第12話 運命のコンテスト
ゴルバチョフ・ロイヤル学園。全生徒。この日のために、皆、頑張ってきました。
学校中に飾りをつけ、出し物を決め、係を決め、新聞を作り、垂れ幕を作り、ステージ発表のためのパフォーマンス練習をし、音響照明係、先生達、生徒会、風紀委員、皆様、頑張りました。
そして、やってきました。
時は、文化祭当日。
「おはようございまーす!」
リビングに行くと、テーブルにはホットケーキ。
(あ、私の大好きなホットケーキが山のように積まれて置かれているぞ!)
辺りを見回す。なでしこ先輩がいない。
「ん?」
置き手紙がある。――先に行く。
「はーい!」
なでしこ先輩の手紙を読んで、すぐさま手を合わせて朝ご飯。
「いただきまーす!」
もぐもぐもぐもぐ。
「ご馳走様でしたー!」
お皿を洗い、片付け、洗面所で着替える。鏡を見る。
「ハッピーバースデー! 私!」
本日は文化祭。そして、私の16歳の誕生日。私、とうとう大人の階段を上ってしまいました!
「よーし! 行くぞ!」
どびゅーん! と走って学校へ。集合教室に集まる。
「おはようございます」
おしとやかに教室へ入る。お嬢様達がうふふときゃっきゃっと文化祭を楽しみに笑顔で待っている。その中に、一人だけ、異質な影。
(うん?)
私に振り向く。
「はっ!!!」
私はぎょっと目を見開き、跪いた。
「むねちか様!!」
「とうのらぶ!!」
むねちかなちゃんが剣を構えた。おしとやかに、にこりと笑う。
「いかがでございますか? まるさん」
「素晴らしいですわ」
私とむねちかなちゃんが顔を近づかせ、声をひそめて、秘密のお話。
「かかか、かな氏、なななんでございまするか。そそ、そのクオリティ! せせ、拙者、びっくりこんこんでございまする!」
「まる氏、これが伊集院家の本気でござる。これで優勝目指すでござる」
「かな氏、これを見るでございまする」
「うっほww これはすげえ団扇でござるww」
「私を斬ってむねちか様団扇」
「最高でござる」
「「ぐふふふふ」」
笑った後、むねちかなちゃんが思い出したように声をあげた。
「あ、そういえば」
「ん?」
「まるちゃん、お誕生日おめでとう!」
「あれ? 知ってたの?」
「今朝、LIMEで表示されたの。まるちゃん、誕生日なら言ってくれたら良かったのに」
「えへへ。なんか、照れくさくて」
「仕方ないから、持ってきてあげたよ」
むねちかなちゃんが足のつま先から太ももほどの高さの正方形の箱を腕に抱え、どすん、と床に置いた。私は見下ろす。
「……何これ?」
「誕生日プレゼント。あ、大丈夫だよ。後で寮の方に送っておくから」
「中見てもいい?」
「うん! どうぞ!」
私はリボンを解き、蓋を開ける。中身を見て、口を押さえた。
「これはっ……!」
口パクする。
「R18BL本がたっぷりぎっしり!!」
「まるちゃん、これ好きでしょう?」
むねちかなちゃんが笑顔で私を見る。
「誕生日に、あげようと思って↑」
「かな氏!(口パク)」
「大丈夫。全部、新品だから↑」
「かな氏!(口パク)」
「まるちゃん、誕生日↑ おめでとう↑」
「かな氏ぃいいい!!(口パク)」
むねちかなちゃんの腰を抱きしめる。腰についてる鞘が頬に当たって痛いが、感謝感激頭を下げる。
「かなちゃん! 大切にするね!」
「喜んでくれてよかった!」
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
「何を言う。我ら、戦友ではないか。友よ(口パク)」
「かな氏ぃいいい!!(口パク)」
先生が教室に入ってきた。
「皆さん、おはようございます。さあ、お席について」
皆でお席について、私はプレゼントボックスを椅子にして座り、先生のお話をひとしきり聞いてから、皆で講堂へ。
講堂にて、校長先生の挨拶。教頭先生の挨拶。実行委員会の挨拶がされ、
そして、……生徒会長であるなでしこ先輩がステージに上がる。
「おはようございます。皆様、今日のために、よく頑張ってくれました」
なでしこ先輩の声に、お嬢様達が皆とろけてしまう。
「本日はGL学園文化祭。最後まで楽しみましょう」
なでしこ先輩が指を鳴らす。そして、オーケストラ(GL学園の本格的すぎる吹奏楽部)によるクラシック音楽演奏によるパフォーマンスで、文化祭が幕を上げた。一般人参加有。学園のお嬢様達の家族や、知り合い、隣の学校の人達が入ってくる。あっという間にGL学園中が人で賑やかになる。警備はいつも以上に厳しいので不審者の心配はない。
「まるちゃん! どこか行こう!」
「うん!」
