第8話 刀匠の刀 命名
「ほら~カナデ、剣の名前教えるカナ!」
ミコの言葉に、手に持っている刀を横にし、
「なぁ、それって無いとダメなのか?」
「だめカナ!」
参ったな……この刀は、生前じいちゃんが死ぬ直前に打っていたものだ。しかし、どういうわけか銘を打つ前に死んでしまったらしく、ソコには銘が無かったのだ。
もしかしたら、あえて残さなかったのかもしれないが……。
そう言えば残された刀は何振りもあったな? その中で一番良いと思ったものを形見として残したつもりだったのだけど……今思うと、じいちゃんにとってこの刀が『真打』※3では無かったのかも知れないな……。
本来であれば、銘に刻まれる名は
「すまないミコ……こいつには名前が無いんだよ」
「そうなのカナ? じゃぁ使い手がカナデなんだから、カナデが決めるといいと思うシ!」
──っえ?
そんな適当でいいのかよ……? でも名が……銘が無ければ困るなら、つけるしかないよな?
う~ん、普通に考えれば帯刀の銘を与え、名刀帯刀、とでも呼ばれるべきだろうか?
でも……俺がここでソレを名付けるのはおかしい気がする。
帯刀の銘は、俺がじいちゃんを越えたときの為に取っておこう。
しかし、そうすると名前が思い付かないんだよな……あまりおかしな名をつけたくもないし……。銘がない……か。
「ん?
「無銘……? それ、いいんじゃないカナ! 格好いいと思うシ!」
奉納用の刀には、あえて銘を打たないこともある。神様まで届く刀の意味を込め、無銘の銘をつけさせてもらおう。まぁ、完全に後付けの理由だけど……。
「じゃぁ~、契約するからそのまま持っててほしいカナ」
その声を聞き、無銘の柄を元に戻し目の前に横にして構える。──契約とか……少しだけ格好いいな。粋かもしれないな。
ミコは無銘の目の前で浮かび、両手を胸の前に握る。それは、まるで何かに祈っているようにも見える。
──すると突然、無銘を持っている俺を中心に、足下に光輝く魔法陣のようなものが現れたのだ。
魔方陣からは、激しい風が巻き起こり部屋にある少ない荷物が、部屋のいたるところに飛ばされていく。
「お、おい。これ大丈夫なのか?」
俺の質問が、彼女にはまるで聴こえていない様子だ。
ミコの瞳は虚ろになっており、何やらブツブツと言い始めたのだ。
「今此処に入る者、契約の儀を行うものなり。此処に誓うは
呪文のようなものを言い終わると風が吹き止み、ミコが目が開けれないほど眩しく輝きだした。その
──これで終わりなのか…?
部屋の中を見ると、ミコの姿は見当たらない。本当に無銘の中に入ったようだ……。
急に吹いた風で、部屋があれ放題だ……。
──ってなんだよ! この中二病チックなのは! 内容が思っていたより本格的で、全然ついていけなかったぞ……。
『中二病ってなんなのカナ?』
頭に突然、先程まで目の前にいたミコの声が木霊した。──なんだ…今の気持ち悪い感覚は…ミコの声……? どうやら疲れている様だな……。
『気持ち悪いとか失礼じゃないカナ? ボクのカワイイ声が気持ち悪いとか失礼じゃないカナ!』
非常に残念な話であるが……これは間違いない。俺の頭の中に、ミコの声が響いているようだ。
ミコ風に言うなら、ナンダヨソレ!って感じだ。
『真似するなカナ、似てないカナ! これはスキル
念じる話と書いて念話って事か? 考えるだけで思考が伝わるとかなのか? 漫画で良くあるあれなのだろうか……。
「漫画ってのは分からないカナ。けど、そんな感じカナ!」
え? 何? 俺の考えが読まれて……もしかして、常にミコに気持ちが伝わるってことなのか……? 最悪だ……プライバシーの侵害だろ? う~ん、やはり追い出すしか……。
『ちょっと待つカナ! 落ち着くシ!』
ミコは、再び俺の前に姿を表し「こ、こうすれば聞こえないモン!」と慌てふためいている。──余程、ほかに行く宛がないのだろうか?
「でも、常にその状態って訳にもいかないだろ?好くも悪くも目立つしな……さっきと何も変わらないようなら出てってくれよ」
「ぜ、全然違うモン! 無銘とボクは、今や心も体も繋がってる状態カナ! この姿も
心も体も繋がってるって…他に言い方はなかったのか? それにしても、隠蔽なんてスキルもあるのか……それは中々に使えそうな……追い出すにしても、それを見てからでも遅くはないか?
ミコは俺の回りをグルグルと飛び回り「ここならいい感じじゃないカナ?」それだけ言うと、ごく自然な動作で俺の道具袋を開け、頭から中に入りすっぽり収まった。
そのまま、しばらくゴソゴソと何かをして……顔だけのぞかせる。
「完璧カナ!」
完璧カナって……ミコよ、もしかして隠蔽ってこの事か……違うからな? それはただのかくれんぼの延長線だからな?
「イヤイヤ……完璧カナ、じゃないよ! お金や仕事道具だって入ってるんだぞ? どうやって出すんだよ!」
「言ってもらえれば取るシ?」
再び袋に潜りごそごそすると、中から何枚かの硬貨を出し「ほらぁ~」っと見せつけてきた。──か、可愛いじゃないか……。それにしてもこいつ、刀だけじゃなく、道具袋にも住み着く気かよ……。
そんな事を考えていると、道具袋の中から若干不思議そうな顔をして俺の顔色を
「ソレにこっちの方が……いつもいつも一人より、絶対寂しく無いと思うカナ!」
そう口にする彼女の寂しそうな笑顔と言葉が、今までの彼女が孤独で、寂しい思いをしていた事を物語っていた。──この姿を見ると……もう冗談でも出て行けとは言えないな……。
「カナデ~……やっぱりダメ……カナ?」
「ん?」
返事が無い俺を見て、不安になったのだろうか? まるでコチラの様子を覗き見る小動物の様な瞳で、彼女は見つめてくる。──表情がコロコロ変わるやつだな……確かに、一人よりは寂しくない……かもな。
「いい子にしてないと、すぐに追い出すからな? 覚悟しろよ。」
俺の言葉を聞き、まるで花が咲いたかのような……心が温まるような無邪気な笑顔を向ける。それこそ「えへへ」とか聞こえてきそうな
「えへへ、ふつつかものですが、ヨロシクお願いしますカナ。」
──言うのかよ! まるで嫁に来たような彼女の言い方に、少し苦笑してしまった。
ミコはそれを見て、不思議そうな顔で「どうしたのカナ? カナデ」と声を掛けてきた。
「あぁ、よろしくな。無銘、大切に住んでくれよ?」
「任せるカナ!」そう言って胸を叩くミコ越しに見える外の景色は、いつの間にか明るくなっている。
登る朝日と部屋のありさまを見て理解した、俺の睡眠時間は終了したのだと……。
「これは、今日は完全に寝不足だな……」
それだけ口にして、風で舞った部屋の荷物をあくびをしながら片づけるのであった。
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