第31話 調理

 俺は、村を出る時、宿の亭主に「すみません! これよろしければ……ですが。道中の食事に使ってください」と頂いた。ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎの皮を剥き、猪の肉も出して各種一口大に切った。


 皮を剥き終わると、ジャガイモは水に浸しておく。

 難しいことは忘れたが、こうすることで色が変わるのを防ぐ効果と、ジャガイモが煮崩れしにくくなるらしい。


 肉、ニンジンと火にかけ炒めて行く。玉ねぎを入れさらに軽く……炒める。


 ここまで来れば、何を作っているのか大体分かるだろう。そう! みんな大好き肉じゃがだ! って、カレーにも思えなくないか?


 ジャガイモと水を少々、軽く蜂蜜を入れ煮込む……。──もう少し色々調味料がほしいな……。


──しかし、ついに……ついに、これを出す時が来た。


 俺は、得意気にマジックバックから一つのアイテムを取り出した。

──醤油だ! これもクルム村を出る前、宿の亭主にいただいてたのだ。


 醤油で味をつけ、じっくりと具材を煮込む……。この時はまだ、少し薄味位で丁度いい。


 良し、一段落だ……。火が通るのを待つのみ。さて? トゥナ達の状況はどうだ?


 彼女達の様子を見ると、無事荷物の積み込みは済んでいるようだ。──今は、馬具の手入れをやらされているな……子分達……。トゥナとハーモニー……ちゃっかりしてるよ。


 それにしても、遠目に見てもアイツら、手際がいいな……。やっぱり、馬丁の方が向いてるんじゃないか?


 鍋の中から煮たった野菜たちが、馥郁ふくいくに香って、俺の胃を刺激する。──ん~、いい匂いがしてきたぞ?


 さてと黒パンも準備してと……。やっぱり米がいいな……。あったかホクホクご飯……恋しくなってきたな……。


 フォークをジャガイモに刺すと、スーっと奥まで刺さる。──火が通っている様だ。

 火から避け、鍋を冷ます。味は冷ますことで更に染み込む。本当は、一晩ぐらいねかせた方が味が染み込むけど……。


 さて? 後は仕上げ程度だ。食事でもしようか?


「トゥナ~、ハーモニー、もうすぐ食事が出来るよ!」


 向こうも一段落したのか、盗賊子分を連れて戻って来ている。


 こっちも仕上げにかかろうか? 避けた鍋をまた火にかけ、一つ味見をする。──よし、狙い通りだ!


 最後に醤油を少量回し入れる、このタイミングで醤油を使い味の濃さを調整すると、味が引き締まり、香りが立つのだ。──完成だ!


「お疲れ様、トゥナ、ハーモニー」


 完成した肉じゃがと黒パンを二人分装い、彼女達に手渡した。


「私もいいんですか~? 大丈夫ですよ、携帯食持ってるんで~」と断るハーモニーに「いいから食べな」っと無理やり手渡したのだ。──折角作ったんだしな?


 トゥナも自分達だけ食べるのを気にしてか「怖い思いさせてしまったから、お詫びだと思って頂いてください」と一言……。


 口に出せないが、心から思う。一番怖かったのはトゥナだった……と。


 自分の分を装い、フォークで小分けしてコッソリ、マジックバック内のミコにも渡す。マジックバックの中のミコは、待ちきれないと言わんばかりに熱々のジャガイモを口に頬張る。──相変わらずいい食べっぷりだよ……。作ったかいはあるな。


 やっぱり、食卓は皆で囲った方が美味しいな……。前の世界にいた頃もじいちゃんと二人だったし……。食事に関しては、ちょっとだけ嬉しいかもな。


 そんな、らしくない事を考えながら食べていると、横の方からグゥゥゥっと腹の虫がなる音がした。


「バカ野郎でヤンス! 何腹の音、鳴らしてるでヤンスか!」


「だって、無茶苦茶旨そうです……。最近ろくな物を食べて無かったから……」


「そうウサよ……。仕方ないウサ、生存本能ウサ……」


 影でコソコソと、子分三人組の声が聞こえる……。──どうやらさっきのは、あいつらの腹鳴ふくめいか……。


 う~ん……。幸いでもないけど、食材には余裕がありそうだな……?

 トゥナに視線を向けると、俺の考えが分かったのか。頭を抱えるようにため息をはいた。


「ただって訳にも行かないでしょ……? 盗賊に荷担してるみたいだし。そうね……対価を払ってもらわないと……。金目の物を差し出しなさい、そしたら彼が食事を振る舞ってくれるわ」


 お……おぅ、理解力が有るのは嬉しいが金品要求って……。確かに盗賊行為を行ったコイツらに、無償で食事を食べさせる義理はないが……。


 バックの中から顔を出し「トゥナン悪役みたいだシ」っと小声で話しかけてくるミコ。──それには俺も同意見だ……。


 子分達は三人で話し合い、それを終えると、三人共が俺に向かいゆっくり歩いてきた。


──その時だ! 三人は武器の農具を手にしてそれを引き抜いたのだ。

 俺はとっさに、無銘に右手を置き、瞬時に臨戦態勢をとった。──不意打ちか!


 しかしこの後、その行動は攻撃によるもので無いと知るのだった。


「「「これで御食事を分けてください! あにさん!」」」


三人は声を揃え、自分が武器にしていた農具を、俺に差し出してきたのだ。──う……嘘だろ……? こいつら、食欲に負けてとんでもないものを差し出してきたぞ……?



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