むねちかなちゃんと私がおしとやかに、大股で歩く。
「文化祭と言ったら焼きそばだよね!」
「うん!」
私達は廊下を歩く。教室を回る。
「まるちゃん見て! 一般人だよ!」
「かなちゃん見て! 男だよ!!」
「男だ!!」
「男じゃ!!」
「まるちゃん、見て!! 手を、っ、手を繋いで歩いてる!!」
「はぁっ!! かな氏! あれを見よ! こ、っ、小突き合っているではないか!!」
「まる氏!! あの男子達、じゃ、じゃれている!!」
「ぶっは!」
「至福じゃ!!」
「幸福じゃ!!」
「「BLじゃ!!」」
私達は微笑ましく一般人の男子達を見守る。
「まるちゃん、あんな所にお化け屋敷があるよ!」
「入ってみよう!」
私達は入ってから後悔する。
「ジャックジャック切り裂きジャックを知ってるかい!?」
「あーー!!」
「ぎゃーー!!」
全力疾走でおばけ屋敷から飛び出す。周りに白い目で見られる。
「……」
「……」
「まるちゃん、次、行こっか」
「うす」
展示を見る。
「まるちゃん、あれ見て!」
「すごーい」
中庭に出る。
「まるちゃん、焼きそばパンだよ!」
「かなちゃん、たこ焼きだよ!」
「まるちゃん、麻婆豆腐丼だよ!」
「かなちゃん、牛丼だよ!」
「まるちゃん、綿あめだよ!」
「かなちゃん、クレープだよ!」
二人でもぐもぐ廊下を歩く。
「まるちゃん、写真部の写真だよ!」
「かなちゃん、茶道部の茶だよ!」
「まるちゃん、美術部の美術だよ!」
「かなちゃん、華道部の華だよ!」
二人で好きなだけ歩き回って、かなちゃんがふと時計を見て、はっと口を押さえた。
「あ、大変! もうこんな時間! まるちゃん! 私、準備に行かないと!」
「準備?」
「プリンスコンテストだよ!」
「ああー!」
「そろそろプリンセスコンテストも準備してるはず。ほら、周りに人が少なくなってるでしょ」
辺りを見回すと、歩いている人が少なくなっている。
「皆、会場に向かったんだよ。私も行かないと」
「そっか。じゃあ、私も外で応援する準備しないとね」
「……。まるちゃん、良かったら楽屋まで来る?」
「え、いいの?」
「楽屋までなら良いはずだよ。私がいなくなったら、まるちゃん、一人になっちゃうでしょう?」
「ひぇっ!?」
私は口を押さえて、心の声が漏れる。
「かなちゃん……! イケメン……!」
「プリンス……ですから……!」
「1000パー越えちゃって」
「2000パーこの次は」
「LOVEの」
「大革命」
「「プリンスレボリューション!!」」
というわけで、私もむねちかなちゃんについていき、楽屋までお供する。扉を開けると、中にはプリンスコンテスト出場者の集まり。
「わあ、見て。かなちゃん。すごいね。皆、王子様みたい」
「まるちゃんも参加すればよかったのに」
「あはは。これだけ本格的なら無理だよ。ほら、あの人もすごくかっこいい」
「でもね、プリンスコンテストって、どちらかというと、おまけみたいなものなの」
「おまけ?」
むねちかなちゃんが頷いた。
「プリンセスコンテストが本番ね。そのおまけ。いっぱい盛り上がった末の、お遊びみたいなもの。エキシビジョンってやつ? だから、ほら、あそこも仮装みたいな人達がいるでしょう?」
男装ピエロの格好を楽しんでいるお嬢様がいる。
「いかに感動させて、笑わせるかがプリンスコンテスト。だから、言ったでしょう? まるちゃんも出て大丈夫なんだよ」
「んー。また来年考えようかな。今年は初めてだし、様子を見ておくよ」
「そうだね。良かったら来年、一緒に出ようよ」
時計が鳴る。むねちかなちゃんが時計を見た。お嬢様達も時計を見る。
「あ、まるちゃん、コンテストが始まるよ」
「モニターがあるね」
「そうなの。ここから見れるんだよ」
大きな画面のモニターで実行委員の司会者が映し出される。私の隣でむねちかなちゃんが教えてくれる。
「まず最初は会場を盛り上げるために前説をするの」
「あ、見た事あるお笑い芸人の人達だ。この人達のネタ、なでしこ先輩がテレビ見て笑ってた」
「え!! なでしこ様ってテレビを見て笑うの!!??」
「大きなイチモツ下さいで泣くほど笑ってたよ」
「なでしこ様ってイチモツで泣くほど笑うの!!??」
「なでしこ先輩お笑い好きだから」
「何それ……。まるちゃんいいな……。何そのギャップ……。なでしこ様……素敵……」
むねちかなちゃんが胸を押さえて息を吐いた。
(すごい。映画館みたいにな巨大モニター。楽屋まで豪華とは、流石GL学園)
前説で会場が盛り上がっている。
(ここになでしこ先輩が出るのか。どんな衣装なんだろう?)
