第17話 ファーマ

 トントン、トントン……。


「カナデ君、ご飯出来たみたいよ」


 目を閉じていると部屋をノックする音とトゥナのが聞こえた。──あれ……? 寝てたみたいだ……。どうやら馴れない旅で、思っていたより疲れてたみたいだな……。


「カナデ君?寝てるの?」


「ん~、起きてるよ」


 正式に言えば起きたよ、か……。


 俺のすぐ隣では、ミコが涎と腹を出しながら気持ちよさそうに寝ている。──本当に良く寝る子だよ、気持ちよさそうに寝てるようだし起こすのも悪いな……。


 このままにして食事に行こうか? そう言えば……ミコは刀についた精霊だよな? 無銘から離しても大丈夫なのか?


「カナデ君? ご飯行いかないの?」


 まぁ、マジックバックに食事はつめて持って帰ればいいか?


 ミコのお腹に手ぬぐいの様な布をかけ、ミコと無銘を置き部屋の鍵を掛けたことを確認して食事を食べに部屋を出た。


「お待たせトゥナ」


「本当待ったわよ……」


 あれぇ? 今来た所、が定番なのに……異世界には、そのお約束が無いらしい。頬を膨らます彼女に俺は「ごめんごめん」と謝った。


 彼女はそれを見て小さく微笑みながら「冗談よ、疲れてたのよね? ご飯は一階に準備してあるらしいわ」の言葉と共に俺の前を歩いて行く。


 俺とトゥナは二人で一階へ降り、カウンターの左の通路の奥に進む、そこにはいくつか並んでいるテーブルがあり、その中から料理が準備されている席に座った。


 テーブルの上には地球でも見慣れた、いくつかの料理が並べてある。

 置いてある料理は、パンと、謎の魚の切り身を使った照り焼き? 後は、コンソメ風のスープだと思われる。──食文化が、地球と大きく変わらなかったのは不幸中の幸いだよな……。抵抗なく食べることが出来る……。


  俺は席につくと、自分の目の前で両手を手を合わせ「いただきます!」と食事を始めた。

 目の前に座ったトゥナも「カナデ君の国のお祈りかしら?」と、不思議そうな顔をする。そして、真似をするように手を合わせ、小さな声で「いしゃだきましゅ?」と口にした。──可愛すぎるだろ……。


 木製のフォークの様なものを使い、 魚の切り身を口にした。──甘味が少し少ないが、ヤッパリ照り焼きの味がする……。

  照り焼きって確か醤油使ってたよな? って事は、この世界にも醤油や味噌の存在も考えられるな……。 もしくはそれに近しい調味料の存在……後で、宿の人に聞いてみようか?


 魚の照り焼きなら、個人的にはお米と味噌汁が欲しかったな……っとか思いながらも、トゥナと楽しくお話をしながら食事を取っていた。

 勿論、ミコのご飯はもう確保済みだ。──絶対後でうるさいからな……カナカナダシダシ!ってな。


「カナデ! 何処カナ! 大変ダシ! 緊急事態カナ!」


 そうだよ、まさしくこんな風にうるさいんだよ……。まったく、俺の中にあった精霊様のイメージが台無しだよ……。そもそも精霊ってのイメージってのはな? こう……美しく繊細で……神々しい様な……。


「カナデ君? ミコちゃん呼んでるけどいいの?」と、トゥナが俺の後ろを指差している。


── ん? 彼女の指摘で俺が振り向くと、そこには大声で俺を探しながらフラフラ宙を飛んでいるミコの姿があった……。


「何でだよ!」


 俺は慌てて席を立ち、飛びつく様にミコを捕獲してマジックバックの中に詰め込んだ。


「ミコ、お前誰にも見られてないよな!」


 あれほど大事になるから、勝手に出歩くなって言ってあるのに……本当に学習能力が無いやつだな……。


「カナデ! それどころじゃないカナ! 無銘が…無銘が持っていかれちゃったシ!」


 無銘が持って行かれた? そりゃ~刀なわけだし、持ち運びするための物…………。


「──はぁぁぁぁ!」


 なんでだよ? 部屋に鍵はかかってただろ……? この世界じゃ、盗難なんて当たり前なのか?


「ミコ! 無銘は何処に持ってかれたんだよ!」


「外! 外に走ってたカナ!」


 俺は慌てて宿を出ると「あっちカナ!」と、マジックバックから指をさすミコ……。──くそ……小さい村の割に思ったより人が多いな……。


 目を凝らしよく見ると、かな~り遠目に刀を抱えた少年が走り去っていくのが見えた。


「あれか!」


 俺は少年に向かって全力で駆け出した。──くそ! あの後ろ姿、宿屋の坊主じゃないか! そりゃ、鍵をかってあったはずの部屋に簡単に忍び込めるわけだ。


 この時、全力で走って驚いた……。かなり離れていたはずなのにグイグイ追い付く…。

 相手が子供だからか……? いや違う……体が軽く感じる。明らかに普段より早く走れている……。でも今はそんなことよりも……。


 無銘を抱えて走る少年が、目前まで迫っている。


「おい! 坊主! 俺の刀返しやがれ!」


 俺の声に気付いたのか、少年は振り返ると慌てた顔見せ、がむしゃらに走り、人の間を、障害物をかき分けていく。


「カナデ!逃げちゃうカナ!急ぐカナ!」


「分かってるって!」


 俺の方が圧倒的に早くても、地の利は向こうにある。加えて歩き回っている村人達が邪魔だ……!

 とっさの判断で、壁を蹴り建物の屋根に登った。──す、すげぇ~何となく出来る気がしたけど……本当にできちまった……。


 そして、屋根の上を少年に向かって最短で走る……。まったく……この世界に来て、短い合間に俺もずいぶん人間離れしたものだな!


 少年は俺を見失い戸惑ったのだろう。俺の姿を探すために足を止めたのだ。──今がチャンスか!


 俺は 屋根から飛び降り、少年の背後へと着地した。

 

 音に驚き少年は驚き振り返ろうとするが「ほら、おいたは終了だ」と無銘を奪い返し、空いてる手で坊主の首根っこをつかんでやった。


「なんで後ろにいるんだよ! 離せよ!」


「嫌だね! お前の保護者共々説教してやる!」


 俺は抵抗する子供を、引きずりながら宿屋へと戻った……。──回りの目が痛いけど気にしない! 俺は悪くないしな!


 宿屋に着くと、トゥナと店の亭主が申し訳なさそうな顔で出迎えしてくれた。


「まことに申し訳ございませんでした」と、宿に着くなり亭主が俺に、見事な最敬礼を見せた。


 それは当然、周囲からの視線を一点に集める結果に……。──不本意だけど、最近注目を集めることにも慣れてきてしまったな……。


 そうこうしてる最中も坊主は「離せって!」と暴れている……。


「取りあえず、宿の中で話をしよう」


 俺はそのまま少年を引きずりながら、宿屋の中に入っていった。

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