第16話 クルム村

「村についたぞぉぉ!」『村についたカナ!』


 俺の声が村に木霊した……。そして、俺の頭の中にはミコの声が木霊したのだ……。

 

 だだっぴろい平原を歩くこと六日と約半日……。何度か魔物に襲われたものの、激しい激戦の末。ようやく次の村に着くことができたのだ……。──主にトゥナが戦っていた訳だが……。


 俺が叫び声を上げながら村の入口に立つと、なぜか少し距離を取るようにして、トゥナが物陰に立っていた。


「もう……カナデ君……。そう言うのやめてよね? 私も恥ずかしいから」と、背後から呆れるように注意をしてきた。


「ごめん、つい興奮してな……」


 俺の言葉に、彼女は軽く頭を抱えるようにしてため息をつく。今日は帽子を被っていない為か、あきれ顔がしっかりと見えてしまう……。──なんか、俺のせいでそれが癖になってないか……? 可愛いので個人的には嫌いじゃないが申し訳ないな……。


『カナデ、トゥナン困ってるシ。カナデが恥ずかしいから困ってるカナ!』

 

 おいミコ……お前もやってただろ? お前も同類だからな? 恥ずかしい奴だからな?


 トゥナはミコとじゃれる俺を置いて「まぁいいわ……お店を見て回りながら宿屋を探しましょうか?」と、俺の先を歩き出す。──それにしても、数日間も一緒に寝泊まりしてるためか、ずいぶん彼女も慣れたものだ……。置いてきぼりがヒドイ……。


 俺は、置いて行かれまいと、慌ててトゥナを追いかけるように村の中に入った……。


 中を見渡すと少々、草臥くたびれた建物、慌ただしく働く村人、当然イルミネーションや機械などの、地球で見られた現代技術など存在するわけもない……。 コレぞファンタジーの村! って感じの作りだ。失礼かもしれないが、全然華やかさが無い!


 なるほど……煉瓦作りの建物が主流みたいだな? 煙突から、どの家も白い煙が上がっている。日本じゃ中々に見る機会がないな。これは中々におもむきがあるな。──まぁ俺も、炉から出る煙は良く見たけど……。


 まるで田舎者のように、周囲をキョロキョロと見渡しながらトゥナの後をついていく……。──お? 袋の看板? 道具屋とかだろうか? 炭が終わりそうなんだよな……。後、もう少し沢山水が入る水筒なんかも欲しいな。


「トゥナさんや、トゥナさん……。ソロソロ炭が切れそうなんですよ……。後、水を入れる入れ物なんかも欲しいかな~って……」


「なんで急に、そんな変な話し方なのよ……? 良いわ、必需品だし買っておきましょうか?」


 お金が無いので、この前からトゥナさんにおんぶにだっこ……ってより紐みたいな状態になってる……。も、もちろん! ちゃんと働いて返すつもりだけどな?


 道具屋の扉を開け、店内に入ると色々な物が台の上に陳列されている。──地球で言う所の雑貨屋みたいだな……まるで……。


「いらっしゃいませ」


 声の主は店番のおばあちゃんの様だ……中々に個性的な髪色をしており、つい見いってしまう……。赤と黄と青って……信号機かな? 地毛なのだろうか……?


「炭と大きめの水筒。後、このお兄さんに似合いそうな服があれば二、三着お願い」


 別に、服とかはねだったつもりは無いんだけど……。

 あまりお金を使わせるのも良くないな……? 断ろうとした、その時だ。


「──折角髪の色変わったのに、服がそれじゃ~意味ないでしょ?」と、どうやら気を使ってくれたらしい……。何だろう……頭が上がらなくなりそうだ。


「まぁまぁ、彼氏にプレゼントかい? 若いっていいわね」と、店番のおばあちゃんがからかってきた。──え? そんな風に見えるのか?


 顔が緩む俺を他所に「面白い冗談ですね」と、トゥナが笑顔で言葉にすると、おばあちゃんは哀れみの視線を俺に送ってきたのだ……。──勘弁してくれ……。


 この時俺は、一分一秒でも早くこの店を出たい衝動に駆られたのである……。


 ひとまず必要な物も買えた……急いで店を出ようとすると、おばあちゃんが俺の背中を軽めに二度叩き「頑張るんだよ?」と耳元で囁かれた。──何を頑張るんだよ……。


「ありがとう、またきてね」


 お店のおばあちゃんに見送られながら店を出たのだが……。


 買い物をするだけで、いたたまれない気持ちになったのは初めてだよ……。うん、明日から頑張ろう。


 次は宿屋か……トゥナが店で場所を聞いていたので、迷うことなく着くことが出来るだろう。一気に足取りが重くなったが、彼女を見失わないよう後をついていく。

 目的地に向かう最中さなか『カナデ! 良くわからないけど頑張るカナ!』と、本当よくわからない励ましの言葉を受けながらも宿へとたどり着く事ができた。


 入り口の扉を開けると、入って直ぐにカウンターその右隣には階段があり、左隣には奥の部屋につながる通路になっている。

 カウンターの壁には写真や、矢はないがボウガンまで飾られていた。


 目の前のカウンターには男が立っており「いらっしゃい」と、俺たちを迎えてくれた。──おそらく店の亭主だろう。 

 

「本日はお泊まりでしょうか?」


「えぇ~、部屋を二人分お願いしたいのだけど、いくらでしょうか?」


 亭主は、トゥナの一言を聞き何かを察したのだろうか? チラっとこちらを見たような気がしたのだが……考えすぎだろうか?


「一泊3500Gで、二部屋だと7000Gになります。食事は朝と夕方はついておりますが、それでよろしいですか?」


 トゥナは亭主の言葉に、黙って縦に首を振った。──グローリアの宿より幾分かリーズナブルな価格設定だな? 向こうは食事はついてなかったしな!


「宿泊日数はどうしますか?」


 彼の言葉に「う~ん」っとトゥナが悩んでいると「決まってないのでしたら、部屋は空いておりますので、当日の朝にまでに連絡を頂ければ大丈夫ですので」と、亭主が言葉にする。──なかなかに良心的だな……。


「ファーマ、お客さんだよ。部屋まで案内しておやり」


 亭主が、奥の部屋に向かって大きな声で誰かを呼ぶと、奥の部屋から小学校低学年ぐらいの、ファーマと呼ばれた少年が現れた。


  少年は俺達の前に歩いてくると「ん、荷物持つ」とだけ話し、手を出してきた。──無愛想だな……。


「持ってもらうような荷物ないから大丈夫だよ」


 事実、荷物はアイテムバックに全部いれてあるので、少年に持ってもらうような荷物は何一つ持ち合わせていなかったので、俺は彼に断りの言葉を掛けた。


「それっ」


──っん?


「それ持ってってやるよ」


 少年が指を差しているのは、店に入ってぶつけるのが嫌だったから手に持っていた無銘だ……。


「こら! ファーマ! お客様になんて口の聞き方をしてるんだ!」


 怒る亭主を他所に、手を出し続けるファーマ……まいったな……。


 その姿を見かねたのか、トゥナが「それじゃ~私の剣を持ってもらおうかしら?」と、気を聞かせてくれた。


「そっちの方が格好いいもん……」と、ファーマは引く気配がない。


「お客様申し訳ありません。この子も何か仕事をしたいみたいで……。ちゃんと言って聞かせますから……」


 亭主の言葉に、俺は手をあげ「大丈夫ですよ」と制止をする。

 鞘の下緒をほどき刀が抜けないようにグルグル巻きにした。──流石に抜ける状態じゃ危ないからな?


「カナデ君……いいの? 大切なものなのよね……?」


「まぁ~鞘に納めてあるし。この前はトゥナに怒鳴っちゃっただろ……? 少し寛大になった方が無銘を作った人も……じいちゃんも喜ぶだろう……。それにこの小僧……中々見る目があるみたいだからな」


 理由は色々つけたが、無銘の方が格好いいと言われ嬉しくなったのが本音だ。


「ほら、絶対にぶつけるなよ?」


少年は黙って頷き、二階に上がる階段まで走ると「部屋はこっちだよ!」と、そう言うと階段を登っていった。


 俺も目を離さないように急いでついていくのだが……。──あ! 今ちょっとゴンって鳴った!


「ココとソコが部屋だよ」


 そう言いながらファーマは、俺に無銘と部屋の鍵を渡した。──よかった……。どこにも傷はないようだ。


「持ってくれてありがとう……」そう言ったものの、この時の俺は多分上手に笑えてないと思う。


 再び手を出す少年に、トゥナが「二人分のチップね」と、500Gほどのお金を手渡した……。すると笑顔で「ありがとう、お姉ちゃん」と、一階へと走り去っていったのだ。──俺の時と態度がちがうぞ?


 その後俺とトゥナは、食事の時に会う約束をして別々の部屋に入った。


 俺は部屋に入ると早速、わらのベットに身を任せた。


「ミコ出てきていいぞ」

 

 その言葉と共に、無銘が輝き、一匹妖精のような女の子が現れた……。本人曰く精霊らしいが、どちらでもいいか?


「んあぁ~、やっと手足が伸ばせるカナ!」


 そんな彼女の姿を見て、先ほどの事を思い出す。


「さっき坊主に無銘渡したとき、念話で勝手に話さなくて偉かったな?」


 指で気まぐれにミコの頭を優しく撫でてやると「エヘヘ、もっと誉めるカナ!」と、上機嫌で俺に花が咲くような笑顔を俺に向けてきた。

 当たり前なんだけどな? とか思いつつも、今後外で余計な事をしないためもココは誉めとこうと、この後飽きるまで彼女の頭を撫で続けるのだった……。


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