帰ってくるのが遅かったのも、これの練習だろうな。
(お疲れ様です。先輩)
モニターをじっと見ていると、後ろから叫び声。
「なああんですってぇえええ!!??」
全員が振り向く。実行委員会の一人が泡を吹いていた。もう一人が肩を叩く。
「大丈夫です! 何とかします!!」
「ぶくぶく……」
「かなちゃん、何かあったのかな?」
「任せて」
不安げな空気の中、むねちかなちゃんが近づく。
「先輩、どうされました?」
「ああ、これは、伊集院さん。実は、優勝候補と謳われていた市川さんが、文化祭に来ていたイケメンにナンパされて、そのまま運命を感じてインドに渡ってしまったため、プリンスコンテストを棄権すると」
「わあ。なんて素敵な展開」
「しかし、なんてことでしょう。市川さんが着るはずだった衣装は、プリンセスコンテストの参加者にも関連がある衣装だったので、この衣装を着る人がいないとなると非常にまずいですわ」
「ちなみに、どんな衣装を?」
「あれですわ!」
実行委員会の先輩が指を差す。王子様のスーツ。
(……王子様の衣装なら、他にもいるんじゃ……)
しかし、その衣装を見た途端、参加するお嬢様達の顔が一気に青ざめ、むねちかなちゃんが頬を押さえ、悲鳴をあげた。
「ぎゃあーー!! なんてことーー!!!」
「えっ? かなちゃん、そんなに大変な事なの?」
「大変だよ!!」
「え、でも、ほら、王子様の恰好した人なら、いくらでもいる……」
「まるちゃん! よく見て!!」
むねちかなちゃんが王子様のスーツに指を差す。
「あれは、『おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい』の、王子様のスーツだよ!!」
「……おと……悪……ん? 何それ?」
私が眉をひそめると、お嬢様達もざわめきだし、かなちゃんが血の気を引かせ、パニック状態になる。
「やばいよ! プリンセスコンテストの人達も、『おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい』関連のドレスを着てるんだよ!?」
「う、うん! そうなんだ!」
「しおりちゃんも着てるんだよ! 灰被り姫がテーマの衣装なの!」
「ん? 灰被り……? う、うん、そっか!」
「それなのに、それなのに! ああ! 本場の王子様がいないなんて!!」
「んー、なんかよくわかんないけど、でも、ほら、市川さんって人が優勝する保証もなかったわけだし」
「まるちゃん、優勝じゃないの! 関連衣装を着てる人がいないって事が問題なの!」
「んー? それ、そんなに重要な事かな? かなかな?」
私が首を傾げると、実行委員会の先輩の眼鏡が光った。
「つまり、このスーツを着れる人がいれば良いということですわ」
「先輩! 無理ですわ! この衣装、とても背が高めに作られてますわ!」
「私達可愛いお嬢様だから、とても着られませんわ!」
「身長なら心配ありません! この秘密君を履けば!」
実行委員会の先輩が厚底に見えないブーツを取り出した。
「後はこのスーツを着られる人を急遽用意出来れば……!」
「はっ」
むねちかなちゃんが私を見た。
「え」
「まるちゃん!」
むねちかなちゃんの目が輝き、実行委員会の先輩に振り返る。
「先輩! ここに! 一人います!!」
先輩が、全員が、むねちかなちゃんが、――私を見た。
(*'ω'*)
『それでは、これより、第〇×回、GL学園、プリンセスコンテストを開催します!!』
