほどの分岐点へと向かう。軽快に回る車輪にはガタもなく、段差を乗り越えても車輪が抜ける様には見えない。──どうやら車輪の状態も良さそうだな。
御者席に座っているハーモニーが「本当にびっくりしましたよ~。でも大事がなくて良かったです」と、苦笑いをしている。
全くその通りだよ。護衛してる手前、何かあったら洒落にならないからな?
「ごめんなさいね? 心配かけてしまって……」
仕方ないとはいえ、危険な目に合わせてしまったからな? この後の道のりは平和であってほしいものだよ。
トゥナの発言に「結果的に何ともなかったですし」と、フォローを入れるハーモニー、気を使わせてしまったかもしれないな?
馬車は分岐点に差し掛かり、当初予定していたルートに戻った。
馬の
ガタガタと弾む荷台は決して快適なものではないが、藁に体をあずけると、衝撃も幾分か和らぎ香りも
「カナデ君眠そうね、仮眠とる? 交代交代に休憩しましょうか?」
トゥナの言葉に甘えて寝させて貰おうかな? あいつらの相手に疲れたのかもしれないな?
「そうだな。何があってもいいように、今のうちに一眠りしておくよ。」
俺はそう言ってシーツを引き、藁の布団に身を任せた。
荷台に差し込む風は、少しだけ暖かくなってきている気がした。ゆりかごの様に揺れる馬車の中、俺は目を閉じると、思いのほかアッサリと夢の中に落ちることができた。
心の何処かで、次の目的地に期待を膨らませて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます