第32話 円満解決
結局俺は、盗賊子分達が差し出してきた武器変わりの農具を受け取り、それに変わり食事を渡した。──こいつら、武器も無しに魔物がいる世界で生き残れるのだろうか?
そんなことを考えるものの「無茶苦茶うまいでヤンス!」と泣きながら食べる姿を見ていると、ツッコミづらいな……?
それにしてもコイツらの武器、
使い込み方も、石を叩いたみたいな刃物の欠けかたからみると、実際に農作業で使われていたと思われる。
「なぁ? いい加減、事情を説明しろよ? お前達、何で盗賊なんてやってるんだ?」
素朴な疑問だ。もう、盗賊に向いてるとか向いてないとか、そう言ったレベルの話じゃない。
盗賊という名の劇団か、お笑い芸人とさえ思えてきたぞ?
子分達は「
「──っは?」
俺は、彼らが帽子をとった姿に驚いた……。なんと彼らの頭には、兎のような長い耳がついていたのだ。
「え?
トゥナとハーモニーも、彼らの姿を見て驚いているようだ……。エルフやドワーフがいるし、彼女達は今さら驚くことでもないと思うのだが……。俺からしても、何でバニーガールじゃないんだよ! 位なもので……。
「トゥナも驚いてるみたいだけど、やっぱりおっさんがまずいのか?」
「カナデ君……何言ってるのよ……。兎人族って争い事とか嫌いな種族の代名詞なのよ……? 臆病で有名なの」
あぁ~、なるほど。それについては妙に納得だぞ?
こいつら、終始何かに怯えてるもんな? まぁ、何かの正体はトゥナなんだけど……。
「その臆病な兎人族……だっけか? が、何で盗賊なんて大それた事をしたんだよ?」
臆病なおっさんが盗賊って……。完璧に就職先を間違ってるだろ?
「元々はあっしらは、クルム村の厩舎で働いていたでヤンスよ。でも亜人嫌いの領主に、仕事と住む場所を奪われて……。町を、追い出されたんでヤンス。わ、悪い事だとは思ったでヤンス! でも、生きるために……馬を拝借してきたでヤンスよ……」
クルム村って、朝まで俺達がいた町か。話を聞くと彼らの境遇には、少なからず気の毒には思うな……。
人間って生き物は、未知のものや自分より優れている部分を持つものを、恐れたり妬んだりすることもあるからな……。かと言って、彼らに優れている所が、あるかは知らないが。
「人間なのに……。その時に、あっしらを救ってくれたのが親分だったでヤンス。盗賊って言ったって、本当は人質を取って、脅し、金品を奪って路銀にするつもりだったでヤンスよ。命を奪ったりとか、絶対無理でヤンス!」
生きる為……か。俺もトゥナに出会っていなかったら、あるいは……。
彼らの言葉を聞くも、
「それにしても少しやり過ぎじゃないの? 私、結構酷い事言われたわよ?」
彼女の一言に三人組が体を寄せ合い、同じ様に小刻みに体を震わせる。その姿は、確かに小動物の様だ。──おっさん共のこの姿……。見れたものじゃないな……。
「ご、ごめんなさいでヤンス……。でも、あれは演技でヤンスよ! 親分がテンション上がって、あそこまで
藁の餌トラップって……。
しかし全容が見えてきたぞ? 言われてみれば、あの時親分さんと揉めてたな? 馬車の故障は予定外だったのか。てっきり危険な罠や仲間でも居ると思ってたんだけど……。
「それが事実か、後で罠を確認しに行くぞ? 正直に話すなら今だぞ?」っと念のために脅しをかける。
「好きにするでヤンス!」
そう言う彼らは、うっすら潤んだ瞳で俺をじっと見つめる。──嘘はついてなさそうだ……。
「トゥナの姉御に喧嘩売ったときも、皆でやればいいのに……。臆病なあっしらを思って、親分一人で姉御に決闘を挑んで……。おやびんが……おやびんが……」
──おやびんやめい!
トゥナに視線を送ると、
まぁ理由はともあれ、結局のところ悪いのはこいつらなんだけどな? 少なくとも馬泥棒してるわけだし。
「それでこの後解放されたとして、お前たちはどうするつもりなんだ?」
思い詰めるような顔をして三人組は俯いてしまった。
しばらくすると、エースケがゆっくり口を開き「
俺個人としては、そう思えるなら彼らにとって、やり直せるちょうどいい機会かもしれないと思うのだが……。
そんなやり取りを聞いていてか、横からトゥナが「止めておきなさい!」と一言大声を上げた。
てっきり、トゥナは、罪を償う事には賛成だとは思ってたんだけど。止めておきなさい? 無意味にそんな事を言う彼女ではない「どうしてなんだ?」と俺はトゥナに問いかけた。恐らく、それなりの理由が……あると思ったからだ。
「あなた達が罪を告白して詰所に行ったら、まず待っている罰は……死刑よ?」
は? ただの……と言うのは不謹慎か? でも、馬を盗んだだけで死刑って!
「何でそんな重い罰なんだ? 窃盗と恐喝だろ? コイツらの罪って」
確かに軽犯罪と言いがたい……。でも、命を差し出さないといけないほどでもないだろ? 馬の盗難以外、実害あった訳じゃ無いんだ……。
「この国では、窃盗は軽い罪では無いのよ。それより一番の問題は」
トゥナはそれだけ言うと、ゆっくりと彼らを見た。俺はその行動で、トゥナが言いたいことを察することができた。──亜人だからって事か? そんな理不尽な理由がまかり通るのか? この世界は……。
三人組も、黙って俯いてしまったしまった……薄々は感じていたのだろう、その事実に……。
その暗い雰囲気の中、ハーモニーが急に手をあげて「あなた達が盗んだお馬さんを、コッソリ帰して来たならですが~? 私の所で面倒みましょうか~?」と、驚きの発言をしたのだ。
「いやいや! 曲がりにも犯罪者だぞ? そんな事いいのか?」
「大丈夫ですよ~。私の家は教会ですので~。家の孤児の子供達には亜人さんも多いですし、大人の男手も欲しいですしね~。彼らのような境遇の方を、
う~ん、でも犯罪者をかくまうって良いのか? 色々問題な気もするんだが……。
視線をトゥナに向けると、彼女は頭を抱えながらため息をつき「いいんじゃないかしら? この国の教会は国に並ぶ権力が有るから、簡単に手は出せないわ。それに罪を
しかし俺は、そんな彼女の広角が上がっているのを見逃さなかった。──彼女も……甘いな……。粋だぜ。
俺達の話を聞いていた元盗賊達は、揃いも揃って目を潤ませハーモニーを見つめた。
「で、でもいいんでヤンスか? 迷惑になるんじゃ……」
「いいんですよ~その代わり衣食住は与えられますが、賃金とかは出ませんよ~? ほぼタダ働きでもいいのなら……ですが?」
ハーモニーはいい笑顔でそう答えた。全く……商魂逞しい子だよ。
「ありがとうでやんす……。ハーモニーの姉御!」
大の大人が三人して泣きながら、見た目中学生位の女の子に、頭を下げる姿は中々にシュールだ……。
取りあえず、無事解決ってことでいいのか? これ……?
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