会場が盛り上がる。海外から来たセレブや、ファッション業界、アパレル業界の大人達がおしとやかに拍手をする。
『今回選抜させていただいた、30名のプリンセス達です。では、一人目から出てきていただきましょう!』
ラッパが鳴る。オーケストラが演奏する。テーマに沿ったドレスを身に纏ったプリンセスが現れる。ライトに当たり、我こそはプリンセスだと歩きだす。
ある人は華麗に踊り、ある人は素敵な歌声を、ある人は愉快に演技し、ある人は笑い出す。様々なパフォーマンスを見せ、人々にアピールをする。
『続いてのプリンセスは、エントリーナンバー10番! 西園寺詩織様でございます!』
――ステージが暗くなる。――スポットライトが当たる。――ボロ服を着たしおりが現れる。雑巾で床を拭く。緑色の星が輝く。しおりが振り返った。緑色の星の光に触れてみる。光に手が触れた途端、ステージが一気に光り出す。ボロ服が美しい銀のドレスに変わった。頭にはティアラがついて、輝き、踊り出す。歌い出す。くるりと体を回すと、ガラスの靴が脱げた。手を伸ばすが、王子様が追いかけてくる。時計は深夜12時。魔法が解けてしまう。走り出す。照明が暗くなり、残されたのはスポットライト。再びボロ服に戻っている。ノックの音。しおりが扉を開ける。ガラスの靴が差し出される。靴を履く乙女。履いた途端、ステージが今まで以上に光り出した。花が咲き、小鳥が歌う。しおりが美しいドレスで踊り出す。くるくる回る彼女こそ、プリンセス。――止まり、お辞儀。
たった数分間のアピールタイムが終わった。会場からこれ以上にない拍手が沸き起こる。
「「きゃーーー!!」」
「しおり様!!」
「あああ! お綺麗すぎて涙が止まらない!」
「止めてロマンティック!」
「胸が、胸が!」
「くるしくなっ」
「くるしーくーなるっ!」
「しおり様ーー!!」
「最高ですわーー!!」
「風紀委員よ! 永遠にーー!!」
『ああ……! 私も涙が! 司会進行が出来ませんわ!』
あまりに感動して涙が止まらなくなったため、司会者が交代された。
『それでは、続いてのプリンセスに参りますわ!』
ある人はマジックを見せ、ある人は楽器を奏で、ある人は愛の詩を唄い、ある人は喜怒哀楽を見せ、それぞれの美しいパフォーマンスを発表する。
司会者が一度、深呼吸をして、マイクに向かって声を出す。
『続いてのプリンセスは、エントリーナンバー23番』
もう一度、息を吸って、その名前を言う。
『白鳥撫子様』
会場の全員が息を呑んだ。すっと、姿勢を正した。全員が静かになる。全員が黙る。会場が静かになる。人々が黙る。静寂が訪れる。
無音。
――一つの赤いライトがステージに射される。ギロチンの音が響いた。首が刃に斬り落とされた音。その直後、上からなでしこが降ってきた。人々が悲鳴をあげた。ステージになでしこが叩きつけられる。――ゆっくりと、ゾンビのように、起き上がる。血のように赤いドレス。乱れた髪を整え、なでしこが歩き出す。歩き出すと、道が赤い絨毯に敷かれたように染まり出す。ステージに向かって一本道を歩いていく。緑色の光に誘われ、歩き、なでしこが包丁を取り出した。照明がぐちゃりと歪み出す。妬み僻み嫉みに笑い、醜き悪女が包丁を振り回す。くるりと踊るたびに、何かが斬られる。悲鳴。くるりと踊りたびに、再び何かを斬る。笑い声。狂気。凶器。狂喜。妬み、僻み、嫉み。ステージの上に、憎しみを抱く義妹の影が現れる。