第30話 馬車 修理
これは、とある日の森の中。ひとつの悲劇の戦いが幕を下ろし辺りは静けさを取り戻す。しかしその静寂の中、今新たに戦いの幕が上がろうとしていたのだ……。
俺は四人の子分の達の前を行ったり来たりしながら、彼らの顔をまじまじと見る……。──特徴的な顔をしてるはずなのにな……?
「なぁ? 修理担当を決める前に、お前らの名前教えてくれよ」
コイツら、こんな顔してるのに、親分以外顔が何となく似ていてどうにも覚えにくいんだよな……。作業させるに個別で指示をするかもしれない、名前を覚えてた方が都合がイイだろう。
「あ、あっしらですかい? あっしはエースケでヤンス、コイツがシータでヤンス」
そう言いながらエースケはシータと呼ばれた男の肩をポンポンと二度叩いた。
「シータっス……お手柔らかに頼むっス……」
顔は皆似ているけど、こいつだけはハッキリと覚えているぞ……。親分のおやびんを言ったヤツだ……。
「その静かな二人は、左に立っている方がビーキチ。右に居るのがディランでヤンス」
エースケの紹介を受け、二人は黙って頷く。──この二人は目立たないところが本当に良く似ているんだよな……。台詞、マジで言わないしさ? それにしても……名前が一人だけ場違いだろ? ディランって……。
「──ほら! あいさつするでヤンス!」と、エースケが二人の肩を押すと、ビーキチと呼ばれた男がモジモジと体をクネらせるようにゆっくりと前に出てきた。──乙女かよ!
「ぼ……僕ビーキチです……。さっきはその……ごめんなさい……」
ビーキチは深く頭を下げ、先ほどの行き過ぎた行為を深く謝罪する。──ま……また……偉いかわいい口調だな? 盗賊行為をするにあたって、この口調のせいでお話禁止になった……とかだろうか?
こうなってくると、残りの一人イケメンネームディランに奇しくも期待してしまうな……。
俺はつい、期待の眼差しでディランの顔を見る、彼がそれに気づいたようだ、
「ディ……ディランです。あまり見ないで欲しいウサ……」
──ガラガラ低音ボイスのおっさんの語尾がウサって……。どういうリアクション取ればいいんだよ……。誰か教えてくれ。
「じゃ……、じゃぁ一先ず担当分けするから、じゃんけんをしてくれ。じゃんけんは……分かるか?」
四人は頷いて向いあい、組んだ手の中を覗くなどの謎の必勝法を各自が行いだした……。──異世界感ゼロだな……。もう、勝手にしてくれ!
──そしてこの後すぐに、男達が命を賭けた。新たな戦いの火蓋が切られたのであった。
「じゃ~んけんポン! あ~いこ~でしょ! あ~いこでしょ!」
今俺の前では、盗賊の彼らにとってはとても重要な戦いが繰り広げられている。いい年齢の大人……。おっさん共による、
勝者はもれなく、最悪の魔王登場に匹敵するだろう、フォルトゥナ様の恐怖からの脱出権利が与えられる。
端的に言えば、一人だけ怪我人連れてこの場から逃げれるよ……。ってだけの話なんだけど。
かれこれ十回以上も……あいこが続いている? 四人のじゃんけんでだぞ? 確率はなんぼのもんなんだよ……。生き物としての生存本能がなせる業なのだろうか?
それにしても、この世界にもじゃんけんがあることに驚きだ……。ルールも完全に日本式だ。──何だろう……? この世界に来てから薄々感じてはいたが、日本の文化とちょいちょい親和性がある気がする……。もしかしたら、過去の勇者様ってのは日本人だったのかもしれないな?
「あ~いこ~でしょ! あ~いこ~でしょ!」所でコイツら四人のじゃんけんで本当に何回やってるんだよ! 俺の隣で泡を吹いて倒れているおやびん……。ごほんっ! もとい、親分が流石に可哀想だ。
俺がそんな事を考えていると、俺の隣をあの方が通りすぎる……。静かに戦場に向かい歩み寄る影が見えたのだ。
「二人一組でやりなさい……」
トゥナの厳しい? 一言により、その後の進行は早かった……。
結果的に言えば、勝者はシータだ。盗賊下っ端四人衆の一人で「親分のおやびん」を言ったやつだ……。
「おやびんの事は、わっしに任せるスよ!」と、親分さんを馬に乗せ颯爽と笑顔で去っていった。──おやびんを任せろってだからどっちの意味だよ……。
まぁ、ある意味良かったかもな? 余計な事を言う奴が消えたわけだ……。さてと……それじゃぁ~早速。
「おいお前ら!」
「ハイ!」
俺のあげた声に子分たちに緊張が走ってるようだ……。都合がいいから、この緊張感にあやかろう。
「車輪ハメるから荷台を持ち上げろ!」
「ハイ喜んで!」
俺と残った子分達は外れた車輪担当、女性メンバーは馬の様子を見る担当に別れた。
「ほらお前達、しっかりと持てよ? いいな?」
「ハイ喜んで!」
コイツらどれだけ喜ぶつもりだよ、棒居酒屋の店員みたいだな……。
男達の掛け声と共に荷台が持ち上がる。
俺は車輪を車軸にはめ込み、外れないように楔を差し、ハンマーで抜けないよう打ち付けた。
大きめに作った楔は最初は入りにくく苦戦したものの、しっかりと車軸と車輪を固定する事に成功した。
「ほら、下ろしていいぞ」
盗賊達はゆっくり荷台を下ろし、その場で肩で息をし始めた。──まぁ、重いわな……。
それにしてもよかったな、少し引きずったから、もっとヒドイと思ったけど思いの外大きな故障箇所がなさそうだ。
「カナデさん~、お馬さん怪我ありませんでした~。そちらはどうですか~?」
少し離れた所からハーモニーの声が聞こえた。──良かった……馬車が馬車が直っても馬が怪我してることも考えれたからな?
「こっちは問題ないよ! 今修理終わったところだ」
トゥナとハーモニーは互いに顔を会わせ「良かったね」っと話し合ってるようだ。
本当に良かった……。馬車が無かったら荷物の運搬も出来ない……途方にくれるところだったよ。
「
盗賊の三人は揃いも揃って、低姿勢で逃げ出したそうに俺に訪ねてきた。誰が兄さんだよ。お前らの兄弟でも師弟関係でもないぞ?
「お前ら、三人で下ろした荷物の積み込みをしろ。トゥナ監視お願いしていいかな? ハーモニーは積み込み指示をお願いしたい」
「分かったわ」
「は~い~」
さてと……どうせなら食事でも作ろうか? 後ろから「兄さん見捨てないで」っとか怯えた声が聞こえてるけど……俺は気にしない。
周りの木々をどけ土を掘り起こし、そこに
無駄に肉体労働をして腹が減った! ここは一つ、懐かしの味に心癒されてみようかな!
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