悪女が包丁を向ける。美しき妹に向かって包丁が向けられる。悪女が睨む。鋭い目を義妹の影に向け、近づき、そっと手の力が緩む。包丁が地面に落とされる。包丁の落ちた音が不気味に会場内に響いた。歩いていく悪女。力なく、弱々しく歩き出す。しかし、振り返ることなく歩き続ける。赤きドレス。血のように燃えるドレス。火のように燃えるドレス。頭にティアラはついていない。しかしこれが妬みのプリンセス。歩き続ける。どんどんライトが消えていく。なでしこが消えていく。そして――何もなくなる。
――ステージがただのステージに戻った瞬間、沈黙が続けられた。突然、誰かが立ち上がった。
「Bravo!」
一人が拍手。二人が拍手。拍手が感染し、全員が大きな拍手を送る。
「なんてこと……」
「言葉が出ませんわ……」
「なんて言ったらいいの……」
「素晴らしい?」
「感動?」
「足りませんわ」
「これこそ心臓が震えるほどの恐怖……」
「流石ですわ。なでしこ様……」
呆然とした人々が拍手を送る。司会者が圧巻され、肩を叩かれ、はっと我に返る。
『そ、それでは! 続いてのプリンセスに参りましょう!』
次のプリンセスは思った。この後出番なんていやー! しかし時は止まる事なく参加者のアピールタイムは続く。それぞれが素晴らしいアピールをするが、皆、やはり頭から衝撃が離れない。
しおりの姿を、
なでしこの姿を、
まるで洗脳されたように離れない。
『それでは、投票のお時間です!』
30人の参加者がステージに並び、凛として立つ。会場内で投票が行われる。
『投票は皆さんのお手の紙に彼女こそプリンセスだと思った参加者の番号をチェックして、実行委員の私達にお渡しください! 投票が集まり次第、集計させていただきます!』
それでは集計まで、一旦CM!
(*'ω'*)
――一方、楽屋。
「まるちゃん、知ってるかい? このお鍋はね、魔法のお鍋なんだよ」
「なんだって。かなちゃん、それは本当かい?」
「これに具を入れるとね、あら不思議。とっても美味しいおでんに変わるんだよ」
「あら素敵」
「今なら税込み価格、2999円!」
「あらお安い!」
「皆も食べよう!」
「おでんでん」
「おでんでん」
「「ででんでんでんででんでん!」」
「れっつごー!」
「武勇伝」
「武勇伝」
「「ででんでんでんででんでん!」」
(*'ω'*)
投票結果が終わり、司会者がマイクの前に立った。
『それでは、発表です!!』
非常に僅差でございました。
『第三位』
司会者が発表する。
『水島桜子様』
投票の数がスクリーンに映し出される。拍手が起こり、水島桜子が前に一歩出て、会場の人々にお辞儀をする。
『第三位、おめでとうございます!』
水島桜子がもう一度お辞儀をする。拍手が再び強く沸き起こり、やがて止まる。
『それでは、第二位の発表です』
太鼓が鳴る。司会者が深呼吸してから、名前を読み上げる。
『第二位』
人々が息を呑む。
『――西園寺詩織様』
しおりが一歩前に出て、笑顔で一礼する。人々がざわつき、風紀委員が全員悲鳴をあげる。
「いやあああ!!」
「え!? という事は!」
「一位はやはり!」
「じおりざまぁぁああ!!」
「我々にとっては、一位でございますううう!!」
「ぎゃああああ!!」
「うぎゃああああああ!!」
「ふふっ。馬鹿な子達ね」
しおりが笑い、会場の人々にお辞儀する。
(二位か)
まあ、結果は見えていた。
(うーん、灰被り姫は失敗だったかしら?)
いいや、これは絶対成功だった。絶対成功だったけど……。
(悪役令嬢が強烈すぎたわね)
『栄えなる、第一位は』
人々がざわつき、先走った拍手をし、興奮で心臓を震わせ、発表を待ち――司会者が叫んだ。
『白鳥撫子様!!』
「なでじござまあああああ!!」
「うびゃああああああああ!!」
「なでじござまが優勝されだばあああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!!!」
生徒会役員達が飛び上がり、人々がおめでたい拍手をする。なでしこが一歩前に出て、一礼。お辞儀。三位の水島桜子を抱きしめ、離れ、二位のしおりの前に立つ。……しおりが微笑む。
「お見事でしたわ。なでしこさん」
「しおりさんも素晴らしかったです」
「約束を果たしましょう」
しおりとなでしこが笑顔で握手をした。
「今期だけ、猫ちゃんを取り締まるのは控えましょう」
なでしこの片方の眉が、ぴくりと揺れた。
「……今期?」
「ええ」
「……ふふっ。しおりさん、今期は来週で終わりますよ」
「そうですね。これから夏休み。ああ、素敵な夏休みが楽しみですわね」
「おほほ。そうですわね」
手が離れる。
「しおりさん」
「はい」
なでしことしおりが抱きしめ合う。
「だからお前が気に食わなんだ」
「お前も相当よ。生徒会長様」
なでしことしおりが離れる。二人で顔を見合わせ、笑い合う。
「「うふふふ」」
『皆様、三名のプリンセスに、大きな拍手を!』
拍手が沸き起こる。なでしこに新聞部のマイクが向けられる。
「なでしこ様、今のお気持ちを!」
「なんと申したらいいのか……。まさか、私のような者が優勝できるなど、夢にも思いませんでした。投票していただいた、皆様……」
なでしこが目を潤ませる。
「……ありがとう……ございます……」
「なでしこ様ぁぁあああ!!」
会場内が拍手で包まれる。水島桜子は健気に拍手をする。しおりもにこにこしながら拍手をする。なでしこは涙を浮かべ、一礼する。
(よし、優勝だ)
当然だ。私は生徒会長だからな。
(生徒会長に出来ないことは無い)
なでしこがにこりと微笑む。
(まるはどこだ)
目で探す。
(まる)
変な団扇を作っていた猫を思い出す。
(まる)
妬みのプリンセスが求めるのはその相手。
(まる)
いない。
(まる)
どこだ。
(まる)
『なでしこ様には、ティアラと優勝トロフィーが送られます!』
「おめでとうございます! なでしこ様!」
なでしこの頭にティアラがつけられ、トロフィーが授与される。会場が再び拍手で包まれる。
『さあ、これにて、プリンセスコンテストは終了となります。順位に入らなかった皆様もとても美しかったです。どうか会場内の皆様、プリンセス達に、もう一度大きな拍手を!!』
拍手が沸き起こる。
(拍手なんてどうでもいい)
なでしこは探す。
(まる)
子猫はどこだ。
(まる)
見ているだろ?
(まる)
私がプリンセスだ。
(まる)
どう思った?
(まる)
――すげーですね。流石です。なでしこ先輩!
そんな声が聞こえてきそうで、なでしこが目を閉じる。
(まる)
誕生日プレゼントを渡さないと。
『それでは続いては、お待ちかね! 面白おかしな、プリンスコンテストですよ! お時間ある方はどうぞ! このままご覧ください!』
プリンセス達が舞台からはけていく。会場から出ていく人達で溢れる。興味のあるセレブ達は座ったまま、くすくす笑いながら会場に残る。
『今年はどんな王子様が出場しているのでしょうか! それではいきましょう! エントリーナンバー!』
一人目の王子様が出てくる。白馬に乗って、ステージにやってくる姿に人々が拍手を送る。
二人目の王子様が出てくる。学ランを身にまとい、投げキッスを送る。
三人目の王子様が出てくる。電気タイプのモンスターの被り物で現れ、電気を送る。
プリンセスコンテストと雰囲気が変わり、一人一人がおもしろおかしく、ピエロのようにかっこよく、おもしろく振舞い、アピールしていく。
『エントリーナンバー14番、伊集院加奈王子!』
かなが瞳を輝かせて剣を構えて走ってくる。
「やあ!」
剣を振る姿に、しおりが楽屋で吹いた。
「ふふっ。かなちゃんったら、剣の振り方がなってないわ」
『エントリーナンバー!』
さっきのように真面目で、なおかつ軽く、人々も気軽に、エキシビジョンとして王子様達を眺める。一人は狼人間。一人は剣士。一人は探偵。一人はハードボイルド。様々なお嬢様の王子様が現れ、人々を魅了していく。
『それでは、最後の王子様です!』
最後の出場者に、人々が笑う準備をしてステージを見つめる。
『エントリーナンバー30番!』
楽屋で――お嬢様達が目を奪われる。しおりがはっとした。
『 』
名前を聞いたなでしこが、目を見開いた。
――王子様が現れる――。
その姿を見た途端、
全員が固まった。
全員の目の中に映った。
全員が見た。
王子様が足を動かした。
王子様が現れる。
白いスーツを着た王子様。
剣と銃を腰に巻いた王子様。
背の高い王子様。
まるで理想の王子様。
絵本から飛び出てきたような王子様。
俯く王子様。
女が王子様を見つめる。
どんな王子様か気になって見つめる。
王子様の顔が見たくて見つめる。
王子様が一本道を歩く。
人々に囲まれた中を止まる。
王子様が顔を上げた。
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